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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
6章 舞い降りる神、ただひたすらに屈すれば

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愛して愛せば、哀が深まる

「怪しいものじゃないですよっ!」

 メイニーが懸命に訴えると、それに合わせて雪広も懇願するように槍を持つ少年に寄り添うが彼は表情を変えることなくただ冷酷に家接に向かって問いただす。

「お前たちは何をしに来たんだ」

「ちょ、大智何してるの?この人たちまだ何もしてないよ」

「黙ってろ紫音。いいからお前はさっさと村に戻れ」

 やっぱりだ。彼らは本当に村の出身なんだ。

 この辺りに人が住んでいる集落があったなんてことは聞いていないし、こんなにも警戒しているところを見ると彼は外回りをしている人なのだろうか。やっと掴むことのできた手掛かりだが、このままでは自分の命が先に潰えてしまう。

 家接が少しづつ槍から離れようとすると彼はさらに槍を首筋に近づけて遂には肌に触れた。その鋭利な先が皮膚を裂いて一筋の血を流す。この人は本当に家接を殺しかねないと思った三人は、さっきまで下手に出ていた態度を改めて彼に向かって仕掛ける。

「お前達、俺の手に誰の命が握られているのか分かっているのか?」

 そんなことははなから理解していると雪広とマイクラストの連携によって四方から濁流が彼を襲った。

 しかしそれをなんなく躱しながら家接もその濁流にのみ込まれないよう槍を使って空中に投げ上げるとそのまま銛で魚を一突きするかのようにお腹に向かって突く。短剣でそれをいなして互いの距離が離れるが、その体制は槍のほうが有利だ。そのまま槍を回して後方に向かって突きを入れる。

 短剣ではそんな急には後方を向くことなんてできない。

「司る五つを反転せよ、スイッチフィール」

 メイニーの放った魔術によって大智と呼ばれた少年の体が石にされたように一瞬固まる。

 そのまま彼は地面に落ちて濁流にのまれたがそれに抵抗することも無く水の中から出られなくなっている。

「待って、彼溺れてる」

「大智くん、大丈夫!?」

 少女は慌ててその濁流の中に入っていくのでマイクラストはすぐに魔術を解く。

 水が引いていくと意識を失った彼を彼女が支える。どうやら水を飲み込み過ぎて一時的に意識を失ってしまったようだった。彼女が何度かゆすると彼も意識を取り戻して自分がどういう状況にあっているかを理解したようだ。

「俺が負けたのか。守り人失格だな」

「そんなことないよ。四人も相手にこんなに戦えるのは大智くんだけなんだから」

 どれだけの賞賛を送ったとしても彼からすればそれは些細な慰めで、それは一時的に彼の心を穏やかにするのみだ。すぐに彼は落とした槍を持って立ち上がる。それを背中に携えると黙って森の奥へと歩いていく。

「待ってよ大智くん!」

 それを静かに見ていた四人に疑問を抱いた少年はつい振り返った。

「お前達、俺たちの村に興味があるんだろ。それならついてこい。俺の恥と引き換えに族長に取り持ってやるよ」

 全員が武器をしまって彼に付いていく。これは結果オーライと言ってもいいのだろうか。

 正直分からないけど、着実に一歩は進んでいる。

 彼らは迷うことなく進んでいるように見えるけれどまったくと言ってその木々の違いや特徴を見抜くことはできない。草木が揺れる音と足音だけが響いて十数分。やっと開けたところにやってきた。

 ここがさっき見えたところなのかな?

 自信はないけれどそんな気もする。はっきりと記されたようにそこには道が存在していて集落が見えてきた。こんな真夜中なのにもかかわらず、そこには火の手があり人々の営みが垣間見える。

「本当に着いちゃった」

「順調なのはいいことだ」

 確かにそれはいいことなのは間違いない。村の中に入ると少年や少女と同じような服装をした人がたくさんいる。端的に言えば彼らは和服を着ていた。ここにも昔は外との交流があって、途中で途絶えたことが分かる。そしてその文化を今なお受け継いでいる。家屋も木造で、四人はまるでタイムスリップにでもあったような気持ちで彼らの後ろを歩いていく。

「爺さん、入るぞ」

 彼が引き戸を叩くと、そのまま中に入っていく。畳みを作る技術は無かったのか、板張りの部屋に布を敷いた布団で寝たきりになっている老人の前に正座になった。

「後ろのやつら、どうしてもこの村に入りたいみたいなんだ。俺でも勝てなかったってことはこいつらを殺すのにはそうとう労力がいる。そんなことしたら祭りが滞るだろ?邪魔は絶対にさせないからしばらく滞在させてもいいか?」

 やっぱり彼は村の中でもかなり腕の立つ人みたいだ。それなら四人でやっと抑えることができたのも納得がいった。

 老人は目を開けると見定めるように四人を見る。すると何やら少年に耳打ちすると再び彼は布団の中で目を閉じた。

「許可が出た。期限は七日。それ以上はなにがあってもこの村からは離れてもらう。いいな?」

「うん。ありがとう」

「それじゃ、さっさと出るぞ。爺さんの眠りを妨げるわけにはいかないからな」

 彼と一緒に家から出ると、そこではあの時助けてくれた少女が立っていた。

「紫音、帰って寝てろって言っただろ」

「だってみんなのことが気になって」

 ふと彼女と目が合ってあの時ちゃんと言えていなかったお礼を彼女に言う。

「あの時はありがとう」 

 続けてみんなからもお礼を言われて彼女は照れ臭そうに手を後ろに組みながら身じろぎする。

 だがそれも少しの間で、すぐに少年が彼女の頭を叩いて彼女は涙目になりながら彼に訴えた。

「何するの?これでも私、巫女なんだよ!」

「うるさい。こんなのが巫女なんて勤まるわけないだろ」

「最近冷たいよ大智。なんでそういうこと言うの?」

 彼女の涙目はそのまま悲しみの涙へと変わる。彼は一瞬戸惑ったが「ああそうか。ずっと泣いてればいい」と言ってまた森の方に向かって消えてしまった。

 彼女はごめんねと言いながら涙を拭くと、笑顔でそれをごまかした。

「気にしないで。ここ最近ずっとああなんだ。って自己紹介まだだったよね。私は額田紫音。よろしくね」

 全員が名前を言うと、彼女が握手を求めてきた。それに応じて彼女の手を握ったがその手はとても冷たく、まるで人形のよう。そのせいかさっきは暗闇であまり分からなかったけど彼女の肌はとても青白い。

「とりあえず今日はもう眠いよね。みんなの寝るところはちゃんと用意してあるから。こっちに来て」

 そう言われて連れていかれたのは空き家となっている一軒家だった。

 中に入ると全員がそれぞれに寝れるほどの部屋があって、泊まるだけなら十分すぎるほどの大きさだ。

「また明日迎えにくるから、今日はおやすみなさい」

 彼女は戸を閉めて足音を立てながら離れていく。

「私はもう疲れたから寝る」

 雪広が一番乗りで布団を被ったがその順番にはほとんど大差なく、全員が思っていたよりも疲れていて一瞬で眠りについてしまった。

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