詐欺師
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「あ…」
真理の魔力を吸って、一時的に意識を回復した早紀だったが、長い覚醒ではなかった。
一瞬だけ目が合ったが、その目はすぅっと閉じられたのだ。
ようやく彼女の身体が、「休みたい」という欲求を表した証拠だった。
ふぅ。
とりあえずは、最低限の魔力には達したようだ。
真理は、引き上げようと思った。
が。
握られた手は、離れなかったのだ。
おい。
冷ややかに、その手を見ると。
これまた図々しいことに、引き続き真理の手を通じて、魔力を吸い続けている。
まだ、全然足りていないと言わんばかりに。
何という、食欲。
呆れながら、その安らかな寝顔を見る。
こんな静かな寝顔で、物凄い食欲だった。
本当に。
真理は、思った。
本当に、厄介な憑き魔女だ。
早紀が鎧である以上、真理が死ぬまで付き合う羽目になるだろう。
主から、遠慮なく魔力を吸うような魔女と。
まあ、本人は覚えてないのだろうが。
いや。
覚えていられては、困る。
いつも魔力を分けてやると思われるのは、非常に問題があった。
魔力対策も、必要なようだ。
それからしばらくして。
ようやく満足してきたのか、早紀の手が緩む。
振り払うことは出来ただろうが、無理にそうすると今度こそ、彼女が完全に覚醒して、真理が何をしていたか気づきそうだったのだ。
緩んだ手をほどき、真理はベッドから立ち上がり──かけて、よろけた。
思いのほか、早紀に持っていかれたようだ。
これでは、真理の方に問題が出る。
どこかで、魔力を補給しなければ。
ああ。
残酷にも、彼はすぐに心当たりを思いついた。
修平がいた、と。
※
修平を、自室へ呼んだ。
彼は、真理に魔力を与えるのを拒めない。
分かっていたからこそ、遠慮なく魔力を吸い上げた。
男の手を握って、ゆっくり吸い上げる酔狂はなかったので、負担がかかるのは分かっていたが、一気に奪わせてもらう。
今度よろけるのは、修平の方だった。
そんな彼に。
『魔力供給者』も、手配させることにする。
出撃の度に、こんなに持って行かれては困ると、修平も思ったのだろう。
すぐに手配すると言って、ふらふらと真理の部屋から出て行った。
世の中には、いろんな魔族がいる。
その中に、階級と能力は低くても、無駄に魔力が余っている存在もいるだろう。
そういう人間を、一人置いておけば便利だと、よくよく分かったのだ。
真理の父親は、憑き魔女は持たなかった。
遠い遠い記憶の話なので、確実ではないが。
もし、父親が生きていたならば、魔女を生かすことに反対しただろうか。
「……」
ふと。
真理は、顔を扉へ向けた。
早紀の気配がしたのだ。
リンクしてしまったせいで、早紀のあの能力は、真理には通用しない。
近くにくれば、はっきりと気配が分かるのだ。
どうやら、真理の部屋に入りたいようで。
ここからが、早紀は長い。
昨日の蝕の時には、飛び込んできたが、あれは非常時だ。
通常の彼女は、真理を怖がっているので、部屋に入るのに長い時間戸惑う。
「……入れ」
気配が、ざわざわとうるさいので、真理はさっさと先手を打った。
扉まで迎えに行ってやる気力は、まだ彼にはない。
気配が、びくぅっと飛び跳ねる。
「し、失礼します」
言葉と同時にノックという、奇妙な組み合わせの後──扉が開いた。
※
早紀の顔色は、かなりよくなっている。
まだ完全ではないのは、当たり前だ。
あれ以上、真理の魔力を分けてやっていたら、彼の方が動けなくなっただろう。
「あ、あの…怪我…治りました」
やはり、真理のことは覚えていないような話が、ちんたらと始まった。
そうだ、傷だ。
その点については、彼も気になるところがある。
「自然に治癒したのか?」
問いかけると、問われること自体に、早紀が驚いた顔をした。
「分かった」とだけ真理が答えて、そのまま出て行けると思っていたのだろうか。
しかし、これから傷を負わないということは、考えられない。
少なくとも真理はまだ、真っ向勝負について、あきらめる気はなかったのだ。
だから、必要な情報は早紀から引き出しておく必要があった。
「あ、いえ…鎧が、治してくれると言って…」
早紀は──思いがけない言葉を吐く。
「鎧が?」
早紀は、真理と鎧と、半分ずつの契約をしたのだ。
その鎧が、彼女を生かそうと助けることがあっても、確かにおかしくはない。
真理が、魔力を分け与えたように。
だが。
「はい、鎧が魔力をくれたら治してやるって…」
その補足で、真理は目を細めなければならなかった。
魔力を、くれたら?
いやな、キーワードだったのだ。
「正確に、何と言われたか覚えているか?」
はしょられ過ぎた言葉では、理解しづらかった。
「ええと…傷を治す量の魔力をくれるなら、治してやれるが、それでいいか? とか、そんなカンジで…」
とつとつ、と。
思い出し思い出しながら、早紀は鎧の言葉を伝える。
真理は、眉間を押さえていた。
この女は、バカだとはっきりと分かったのだ。
魔族が人間をたぶらかす時の、常套句のような詐欺口上だったのだ。
魔力をどのくらい必要なのか、とか確認もせずに、早く痛みから解放されようと飛びついたに違いない。
おかげで、死ぬ寸前まで魔力を引っこ抜かれている。
しかし。
呆れながらも、真理は引っかかった。
しかし──早紀が、あんな抜け殻になっても、鎧は困らないというのだろうか、と。




