表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
8章 貴方が見えない世界の果てで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/198

何もかもを籠絡して

 一時期、No.0の幹部にはそれぞれに数人の部下がついていた。目的としてはやはり精霊の捜索のためであり、いくら幹部それぞれが驚異的な力を持っているからと言ってもそれが人捜しに役に立つとは限らない。そうして従えていた部下の内の数人だったが力不足なことや様々な手段で情報収集を行っていたことなどから魔術協会やそれに準ずる各国の組織に捕らえられていった。それにより情報の漏洩が止まらなくなったことでⅠやⅢ、Ⅴ以外の幹部は部下を持つこと自体をやめてしまった。

 そして目の前にいる老獪の手に提げられているあの銀時計はきっと消えてしまった部下の一人のものだろう。その部下がどんな末路を辿ったのかは正直考えたくもない。

「ワシらとしてはお前を逃がす気は毛頭無い。次にお前がここを出るのは屍となった時だと心得ておけ」

「そんなこと言って、私がオーストラリアで何と呼ばれているのかご存じでないのですか?」

「奇術師ルッチ。有名なマジシャンであることは知っている」

「なら、貴方には私が捕まえられないことが分かってるはずですよね?」

 マジシャンたるもの、人前に姿を見せるときにはすでにショーが始まっていると。なんのトリックもなしにこんなところにくるはずがない。男は無言で会話を終わらせると懐中時計を仕舞ってゆっくりと階段を降りてくる。口元は隠されているが詠唱をしながらこちらに近づいてくるのを見てⅡは堂々とした態度で相手の動きを待った。なぜならはったりだと思ったからだ。あれだけ魔術を秘匿のものとする魔術協会がこのような大衆がいるかもしれないという面前で長い詠唱を含んだ魔術など使うはずがないと高を括るのは別におかしなことではない。しかし杖を突く老獪の姿はゆっくりとしながらも詠唱を紡ぐ言の葉は途切れない。最後まで詠唱を済ませると男は足を止めて静かにⅡに尋ねた。

「この魔術協会には、魔弾ばかり使う魔術師がいるのを知っているか?」

「急になんですか?そんな人知るわけがないですよ」

「なら教えておいておこう。そいつは見えない天才だ。まぁ、ほとんど力技で済ませてしまうのが悪い癖ではあるが。私が自ら手を下さずとも、お前のいるオーストラリアで何をするか分からんぞ」

 どういうことか尋ねようとしてⅡが口を開いた瞬間、留めていたであろう詠唱の最後の一節を唱える。

「魔弾、掃射」

 そう言って彼はⅡの立っている方向、そこが道路に面しているのにも関わらず容赦なくいくつもの魔弾を飛ばした。下準備の詠唱を全く意味のなさないただただ自分の持つ魔力をぶつけるその攻撃に驚きながらもその瞬間、Ⅱは一歩引いて着弾する前に姿を消す。老獪は消えてしまったⅡを見て痛快に笑い飛ばす。

「お前たちであるまい。こんな人のいるところでそんな大がかりな魔術を使うわけがないだろう」

 彼のいた場所にはうっすらと焼け焦げた跡があるだけで被害は何もないと言っていい。

「ラスターさん、こんなところで何しているんですか?」

 ちょうど外に出かける用事のあった人がちょうど道の外を見ながら立ち止まっている彼を見て言った。ゆっくりと振りかえる老獪の口元はさきほどまで見せていた痛快な笑顔を消してまた静かな老人の姿を被る。

「なんでもない。外の空気を吸いたかっただけだ」

 中に戻る彼を見て声を掛けた少女は首をかしげた。



「それで戻ってみればこれか」

 Ⅰと交渉の末に譲り受けたこの砂時計は大いに役に立った。こうしてピンチの場面で発揮できたのだからあれだけ苦労して作ったものを渡した甲斐があったというものだ。しかしそれはそうとしてあの少女。すごく厄介だな。出会い頭に声を掛けただけなのに一瞬で見えない距離にまで転移されてしまった。さすがⅠの娘。移動系の魔術で右に出る家系はいないというのはあながち嘘じゃないのかもしれない。

 全てが隠された土地でルッチは穏やかな風に吹かれる空気を吸う。自分でも分かっている、まだ焦るような時ではないということくらいは。婆ちゃんが彼らに自分の事について話をしたのはっきり言って想定外ではあったが信頼との天秤にかければそんなものははっきり言ってどうでもいい。

 追うか野放しにするか。どちらの選択をしても良いところではあったがここはひとまず追跡を選んだ。理由はやはりあの少女。ロビンソンも脅威ではあるがこの際どうでもいい。私の監視下にある以上おかしな動きをすればすぐ分かるから。だがその少女は違う。確実にこちらの存在を見抜いているかのようなあまりにも奇妙なその動きは追跡の手を緩めない大きな理由になった。

 これ以上こちらにいても意味が無いなとⅡ自身が隠した世界の方へと自分も向かう。指を鳴らすだけで見える景色は一瞬で変わり、分からなくなった彼らの足跡を追うことにした。

 もちろん当たり障りもなく適当に探すわけではなく、彼らが向かう場所の検討はおおよそついていた。きっと彼らは魔術協会かどこかに向かうはずだ。あそこなら情報網を使って仕掛けた罠の綻びくらいは見つけることができているはずだ。それを手掛かりに私へとつながる糸を見つけるつもりなのだろうが、肝心の証拠を見つけるにはまだなはず。つまりそれを逆手に取って先回りして潰しておけばいい。

 いくつもの仕掛けられたビーコンは未だに起動していてこのオーストラリアの土地を隠し続けている。そして同時にジャミングも維持したままで、侵入者を検知する仕組みは機能しているがそれも限界を向かえつつある。Ⅱが足を踏み入れるのと同時に残り少なくなった魔力で私の侵入を私自身へと伝えた。

 やがてそれは魔力を失い、ただのガラクタとなって無防備なビーコンがチカチカと今もオーストラリアを隠すのに一生懸命になっている。

「もう少し、私との遊びに付き合ってもらいますよ」

 オーストラリアが本当に消えるまで残り3日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ