血の神奈澤兄弟
第一巻
― 血の神奈澤兄弟と関西の悪魔 ―
第一章 関東に名を轟かせる二つの高校
関東にはいくつもの不良高校が存在する。
その中でも、不良たちの間で知らぬ者はいない二つの高校があった。
一つは――
横浜工業高校。
そして、もう一つは――
関門高校。
どちらも、数多くの不良たちが集まる名門不良校。その中で足掻き闘う者がいた。
この二つの学校には共通点があった。
それは――
仲間を見捨てないこと。
自分一人の勝利だけを求めるのではない。
仲間が危なくなれば助ける。
仲間が倒れれば支える。
一人では勝てない相手なら、全員で立ち向かう。
不良たちが集まる学校でありながら、その根底には強い仲間意識があった。
そんな二つの高校には、それぞれ頂点に立つ者たちがいる。
そしてある日。
その二つの高校の運命が、真正面からぶつかることになる。
第二章 横浜工業高校
横浜工業高校の頭。
神奈澤麗央。
身長は約163センチ。
細身の身体に、赤と金に染めた乱れたスパイラルパーマ。
顔立ちは幼く、実年齢よりも若く見える。
しかし、その鋭い目つきだけは、相手を一瞬で黙らせるような迫力を持っていた。
麗央は、普段ほとんど感情を表に出さない。
戦いになれば、目の前の相手だけを見ることではなく、仲間の位置、敵の動き、周囲の状況、次に起こる可能性、そして弟の無事。
それらを瞬時に把握し、最も有利な行動を選択する。
その冷静さこそが、麗央の最大の武器だった。
だが――
そんな麗央にも、誰にも知られたくない過去がある。
横浜工業高校のもう一人の頭。麗央の双子の弟。
神奈澤凱。
身長約163センチ。
緑と水色に染めたソフトモヒカン。
兄と同じく幼さの残る顔立ちだが、目つきは鋭い。
性格は麗央とは正反対だった。
短気で、荒っぽい、とにかくヤンチャ。
考えるより先に身体が動くタイプで、喧嘩になれば真正面から飛び込んでいく。
だが、兄への信頼だけは誰よりも強かった。
麗央もまた、凱を何より大切にしている。
二人はいつしか、周囲からこう呼ばれるようになった。
「血の神奈澤兄弟」
その異名には、二人の幼い頃の出来事が関係していた。
第三章 血の神奈澤兄弟
まだ二人が小学生だった頃。
当時、凱は、年上関係なく喧嘩に明け暮れる毎日であった。そんなある日、仲間の敵討と言って後ろから金属バットで頭を殴られた。
高校生の不良たちに捕らえられてしまったのだ。
主犯から脅迫のような電話がかかってきた麗央は、一人で凱を助けに向かった。
「お前の弟を今から殺す。場所は横浜コンクリ工場跡地だ。」プーっプーっプーっ。
電話が切れた。
まだ幼い少年だった。
怖くないはずがない。
それでもたった1人で歩き出した。
しかし、その途中で何人もの不良たちに出会くわした。拉致した高校生グループとは関係ない奴らであったが、なぜか麗央は苛立ちを抑えられず、次々と喧嘩を売り、地に伏せて行った。
一人。
また一人。
そして、また一人。
麗央は様々な不良の返り血を浴びており、歩いてきた道はまるで血の絨毯のように真っ赤に染まっていた。
本来なら、一刻も早く凱のもとへ向かうべきだった。
だが、当時の麗央はまだ幼かった。
怒りを抑えることができなかった。
やがて、凱が捕らえられている場所へ辿り着く。
そこにいたのは、七人の高校生だった。
麗央は息を切らしながら、彼らを睨みつける。
そして、低い声で言った。
「今まで肩慣らしに色々な奴を殺してきた。
十分に体が温まったし覚悟しろよ」
小学生が放つ言葉とは思えなかった。
麗央は一人で七人を相手にし、壮絶に殴り倒した。全てがスッキリしたかのように。
しかし――
その直後。
麗央の目に飛び込んできたのは、倒れている凱の姿だった。
「……凱?」
返事がない。
麗央の顔から怒りが消えた。
代わりに浮かんだのは、後悔だった。
もっと早くこればよかった。
途中で喧嘩なんかしていなければよかった。
凱を助けることだけを考えていればよかった。
麗央は、その場で涙を流した。
幸い、凱はその後意識を取り戻し、大きな問題はなかった。
しかし、この出来事は麗央の心に深く残った。
それ以来――
麗央は変わった。
かつての短気な少年は、徐々に姿を消していき、感情を抑えるようになった。
周囲を見るようになった。
戦う前に考えるようになった。
そして何より――
凱を守ることを、自分の最優先にするようになった。
それが、現在の神奈澤麗央だった。
横浜工業には、もう一人。
誰もが認める強者がいる。
真壁玄。
身長約二メートルに、巨大な身体。
鍛え上げられた筋肉に広い肩。
そして、初対面なら誰もが怯むような強面。
だが――
真壁は、元々不良ではなかった。
性格は優しく、口調も穏やか。怖い見た目がゆえに周りの人への配慮を忘れず、人助けができる奴だった。
今は、麗央と凱にとって、最強の護衛になっている。
なぜ彼が二人のそばにいるのか。
理由は一つ。
かつて麗央と凱に助けてもらったことがあるからだ。
その恩を忘れないため、そして二人を守るため。
真壁は二人の後ろにずっといることを誓った。
だから、普段の真壁は穏やかで、話し方もゆっくりで少し高い声。自分から喧嘩をするタイプではないが、麗央や凱が危険にさらされた時、その雰囲気は一変する。
声が低くなり、表情が変わる。
そして、普段からは想像できないほどの力を発揮する。
その姿を知る者たちは、こう言う。
「真壁は怒らせない方がいい。」
しかし、誰も知らなかった。
真壁には、まだその先があることを。




