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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
1章 あなたはきっと、生きていく
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負けそうなら、援軍を呼びましょう

 カラ爺は、そのまま着物の下から札を一枚取り出すと先祖返りの頭に貼り付けた。

 すると貼られた先祖返りはまるで力を失ったかのようにその場から動けなくなり、彼の体から出ていた霧も変化していた身体も元の状態になって倒れる。やれやれと言いながら倒れた家接を支えた。

「まったく世話が焼けるなあ、家接くんは」

 そう言って彼を背負うと雪広の方に向かう。

「雪広ちゃんも、大丈夫?」

「カラ爺遅い」

「そんなぁ。これでも急いだんだよ」

 彼の差し出す手を握って立ち上がる。服についた汚れを叩いて落とすと飴を一粒舐めた。

「それで、いったい君は誰なんだい?見知らぬ少年くん」

 カラ爺はもう一人の倒れかけの少年を覗き込む。彼はバツが悪そうにカラ爺を無視する。

 そのままこの場を去ろうとする白瀬にカラ爺は札を立てた。何も言わないまま返すつもりはないという意思表明に彼は両手をあげる。だけどなにより効果的だったのは、雪広がカラ爺の手を止めたからだ。

「待ってカラ爺。彼は敵じゃないわ。いや、敵っていう言い方も語弊があるけど少なくとも同じ職種。彼も魔狩師よ」

「そうだったのか。これはこれは失礼」

 慌ててあげていた札を隠してへこへこと頭を下げる老人。とは言っても背丈は青年と言われる年齢の白よいも大きく190は少なくともある。それでいて和装に背筋が良くて顔も朗らかとは言えない。口調だけで拭いきれない圧迫感が白瀬を緊張させる。

「俺は、魔狩師だ。隣町の蝋火会っていえば分かるか」

「あの柴野さんとこの。あぁ、どうりでこの町に。それなら僕のほうが謝らないとね。ここ一帯だけは僕の管轄だから気づかないのも無理ないか」

 首を傾げた白瀬にカラ爺は万札を渡した。謝礼のつもりで渡したお金だが、彼はそれを受け取らずに気絶している男に指をさす。

「カラ爺さんだっけ、どうして運び屋を守ろうとしている?俺たちの仕事が何か知らないのか」

「もちろん。だから家接くんには期待しているところがあるんだけどね」

 どうも話がかみ合わない。目の前の男は結局のところあの気絶している男の危険性について認知したうえで匿おうとしているってことなのか?

 少なくとも白瀬には理解しがたい所業だ。

「もういい、俺は帰るよ。だけどな、一つだけ言っとくが師匠はそれを認めないぞ。たとえ魔狩師になる要素があったとしても蝋火会の総意としてそれは許さない」

「……そうだね」

 カラ爺の返事を聞いて、彼は雑踏にまぎれる。

 気絶した家接を再び抱えると雪広にカラ爺は声をかけた。

「そろそろ帰ろうか。もう日が暮れた」

 彼に限らずこの夕刻を過ぎれば主導権は彼ら、運び屋に奪われる。

 人々は静かに過ごしていれば何事もなく夜を明かし平穏な暮らしを得ることができるのだ。

「そうね。でも、私も少しだけ考え事をしてから帰りたいから先に行っててちょうだい」

「分かったよ」

 腕を組んであごに手を当てる彼女を傍目に、角を曲がって路地裏に隠れる。

 そのまま人目につかないままあの壁の前まで向かい、安全地帯に腰を下ろした。

「確かに今回の出来事は彼女を不安にさせたかもしれない。詳細を言わなかった僕の責任だね」

 もともと放浪の身であった雪広を拾ったのは偶然だった。魔狩師として彼女は一人で生きていくことのできる才能はあっても、心を落ち着かせる場所を持ってはいない。

 そんな彼女を、言いくるめてなんとかうちにひきこんだ。

 だから、どうして僕がこんなところでせこせこと陰陽師まがいのことをしているのか彼女には言っていない。

「だけど、彼女は僕のひとことを従順に受け入れてくれた」

 魔狩師が運び屋を見逃す。

 そんなバカげた提案を彼女は了承したのだ。

「だからこそ、君には期待してるんだよ。家接くん」

 ベッドに横たわる彼に慈しみを込めた視線を送る。


 カラ爺たちと別れた後、雪広は考えていた。

「考えたら、どうして彼が魔狩師の可能性があるなんて話を私は信じたの」

 別に彼を信頼していないというわけではない。ただ、今まで排除するべき存在として扱ってきたはずの対象にそのようなことを考えるのは普通のことじゃない。

 頭が晴れないまま、ビルの屋上まで四方印で向かう。

 夜の空気は冷たくて眼下に広がる町は明るく喧しい。鉄策に指をかけて家接のことを考える。

「明日、また聞けばいいか」

 考えていると、ただでさえ疲労が溜まっているのに余計に疲れる。

「ていうかガス欠寸前なのになんで四方印使ったの?」

 我に返ると知らないビルの屋上に立っていると冷静になった。

 やっぱりダメだ。早く帰って寝よう。

 空には雲一つない。明日はきっと晴れるだろう。

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