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晩年こそ本番。42歳会社員、喋る猫と現代ダンジョン攻略──ここからが本番だ  作者: 七乃白 志優
第九章:盤上は世界へ、扉は奪還へ

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158話『晩成アーク、最初の受注』

そして、二つ目。


九条さんがこちらを見る。


「もう一点が、小型ゲートの攻略だ。担当を増やしたい」


柊さんが資料を開いて、日付を読み上げる。


「直近では、6月10日に6階ゲート、6月20日に7階ゲート、7月10日に最下層の8階ゲートで、それぞれスタンピードが起こります」


数字で置かれると、急に生々しくなる。


九条さんが、そこで問いを投げる。


「日本の小型ゲート、いくつあるか知ってるか?」


「以前、ポータルサイトで確認しました。2500前後、でしたか」


「現存してるのは2477だ」


九条さんはそこで一度区切って、続けた。


「多いようにも思うが、日本の市町村数が約1700。公立高校が約3300ある。市立まで含めると、4500校くらいだ」


その比較は、妙に腑に落ちた。


「……なるほど。自治体よりは多いけど、高校ほどはない、って感覚ですね」


「そういうことだ」


九条さんが短く頷く。


「問題は人手だ」


九条さんの声は変わらない。


「亡くなった帰還者もいる。ゲートを拒む帰還者もいる。階層が深くなると攻略スピードが落ち、やめる者も出る」


九条さんが、詩織の方へ視線を流した。


「早見に頼んでいた東京の二箇所も、別へ振り分けた」


詩織が一瞬だけ視線を落としてから言う。


「……すみません」


「それは構わん」


責める声ではなかった。


僕は一つ、確認を入れる。


「自衛隊に一階クリアでスキルを取らせる話は、どこまで進んでます?」


九条さんが答えた。


「今のところ3箇所のゲートで回している。ただ、リポップが7日だ。週3人ずつ増やすのがやっとだな」


柊さんが数字を見ながら補う。


「しかも、最初期の帰還者のように強力な契約モンスターが確定で付与されるわけでもありませんし、戦闘向きではないスキルも少なくありません」


九条さんが肩をすくめる。


「戦力化には、まだ時間がかかる。10階ソロで契約モンスターが得られるって情報はあるが……現実はそう甘くない」


僕は頷いた。


その上で、九条さんが本題を置く。


「時任に頼みたいのは、大阪の小型ゲートを8箇所ほどだ」


僕は一拍だけ考えた。

ここは、もう個人で受ける話じゃない。


「それ、私個人じゃなくて、晩成アークとして受けてもいいですか?」


九条さんの目が少しだけ細くなる。


「早見も込み、ってことだな」


「はい」


すると九条さんは、少しだけ条件を変えてきた。


「なら10箇所を晩成アークに任せるのはどうだ。早見には早見で、2箇所頼む予定だった」


早い。

でも、このくらいの返しの速さの方がやりやすい。


僕は頷いた。


「それで、お受けします」


隣で、詩織も黙って頷いた。

“巻き込まれた”じゃない。自分の立場で、役割を受ける顔だった。


柊さんが、手元の資料へ書き込みながら言う。


「どのゲートをお願いするか、条件や運用の詳細は後ほど整理してお送りします」


会議室の空気が一度落ち着いたところで、僕は口を開いた。


「……私からも、いくつか報告があります」


そう言うと、九条さんと柊さんが、分かりやすく少し構えた。

今の間で、はっきり分かった。


また何か持ってきた、と分かる反応だった。

警戒半分、諦め半分。そんな顔をしている。

最近の僕は、政府相手に“報告”という名の爆弾を置いていく回数が、明らかに増えている。


僕はその反応を見ないふりをして続けた。


「まず、クリア階層ですが――新大阪ゲートは55階まで到達しました」


九条さんも柊さんも、思ったより静かだった。

いや、静かというより、“もっと別の何か”を想定していた顔だ。


僕はそのまま続ける。


「担当している小型ゲートは、一つが18階。もう一つが22階まで進んでいます」


それでも、反応は薄い。

驚く準備をしていたのに、投げられた球があまりにも素直だったから、逆に受け止め方がずれた感じだ。


頭の中に、コユキの念話が落ちる。


『今回は、びっくりした顔が見れなかった』


『まだまだ』


少しだけ口元が緩みそうになるのを抑えた。


そこで、もう一つだけ足す。


「ちなみに、22階まで進んでいる小型ゲートですが、19階から22階までは、ほぼ早見さんが一人で突破しました」


今度は九条さんが反応した。


「……ほう。早見が、そこまでやったのか」


横で詩織が、少しだけ背筋を伸ばす。


「時任さんのところで、訓練を受けています」


その言い方は、前より少し柔らかくなった。

“鍛えられています”じゃなくて、“受けています”になっているあたりに、今の彼女の温度が出ている。


僕はそこで、少しだけ言い換えた。


「正確には、僕の契約モンスターたちに訓練してもらった結果です」


九条さんが眉を上げる。


「時任の契約モンスターか。そういえば、俺はまだ知らないな」


「おちゃめなモンスターです」


正直にそう言ったら、頭の中でコユキが即座に抗議した。


『おちゃめって何。ボクは有能』


『有能でおちゃめなんだよ』


『後者いらない』


そのやり取りを顔に出さないようにしながらいると、九条さんが軽く追い打ちをかける。


「22階を一人で回れるなら、一ノ瀬といい勝負じゃないか」


その名前に、詩織がほんの一瞬だけ反応した。

視線が揺れて、でもすぐ戻る。


そこをわざわざ拾わない。


「あと、もう一つあります」


そう言うと、九条さんと柊さんがまた少し構えた。


今度は、ちゃんと驚かせる自信がある。


鞄からケースを取り出して、テーブルの上に置くと、九条さんが目を細めた。


「……それは何だ」


ケースを開く。


中に収まっているのは、青い石を中核にしたネックレス。

飾りとして見れば、上品なアクセサリーにしか見えない。けど、こっちはその中身を知っている。


「精神干渉対策のネックレスです」


今度こそ、二人とも素で驚いた。


柊さんのペンが止まる。

九条さんも、さっきまでの“またか”じゃなくて、本当に一段だけ言葉を失った顔になる。


今のは、ちゃんと驚かせた。


「仕様はシンプルです」


ケースの中身を示しながら、要点だけ置いていく。


「精神干渉を三回まで防御します。発動ごとに宝石の色が、青から黄、黄から赤へ変わります。三回目で色を失って、そのまま割れます」


柊さんがすぐにメモを取り始める。


「……使い切り、ということですか」


「そうです。一般人でも使える前提で作っているので、魔力の有無は問いません。その代わり、消耗品です」


九条さんが途中で口を挟む。


「一般的な宝石付きのネックレスとの見分け方はあるのか?」


「帰還者が触れると、石の奥がうっすら光ります。一般人が触っても反応しません」


朝、94階でレグリスから預かってきた時に見た挙動を、そのまま要点だけで出す。

予定通りの仕上がりだった。さすがレグリス。


一通り説明したところで、価格も置いた。


「こちら、一つ250万円です」


隣で詩織が目を見開いた。

たぶん、今日いちばん素直に驚いていた。


「……250万」


小さく漏れた声が、妙に素直で少し可笑しい。


九条さんと柊さんも、一瞬だけ固まる。


そこで止めず、僕はそのまま続けた。


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