知らぬが仏
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早紀は──ベッドの上に転がって、天井を見ていた。
「あ…れ…?」
うまく記憶がつながらず、早紀は変な声を出す。
だるい身体をむくりと起こし、きょろきょろと周囲を見た。
誰もいない。
何故、誰かいると思ったのだろう。
自分でも、よく分からない。
時計を見ると、昼過ぎというありえない時間だった。
学校をさぼったことになる。
朝、起きて。
起きて──それから。
思い出そうとしたが、記憶はつながらなかった。
「おかあさん…おは…こんにちは?」
眉間をぐりぐりにしたまま、早紀はそれでも、母親の写真に挨拶をする。
今日はまだ、した気がしないのだ。
疲れてたのかなあ。
思い当たる節は、それしかない。
昨夜は、初めての戦いだったし、物凄く痛い思いもしたし。
そう言えば、痛みはすっかり消えていた。
夢の中で、鎧の男が治してくれると言ったが、本当だったようだ。
結構、優しい人カモ。
早紀は、そう思いながら、こそっと胸元を確認してみる。
傷は、きらっと光る一筋が、残っているだけだ。
けだるいのは、魔力を抜かれたせいだろうか。
治療に必要と言われたから。
だが、魔力さえあれば治せるという事実は、少しだけ早紀の心を軽くした。
今後、鎧になりたくないと言っても、あの真理が納得するはずがないからだ。
痛いのは嫌だが、いまの彼女の立場では、断ることは到底無理である。
どんなに逃げても、鎧の男は夢に出るだろうし、鎧が必要な真理に連れ戻されるだろう。
その真理は。
きっと、早紀が怪我で起き上がれないと思って、学校へ行ってしまったに違いない。
治りましたって…言った方が、いいよ、ね、やっぱり。
余り気は進まないが、黙っておくのも変な話だ。
夕方、帰ってきた頃に伝えるかなあ。
だるい身体に任せて、早紀はぱたりと布団に倒れ込んだのだった。
※
夕方、着替えて廊下に出る。
いつもなら、そろそろ学校帰りの車が着く頃だ。
廊下に出るや、修平に会った。
会った、というのは何か変だ。
廊下の壁に、寄りかかるようにして立っている彼を、見たという方が正しい。
いつもの、修平の様子ではなかった。
自分が死んだ事件以来、彼とは疎遠にしている。
早紀の思っていたような、人ではなかったせいだ。
いい人だと思っていたのが真逆だと、そのギャップの大きさとショックが比例する。
元々冷たい真理の方が、よほど平気だった。
だが、あまりにおかしい。
「あの…大丈夫ですか?」
遠巻きに、早紀は声をかけてみた。
非常に重そうな動きで、顔が上がる。
「あ…あぁ、気にしないでくれ」
下がる眼鏡を戻しながら、彼は手で軽く早紀を払う仕草をした。
「でも…誰か呼びましょうか? 具合、悪そうですよ」
修平の部屋は、そう遠くはない。
そこまで帰れないほど、彼の具合は悪いのではないだろうか。
「ちょっと真理に、魔力を吸われただけだ…傍系のつらさだよ」
よっと。
修平は、何とか身体をまっすぐに戻し、しかし、よろけながら自室へ向かおうと歩き出した。
真理に?
立場的に言えば、修平よりも真理の方が上だ。
その上の人間に、魔力をよこせと言われたら、拒めないのだろう。
真理もまた、昨日の戦いで魔力を消耗したに違いない。
ふぅん。
人間で言うところの、献血したようなものなのだろう。
修平の様子からすると、その内治るようだ。
他の人から、魔力ってもらえるんだ。
真理は、上の人間だから命令すれば、魔力はもらい放題ということか。
早紀のような、このだるさは感じていないに違いない。
いいなあ。
素直に、ちょっと真理が羨ましかった。




