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極東4th  作者: 霧島まるは
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知らぬが仏

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 早紀は──ベッドの上に転がって、天井を見ていた。


「あ…れ…?」


 うまく記憶がつながらず、早紀は変な声を出す。


 だるい身体をむくりと起こし、きょろきょろと周囲を見た。


 誰もいない。


 何故、誰かいると思ったのだろう。


 自分でも、よく分からない。


 時計を見ると、昼過ぎというありえない時間だった。


 学校をさぼったことになる。


 朝、起きて。


 起きて──それから。


 思い出そうとしたが、記憶はつながらなかった。


「おかあさん…おは…こんにちは?」


 眉間をぐりぐりにしたまま、早紀はそれでも、母親の写真に挨拶をする。


 今日はまだ、した気がしないのだ。


 疲れてたのかなあ。


 思い当たる節は、それしかない。


 昨夜は、初めての戦いだったし、物凄く痛い思いもしたし。


 そう言えば、痛みはすっかり消えていた。


 夢の中で、鎧の男が治してくれると言ったが、本当だったようだ。


 結構、優しい人カモ。


 早紀は、そう思いながら、こそっと胸元を確認してみる。


 傷は、きらっと光る一筋が、残っているだけだ。


 けだるいのは、魔力を抜かれたせいだろうか。


 治療に必要と言われたから。


 だが、魔力さえあれば治せるという事実は、少しだけ早紀の心を軽くした。


 今後、鎧になりたくないと言っても、あの真理が納得するはずがないからだ。


 痛いのは嫌だが、いまの彼女の立場では、断ることは到底無理である。


 どんなに逃げても、鎧の男は夢に出るだろうし、鎧が必要な真理に連れ戻されるだろう。


 その真理は。


 きっと、早紀が怪我で起き上がれないと思って、学校へ行ってしまったに違いない。


 治りましたって…言った方が、いいよ、ね、やっぱり。


 余り気は進まないが、黙っておくのも変な話だ。


 夕方、帰ってきた頃に伝えるかなあ。


 だるい身体に任せて、早紀はぱたりと布団に倒れ込んだのだった。



 ※



 夕方、着替えて廊下に出る。


 いつもなら、そろそろ学校帰りの車が着く頃だ。


 廊下に出るや、修平に会った。


 会った、というのは何か変だ。


 廊下の壁に、寄りかかるようにして立っている彼を、見たという方が正しい。


 いつもの、修平の様子ではなかった。


 自分が死んだ事件以来、彼とは疎遠にしている。


 早紀の思っていたような、人ではなかったせいだ。


 いい人だと思っていたのが真逆だと、そのギャップの大きさとショックが比例する。


 元々冷たい真理の方が、よほど平気だった。


 だが、あまりにおかしい。


「あの…大丈夫ですか?」


 遠巻きに、早紀は声をかけてみた。


 非常に重そうな動きで、顔が上がる。


「あ…あぁ、気にしないでくれ」


 下がる眼鏡を戻しながら、彼は手で軽く早紀を払う仕草をした。


「でも…誰か呼びましょうか? 具合、悪そうですよ」


 修平の部屋は、そう遠くはない。


 そこまで帰れないほど、彼の具合は悪いのではないだろうか。


「ちょっと真理に、魔力を吸われただけだ…傍系のつらさだよ」


 よっと。


 修平は、何とか身体をまっすぐに戻し、しかし、よろけながら自室へ向かおうと歩き出した。


 真理に?


 立場的に言えば、修平よりも真理の方が上だ。


 その上の人間に、魔力をよこせと言われたら、拒めないのだろう。


 真理もまた、昨日の戦いで魔力を消耗したに違いない。


 ふぅん。


 人間で言うところの、献血したようなものなのだろう。


 修平の様子からすると、その内治るようだ。


 他の人から、魔力ってもらえるんだ。


 真理は、上の人間だから命令すれば、魔力はもらい放題ということか。


 早紀のような、このだるさは感じていないに違いない。


 いいなあ。


 素直に、ちょっと真理が羨ましかった。



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