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極東4th  作者: 霧島まるは


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詐欺師

---

「あ…」


 真理の魔力を吸って、一時的に意識を回復した早紀だったが、長い覚醒ではなかった。


 一瞬だけ目が合ったが、その目はすぅっと閉じられたのだ。


 ようやく彼女の身体が、「休みたい」という欲求を表した証拠だった。


 ふぅ。


 とりあえずは、最低限の魔力には達したようだ。


 真理は、引き上げようと思った。


 が。


 握られた手は、離れなかったのだ。


 おい。


 冷ややかに、その手を見ると。


 これまた図々しいことに、引き続き真理の手を通じて、魔力を吸い続けている。


 まだ、全然足りていないと言わんばかりに。


 何という、食欲。


 呆れながら、その安らかな寝顔を見る。


 こんな静かな寝顔で、物凄い食欲だった。


 本当に。


 真理は、思った。


 本当に、厄介な憑き魔女だ。


 早紀が鎧である以上、真理が死ぬまで付き合う羽目になるだろう。


 主から、遠慮なく魔力を吸うような魔女と。


 まあ、本人は覚えてないのだろうが。


 いや。


 覚えていられては、困る。


 いつも魔力を分けてやると思われるのは、非常に問題があった。


 魔力対策も、必要なようだ。


 それからしばらくして。


 ようやく満足してきたのか、早紀の手が緩む。


 振り払うことは出来ただろうが、無理にそうすると今度こそ、彼女が完全に覚醒して、真理が何をしていたか気づきそうだったのだ。


 緩んだ手をほどき、真理はベッドから立ち上がり──かけて、よろけた。


 思いのほか、早紀に持っていかれたようだ。


 これでは、真理の方に問題が出る。


 どこかで、魔力を補給しなければ。


 ああ。


 残酷にも、彼はすぐに心当たりを思いついた。


 修平がいた、と。



 ※



 修平を、自室へ呼んだ。


 彼は、真理に魔力を与えるのを拒めない。


 分かっていたからこそ、遠慮なく魔力を吸い上げた。


 男の手を握って、ゆっくり吸い上げる酔狂はなかったので、負担がかかるのは分かっていたが、一気に奪わせてもらう。


 今度よろけるのは、修平の方だった。


 そんな彼に。


『魔力供給者』も、手配させることにする。


 出撃の度に、こんなに持って行かれては困ると、修平も思ったのだろう。


 すぐに手配すると言って、ふらふらと真理の部屋から出て行った。


 世の中には、いろんな魔族がいる。


 その中に、階級と能力は低くても、無駄に魔力が余っている存在もいるだろう。


 そういう人間を、一人置いておけば便利だと、よくよく分かったのだ。


 真理の父親は、憑き魔女は持たなかった。


 遠い遠い記憶の話なので、確実ではないが。


 もし、父親が生きていたならば、魔女を生かすことに反対しただろうか。


「……」


 ふと。


 真理は、顔を扉へ向けた。


 早紀の気配がしたのだ。


 リンクしてしまったせいで、早紀のあの能力は、真理には通用しない。


 近くにくれば、はっきりと気配が分かるのだ。


 どうやら、真理の部屋に入りたいようで。


 ここからが、早紀は長い。


 昨日の蝕の時には、飛び込んできたが、あれは非常時だ。


 通常の彼女は、真理を怖がっているので、部屋に入るのに長い時間戸惑う。


「……入れ」


 気配が、ざわざわとうるさいので、真理はさっさと先手を打った。


 扉まで迎えに行ってやる気力は、まだ彼にはない。


 気配が、びくぅっと飛び跳ねる。


「し、失礼します」


 言葉と同時にノックという、奇妙な組み合わせの後──扉が開いた。



 ※



 早紀の顔色は、かなりよくなっている。


 まだ完全ではないのは、当たり前だ。


 あれ以上、真理の魔力を分けてやっていたら、彼の方が動けなくなっただろう。


「あ、あの…怪我…治りました」


 やはり、真理のことは覚えていないような話が、ちんたらと始まった。


 そうだ、傷だ。


 その点については、彼も気になるところがある。


「自然に治癒したのか?」


 問いかけると、問われること自体に、早紀が驚いた顔をした。


「分かった」とだけ真理が答えて、そのまま出て行けると思っていたのだろうか。


 しかし、これから傷を負わないということは、考えられない。


 少なくとも真理はまだ、真っ向勝負について、あきらめる気はなかったのだ。


 だから、必要な情報は早紀から引き出しておく必要があった。


「あ、いえ…鎧が、治してくれると言って…」


 早紀は──思いがけない言葉を吐く。


「鎧が?」


 早紀は、真理と鎧と、半分ずつの契約をしたのだ。


 その鎧が、彼女を生かそうと助けることがあっても、確かにおかしくはない。


 真理が、魔力を分け与えたように。


 だが。


「はい、鎧が魔力をくれたら治してやるって…」


 その補足で、真理は目を細めなければならなかった。


 魔力を、くれたら?


 いやな、キーワードだったのだ。


「正確に、何と言われたか覚えているか?」


 はしょられ過ぎた言葉では、理解しづらかった。


「ええと…傷を治す量の魔力をくれるなら、治してやれるが、それでいいか? とか、そんなカンジで…」


 とつとつ、と。


 思い出し思い出しながら、早紀は鎧の言葉を伝える。


 真理は、眉間を押さえていた。


 この女は、バカだとはっきりと分かったのだ。


 魔族が人間をたぶらかす時の、常套句のような詐欺口上だったのだ。


 魔力をどのくらい必要なのか、とか確認もせずに、早く痛みから解放されようと飛びついたに違いない。


 おかげで、死ぬ寸前まで魔力を引っこ抜かれている。


 しかし。


 呆れながらも、真理は引っかかった。


 しかし──早紀が、あんな抜け殻になっても、鎧は困らないというのだろうか、と。



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