小さな支配者
「正直に言って、どうしてこんなことになっているのか僕にも分からないんです」
小さな少年は困り顔のまま言った。ルーカス・ロビンソンその人は、まだ青年にもなりきれていない程の子供で見上げるようにしながらこの状況がどういうものなのか説明して欲しいと言いたげにこちらを見ている。とは言っても僕たちもそれが分からないからここに来たのでむしろ誰かこの状況が分かる人がいればいいんだけど。
「安心しな、それならウチが全部見てたから!」
明るい声と共に活発そうな少女が建物から飛び降りてくる。背中には自分の背丈よりも幾分か大きな狙撃銃を構え、半そでの服にショートパンツを穿いて褐色の肌が彼女をより元気に見せる。
「ちょ、ウルラ!僕一人で大丈夫って言ったのに」
「そんなもじもじしてて一人で大丈夫なわけないじゃん。それに、ロンには分からないけどウチには分かること、たくさんあると思うけど?」
「それはそうだけどさ……」
だんだんと自信なさげになって言葉が尻すぼみになっていくロビンソン。どうやら二人は仲が良いみたいだ。最後には言いくるめられてしまった彼は彼女の後ろに引っ込むこととなってしまい、実際に何があったのかは彼女の口から知ることになる。
「って言ってもウチも見たことは話せるけど何が起こったかまでは分かってないんだ。あれはちょうど夜明けの頃だったかな?ロンを起こしに行こうとして家を出た時だよ。急に空全体が何かに覆われるみたいな感覚みたいなものに襲われてさ。それでとにかくマズいと思ったから慌ててロンの家に行ったら、ヤバいものをロンも感じたいみたいですぐに精霊の力を使ったんだよ」
すると彼の周りの土地だけは無事だったが他がごっそり何かに飲み込まれたみたいに消えてしまったということらしい。
「まるで夢でも見ているみたいだった。今でも夢だと思ってるけどさ」
「ウルルも見えないとなると、やっぱり魔術協会は無いか。ところで君たちは何処かの所属だったりする?」
「僕たちもその魔術協会の所属ですよ」
正確にはその支部の一つに属しているらしい。この辺りはその支部がまとめている土地らしく本部とのやり取りも行えなくなった今、唯一魔術師が束ねられている組織ともいえる。
そういうことのなのでとりあえず一旦この場を整理するためにその支部のある場所へと向かうこととなった。それと同時に魔狩師協会に連絡を試みてみたもののそもそも電波塔が機能を維持していないということもあって通信機器は総じて使い物にならなかった。
「ばっちゃん、来たよ」
「ああ、いらっしゃい。今日はたくさんお客さんもいるんだね」
「はじめまして」
魔術協会の支部だからどんな場所なんだろうと思っていたけれど、実際に見るとそれはただの一軒家だった。しかも多分これは出迎えてくれたおばあちゃんが住んでいる家だ。魔術協会なんだろなと思わせるのは壁に掛かっている魔術協会の象徴のようなマークが書かれた旗と、おばあちゃんの身に着けている羽織りがまるで編み込まれたかのように魔力を纏わせていることだ。
「あなたが、ここの支部長ですか?」
「いやぁそんな大仰な身分じゃないよ。私はただこの辺りにいる変わった子達の身寄りになる場所になればと思ってそんな大層な肩書きを引き受けただけだとも」
「すみませんそんな場所に上がり込んでしまって」
「いいや、気にしなくていいよ。話は二人から聞いているから」
酒花さんがお礼を言いながら隣にあるという客間を借りることにする。僕たちもその後に続いてロビンソンたちに招かれるまま席に着いた。
「ということで、作戦会議を始めようか」
「だな!」「ですね」
少年少女は元気に返事をするものの、僕たち乗り物疲れもあってかそんなに元気に返事をするあれもない。何より話をまとめるなら酒花さんが一番適任なのには変わりない。
「さて、とりあえず分かっていることとしてロビンソンくん」
「は、はい!」
「先祖返りの力を使って今この辺りの土地は君の支配領域になっている。間違いないね?」
「そうですね。たぶん発動した魔術の効果は受けていないんだと思います」
「一応聞くんだけど、二人はあの魔術に見覚えは?」
すると二人とも首を迷うことなく横に振った。さっきウルラといった少女が言っていた魔術。その言葉をそのまま信じるんだとしたら大陸を覆うほどの大魔術ということだ。それが、何の前触れもなくそして一人の術死によって行えるものじゃないというのは素人の僕ですら分かる。仕掛けた相手はきっと何か小細工を施したんだ。
「とりあえず、考えられることとしてまず仕掛けたのはNo.0なのは疑いようはないかな。ここまでの大魔術を使えるのはそれくらいの人しかいないだろうし」
そこまでは誰も疑うことはない。だが次の一言はサイドゥンが完全に否定することとなった。
「とりあえず、大陸が無くなるよな魔術なんて普通じゃない。大陸に干渉する魔術なんて下手をすれば神依り代を用いてなんて」
「それは無いね。だってこの大陸は無くなってなんていないんだから」
「どういうことかな?」
酒花さんは分からないといった様子で彼女に尋ねた。これまでずっと黙っていたのにも関わらずこんなところで話の腰を折るようなことを言ったんだ。彼女にも根拠がきっとあるはず。
「まず、これは神の依り代なんて大それたものを使わなくても実現可能だとも。たとえば天体を利用するみたいな方法を使えばね。そして大前提、大陸は消えてなんかいないよ。どれだけ巧妙にしたとしても綻びが多すぎる。私のこの飛行機を飛んでいる時、うっすらと窓の外を見たんだ。そこには確かに何かの気配を視た。私は自分のこの魔眼で視たものを信じているしだからこそ言うけど、君たちが見ている景色は一体なんだと思う?本当の景色は隠されているかもしれないよ」
非生物を見通す彼女の魔眼は確かに生物ではない何かを見通す力に秀でている。そんな彼女が何かの存在を感知しているということはそこに何かが存在するかもしれないということの証明なのだろうか。
「彼女の魔眼にはそういう力があるのか。確かにそれは確かめてみる価値があるね。それなら手っ取り早く確かめてみようか」
切り離されたように存在する大陸の端。その先には崖のように海が広がっているが波の音も潮の香りもしない。酒花さんが物は試しといった様子で一歩踏み出した。
「サイドゥンさんの言ったことは本当みたいだ」
彼の足はそこに落ちることも無くまるで宙を浮いているみたいだ。
「だろう。私の目は誤魔化せないからね」
自信満々に言っただけあってこの時の彼女は堂々と胸を張っていた。




