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極東4th  作者: 霧島まるは


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二戦目

「うーん」


 早紀は、夢の中でも首をひねっていた。


 自分が、健忘症にでもかかったんじゃないかと思えるほど、記憶が不鮮明になっていく気がしたのだ。


 父親どころか、母親さえちゃんと思い出せなくなってきたなんて。


「うるさいぞ」


 あっちを向いたり、こっちを向いたり。


 早紀の落ち着かない態度とうなり声に、嫌気がさしたのだろう。


 鎧の男が、その固いつま先で、早紀の尻をつつく。


「うひゃっ」


 変な声をあげて、早紀は飛びのいた。


「勝手にくつろぐな。ここは、お前の部屋じゃないんだぜ」


 鎧にしてみれば、彼女がとても呑気な姿に見えたのだろう。


 これでも、とてもとてもシリアスに、考え込んでいたというのに。


 そういえば。


 この鎧の男は、早紀の中から水を引っ張り出した。


 もしかしたら、他のものも引っ張り出せるんではないだろうか。


 彼女の、魂の契約者なのだから。


「あの…私の中に、魔力と水以外に…他に、何か、ない?」


 おそるおそる、彼に聞いてみる。


「力以外は、興味がない」


 しかし、即答で真っ二つにされるだけだった。


 あきらめざるを得ない現状に、早紀が遠い目をしかけた時。


「ああ…力か…そうか…そういう意味なら」


 ふと。


 男は、兜の中で何かを呟いた。


「水は、お前の力の折れ曲がってるところから出ているな」


 言葉がまとまったのか、男はさらりと意味不明なことを言ってのける。


 早紀は、自分の眉間がつながるほど、引き寄せなければならなかった。


 タミではないのだから、力の形だの水の出所だの言われても、さっぱり分かるはずなどないのだから。


 だが、せっかく教えてくれたのだから、せめてもう少し詳しく聞きだそうと、眉間のシワを伸ばして気を取り直した。


「それって…」


 男を見上げると。


 彼は、引っ張られるように、更に上を見上げていた。


 カタッ。


 鎧が震える。


 カタカタカタカタッ。


「おいでなすったぜ…」


 声は──歓喜に満ち溢れていた。



 ※



 一度、蝕が始まると。


 早紀の魂は、鎧に乗っ取られたようになってしまう。


 前の戦いを思い出して、行きたくないと思っていても、だ。


 強制的に目覚めさせられた時、目の前の真理の部屋のドアを開けるのを、ためらうことさえできないのだ。


 ノックもなしに開けられるのは、この瞬間だけ。


 高揚する意識に、乗っ取られまいとしながらも、早紀は飛び起きた真理と向かいあうのだ。


 すぐに。


 彼も、蝕に向かいたくてしょうがないのだから、すぐに早紀の額を指でなぞるだろう。


 そう思っていた。


 しかし、あの真理が一瞬動きを止めたのだ。


「…もし怪我を負ったら、すぐに鎧に治してもらえ。その後の医者は雇ってある」


 頭に血が昇った状態の早紀は、彼の言う言葉の意味を、瞬間的に理解することは出来なかった。


 真理もまた、それだけ言いおくと、予備動作もなく早紀の契約印をなぞるのだ。


 あっと思った時には。


 自分を、真っ黒い霧が覆っていて。


 身体中が、自由のきかない金属に変化していくのだ。


 さっきの。


 ぽっかりと、身体の中心に穴が開いている気分だ。


 隙間風が、そこを吹き抜けていく気がするほど。


 さっきの言葉は。


 上手に、考えられるはずがない。


 真理が──入ってきた。


 がらんどうの自分の内側を、生々しく埋めていく。


 その瞬間の気色の悪さと、隙間がなくなる充足感。


 相反する二つの感覚を、早紀は同時に味わわされるのだ。


 そうすると、前の倍はさらに頭に血が昇る気がした。


 鎧の感情と、真理の感情の両方が絡むせいだろう。


 二人とも、戦いたくて戦いたくてしょうがないのだ。


 さっき。


 だが、やはり考えられるはずなどなかった。


 身体の支配権を奪った真理が──空に向かって飛び出してしまったのだから。



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