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極東4th  作者: 霧島まるは


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途切れた過去

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 初めて、タミが右の手袋を外すのを見た時、早紀は言葉を失った。


 青く青く、変色した手が現れたからだ。


 そして、動けなかった。


 ここで動揺したり逃げたりすれば、彼女が不快に思うのではないかと、反射的に考えてしまったせいだ。


 早紀の部屋。


 この屋敷に来て以来、タミは頻繁に彼女の部屋に来るようになった。


 友好的ではないが、力というものへの興味は、純粋なものに感じる。


 あくまでも、魔族的な純粋、なのだが。


 そんな彼女に。


「少しだけ、魔力をもらえるかしら?」


 聞かれた時、早紀はとてもとても複雑だった。


 飛びつきたい気持ちと、危険信号の両方が、頭の中でせめぎあったからだ。


 自分が何なのか知りたい。


 その気持ちは、毎日毎日大きくなっていく。


 だが、本当に知ってしまった時──純粋な魔族でなかった場合、早紀はどうすればいいのか。


 しかも。


 それを、タミに知られることになるのだ。


 結局、はいもいいえも答えられなかった。


 いつもどおりの早紀が、炸裂してしまったのだ。


 その沈黙を、どう取ったのか。


 タミは、彼女の目の前で手袋を取ったのである。


 青い、手。


 正常な色、というよりは、変色してしまったような濁った青。


「気にしないで…いろんな力に触れていたら、こうなっただけ」


 早紀より、ひとつ年下なのを知って。


 鎧鍛冶の血筋であることを知って。


 そして、ハイクラスなのも知った。


 でも──深窓の令嬢ではなかった。


 その手を見れば分かる。


「気持ち悪い?」


 早紀に近づきながら、大きな目が見据えてくる。


 慌てて、首を横に振っていたら。


「そう…」


 青い手は、あっさりと早紀の腕に触れていたのだった。


 あ。


 理解した時にはもう遅く。


 どうやら、魔力を持っていかれたようだ。



 ※



 ノックの音。


 早紀は、またタミだろうかと思った。


 まだ、彼女が持っていった魔力の結果を、彼女は聞いていないのだ。


「はい」


 そう答えると。


 ドアを開けたのは──真理だった。


 あー。


 瞬間的に、テンションが三段階ほど下がる。


 何というかもう、顔を見るのさえ憂鬱なのだ。


 今度は、どんな一方的なお話なのだろうか。


 愛想も無愛想も浮かべないまま、早紀は彼を見ていた。


 まっすぐに、真理は彼女の方へと歩いてくる。


 いつも通りの氷の表情だったが、用件も言わずに一直線だ。


 ひぃっ。


 どこで止まるのかと思っていたら、目の前まで来られる。


 その上に、顔まで近づけてくるではないか。


 な、何事!?


 背中に嫌な汗をかきながら、早紀はそれでも心理から目を離せなかった。


 感情の読み難い黒く冷たい目が、彼女をいつになく強く捕らえている気がしたのだ。


 間近の、唇が開く。


「お前の…父親は、誰だ?」


 ひそめられた声。


 早紀以外の、誰にも誰にも聞こえないようにと、空気をかすめるほどの低い声だった。


「え? あ?」


 ギクリとした。


 真理に気づかれる要素は、なかったはずだ。


 きっかけは、海族の伊瀬との出会いだったし、鎧の男はあの調子だし。


 他は。


 あ。


 早紀は、天を仰ぎたかった。


 いたではないか。


 そう。


 タミが。


 彼女は、早紀の味方でもなんでもない。


 真理に報告したって、何ひとつおかしくなかった。



 ※


「しっ、知らない!」


 早紀は、即座に否定していた。


 ギクリとした気持ちを隠したいのもあったし、第一、本当に知らないのだ。


 この答えに関してだけは、嘘ではない。


 真理が、タミから何と聞いたのかは分からないが、この件については、深く突っ込まれたくなかった。


 否定に、間近で真理の表情が曇る。


「本当に…本当に、知らないの…見たこともないし、聞いたこともないし…」


 嘘じゃない、嘘じゃない。


 早紀は、必死に心の中で言い訳をした。


 だから早く、興味を失って。


 そして…早く離れて。


 ドアップで見るには、真理の顔は余りに心臓に悪い。


 綺麗だからこそ、たとえようもない迫力があるのだ。


 しかし、瞳は逃げたがる早紀を強く捕まえる。


「何故?」


 その声は、さっきまでとどこか違った。


 早紀を追い詰める音というよりも、純粋な疑問に近いものに感じたのだ。


 問いかけに引っ張られるように、彼女は真理の目を見てしまった。


「何故…父親のことを聞かなかった?」


 あれ?


 目を奪われたまま、早紀は質問に答えられなかった。


 あれ、どうしてだろう。


 確かに、早紀は小さかった。


 しかし、父親と母親がいて子供がいるという図式は、何となく頭にはあったような気がする。


 だから、一度くらい聞いていてもおかしくはなかった。


 もしかしたら、聞いたのに覚えてないのだろうか。


 頭の中をひっくり返してみるが、真理どころか自分自身さえ納得させる言葉は、見つかりそうにない。


 反射的に、彼女は真理の身体の影から、枕元を見ようとした。


 そこには、母親──の写真。


 自分によく似た、魔女らしくない女性が笑っている。


 見れば見るほど、記憶が曖昧になっていく。


 おかあさんと、どんな話をしたっけ。


 何て言ってたっけ。


 記憶の中の笑っている彼女との記憶が、どんどん白く霞んでいく気がした。


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