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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
3章 消したい邪心、消えない純心

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絶氷の彩倶琉

 エレベーターで、展望回廊まで向かう。本当なら階段で行きたかったがそれを探している時間がもったいない。出ればすぐに相手がいるかもしれないという状況が故に警戒を怠ることは許されない。二人ともその扉が開く瞬間から相手からの攻撃に備えた。

「なるほどね、こっちの居場所がばれたんだ」

 電気の一切ない暗闇の中で街の光に照らされる人影が一つ。

 相手は構えていた狙撃銃を立てて立ち上がった。羽織ったマントが長い髪と共に靡く。

「女性ですか」

「なに、男女差別?」

「そういう意味ではないです。女性を痛めつけるのはあんまり得意じゃないので」

「女が男ぶるな。なんで勝てる前提なのさ」

 見え目にはとても若く見える彼女はフードを被って目線が分からない。彼女は背丈の半分以上の長さを持つ狙撃銃を手放す。地面にそれが傾いて金属音が鳴った瞬間、彼女はそのマントで隠れた右側のホルスターから銃を取り出して容赦なく引き金を引く。その際、左側にも銃が見え隠れしたのを家接は確認する。

「そこ」

 視線を家接の方に向けながら彼女は引き金を引いたため、家接はそれを避けようとエレベーターの入り口から離れる。それによって湯中と家接は引き離された状態になった。

 ドンッ!

 同時に何かが壊れたような音がした。湯中は弾丸の向かった先を見て理解した。彼女が狙っていたのはそもそも家接ではなくエレベーターのボタンだったのだと。

 これですぐには地上に戻ることができなくなってしまう。しかし裏を返せば彼女もこの部屋に二人の相手を残した状態で退路を塞いだとも言える。

 風が吹いて彼女の髪が前方に流れる。二人からすればそれは向かい風になっていて、炎の魔術を使う家接からすればとても不利な状況。それにこんなところで気軽に霧の魔術を使おうものなら間違えて落ちるかもしれない。

 そうなると頼りになるのはこの短剣と、雪広から渡された拳銃。

「確認しておきたいことがあります」

 湯中は非常に冷静に彼女に尋ねる。それを相手も無下にすることなく答えた。

「なに?投降してくれるかの確認?それならもちろんノーだよ」

「そんなことははなから確認するつもりはありません。あなた、No.0のメンバーですか?」

「そうだよ。それがどうかしたの」

 その証明とでも言うかのように、彼女の腰には懐中時計がチェーンで繋がれていた。

 質問をして時間を稼いでいる間に湯中はグローブに編まれた魔法陣を少しづつ起動していて、最高出力のタイミングで攻撃をしかけようと画策していた。もちろんそれを許したのは彼女もまた、湯中同様に反撃の機会を伺っていたからで。

「纏、鉛の器」

 家接と視線が重なる。彼が静かに頷いたのを確認して湯中は前に出た。

 少女は湯中が走り出したのを見て左の腰にあったホルスターからも拳銃を取り出す。こちらは自動拳銃で、家接に動きをさせないために狙いを定めることなく引き金を引いた。

 同時に、気づかれないように足にかけていた狙撃銃を足で宙に浮かせると左手に持った自動拳銃を上に投げて狙撃銃を構える。湯中に狙いを定めたであろう銃口の向きで引き金を引いた。

 超至近距離での狙撃銃の弾丸を避ける手段を湯中が持ち合わせているはずもなく、その銃弾は左肩を貫いた。

「—――っ!」

 その攻撃で少女に向かっていた湯中の動きも止まり、左肩を必死に抑えながらただ痛みこらえるしかなくなる。どくどくと心臓の鼓動と共に流れ出る血液が闇夜の中でも艶やかに光る。

「当たらないと高を括ったね」

「—―、な、んで」

「なんででしょう。でも、今から退場するあなたが知っても意味ないじゃんね」

 彼女から流れ出た血を足に付けると、倒れる彼女の前に陣を描く。

「でも特別に私の秘密を教えてあげる」

 苦しみに喘いでいる彼女の耳元にそっと口を近づけて微笑んだ。

「私はⅠ直属の手下。相手が悪かったってことだよ」

 そう言って描いた陣に持っているリボルバーの銃口を向ける。淡い光がそこから漏れ始めてから引き金を引いた。

「縛れ、縛れ、その血を以ってその魂を縛れ。許しは請うな、諂いもするな。我が願いはすでに果たされた」

 彼女から流れ出る血が地面に流れていくことなく、彼女の体を覆っていく。

「何をした」

「黙って見ていた君には全く関係ないよ」

「関係ある」

「ないね」

 家接はすでに先祖返りの力を解放していた。霧を一帯に撒き散らしてこちらの場所を悟らせないようにしてからすぐに彼女のもとに向かう。

 見たところかなり出血がひどい。とりあえず彼女の着ていた上着を脱がせて、それを使って出血箇所に巻き付ける。あとはこの縛りをどうにかしないと。

「どうせ、その女の子ところに行ってるんでしょ」

 見えていないはずの彼女は突如見えていないはずなのにこちらに向かって発砲する。その弾丸は耳元をかすめていき、血が滴る。

 急がないと次はほんとうに命中させられてしまう。今は風がないがまたいつ吹くか分からない。辺りに炎の魔術で移動させて位置感覚を失わせようとする。そして魔力の感知はこの霧の中では行えない。

 さっき彼女が行っていた手順を思い出す。そういえば、地面に陣を書いていた。

 地面を這うように探すと、それは見つかる。これだ。

 すぐにそれを足で歪ませると彼女についていた拘束が取れて血が地面に垂れていく。

「あとは」

 このままだと僕が戦えたとしても彼女が狙われてしまう。すぐに携帯で雪広に電話を繋ごうとするが全く出る気配がない。さっきまで屋上にいたはずだから出れないはずはないのに。

 その疑問の答えは思い出したかのように呟いた少女の言葉で解決される。

「そうだ。私の居場所を割り出した奴ならきっと今頃、別の相手とやってるよ」

「……。ならあなたを倒してすぐに合流します」

 霧を晴らして手にした短剣に炎を纏わせる。

「そうこないと」

 昂った表情で銃を家接に向けた。


「あなたがたですか、私たちの計画を邪魔しようとする人たちは」

「誰だ」

 警戒を怠っていたはずはないのに、突如として現れた存在にカラ爺はすぐに臨戦態勢を整える。

「そう怒らないでください。私たちはあのアパートにいる地縛霊について手出しをしていただかないで欲しいというお願をしに参ったにすぎません」

「残念ながら、それは無理な相談だよ」

 あくまでも毅然とした態度で応対をするカラ爺。だけども一瞬の気も抜けない。目の前の背の高いマントを羽織った背の高い男は終始余裕の笑みを見せている。

「そうですか。……困りましたね」

「お引き取り願おうか。私は今とても忙しいんだ」

「残念ですが、無理な相談です。なので一つ私から提案が」

 フードを取って現れた狐のような糸目の男が一言。

「あなたたちには死んでもらう、というのはいかがでしょうか」

「四方印、北」

 倒れいて相手に見向きもされていなかった雪広が魔術を使って相手をこの場から強制的に退場させた。

「大丈夫、雪広ちゃん?」

「あの人なんかヤバい気配がする。すぐに逃げた方が」

「そうですよね。逃げた方が良いですよね?」

 カラ爺が振り向きざまに蹴り上げるのを危ないと声に出して避ける男。

「あなた、空間魔術の使い手でしたか」

 どうやら逃げるという選択肢は、はなから無いみたいだ。

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