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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
3章 消したい邪心、消えない純心

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微睡みの泡沫

  自分の存在がふわふわと宙に浮いている。

  きっとこんな姿でいるのも心残りがあるからなんだろうなと俯瞰してみると時々思う。

  自分がこんな姿になってから早5年。いい加減に成仏してくれないかと自分を責め立てた時もあったが、結局報われないので諦める。誰もこの部屋に来ないんだ。自分が死んでから時間が経ってるのに取り立てどころか大家さんも見にこない。

「私ってそんなに価値のない人間だったっけ」

  自分ながらにガッカリするな。

  だから扉が空いた時には大いに歓喜した。知らない三人組。誰だろう。

  最初に訪れた大きな喜びとは裏腹に、少しの不安と恐怖が自分の中に巡る。様子を見てから姿を見せようと彼女は決めると窓の外から三人を眺める。

  まるで刑事みたいだな。

  彼らの所作はまるで現場調査を行う人たちのようで、部屋の隅々を調べていく。

  突如、背後から何かが飛び込んでくる音がして花菜は慌てて避ける。それは減速することなく私の部屋に突っ込むとガラスを突き破って彼女らに襲いかかろうとしていた。

「危ないっ!」

  男の子の叫ぶ声を掻き消すようにガラスの割れる音が響く。そのまま彼女らが逃げようとしたので私は追いかけようとした時、背後から嫌な感覚が取り憑くように襲いかかる。

「なに、これ.....!」

  自分の意思で体が動かない。一瞬死んでいるのに金縛りのようなものにあい、彼女は力を込めると姿を消した。これは死んでから唯一手にできた力で、その足取りで逃げ出した人たちのもとに向かう。

「私を、たすけて。お願い!」

 だけど最後まで言う前に私は姿を消さざるを得なくなる。

 まるで私を突け狙うような何かが迫ってくるのを感じてまた姿を消さざるを得なくなった。

「これなんなの?」

 このままここに居続けたら今度こそ私が私じゃなくなってしまうような気がしてその場を離れる。

 きっと、また来てくれるよね?

 そう彼らに期待しながら、今は自分のこの身を守るために彼女は逃げることを選択する。



「やっぱり、狙いは幽霊の夢原さんということになるのかな」

「そうでしょうね。死者の魂を用いた魔術及び儀式は世界中にたくさんありますし、もちろん日本にも古来からのものがいくつか伝承されているはずです」

 手始めに湯中さんの運転する車であたりを調べることにする。恐らく前回すでにカラ爺の運転している車は目撃されていると踏んで車を乗り帰る。

「夢中さんが地縛霊である以上、さっき示した範囲を超えての現界は彼女の体がもちません。もしあの部屋を狙ったのがNo.0の人だとするならここから離れているということはないはずです」

 しらみつぶしを行うように彼女は路地の間を蛇のように曲がりながら進んでいく。だが一向に男から受け取ったガラス瓶は反応を示さない。

「確か一定の距離まで来ないと反応しないんだよね」

「そのはず、です」

 ガラス瓶に頼らない魔力感知にも思うような魔力は無いように思える。

 しばらく車を走らせたが、思うような成果を得ることができなかったので休憩のために一度夢原さんの住んでいたアパートの近くにあるコンビニに停めた。

「一度休憩しましょう。夜になれば自ずと運び屋たちの活動は活発になるので」

「そうだね」

 そうして湯中さんが車から降りようとした時だった。どこからともなく接近する魔力の気配に全員が気づく。そしてその魔力が向かう先は、彼女が運転している車へと一直線。

「皆さん、伏せて!」

 言うと同時に彼女は車外に飛び出ると向かってくるその魔力を受け止める。

「纏、空の器」

 ポケットに入ったグローブを瞬時に嵌めて片手を突きだす。凡そ、飛んでくるその物体の速度からして片手で受け止められるとは到底考えられないが彼女の魔術の力はそれを可能にした。

 左拳を突きだした状態でしばらく拮抗する力。湯中はその間にも飛んできたものがなんであるかをはっきりと確認する。

「これは……矢?」

 地面に片足がめり込んでいくのを感じて、このまま押されると思った彼女は右足を軸にしてその矢を握るとそのまま飛んできた方に向かって手を離す。遠心力がかかったその矢は威力を失うことなく飛び続けている。

「追いますよ。あの矢の先に術者がいる」

 エンジンを切らないでいたのが幸いして、彼女はアクセルを踏むとすぐに発車できた。こういうときの警察とは良いもので、覆面パトカーとなったそれはサイレンを鳴らしながら大通りを高速で抜けていく。

「光った」

 ガラス瓶を持っていた雪広が呟く。近づいている証拠だ。

 なるほど、彼女が活動できるであろう範囲の外からこちらの様子を伺っていたからさっきは探知に引っかからなかったんだ。

「二人とも、戦う準備は一応しておいて。僕たちがいるとはいえ、乱戦にならないとは限らないから」

 飛んで行った矢が衝突する音がする。それは空?

 ガラスのように崩れた空のひびが広がって崩れる。現れたのは一隻の飛行艇で、矢を喰らうことを想定していなかったのか恐らく予備としての何重にも張られた障壁があったがそれを簡単に突き破って飛行船の片翼を完全に消失させていた。

「でも浮いているね」

「あの飛行艇、矢を放った人の他にも何人か乗席していますね。少なくともここからでは追撃することはできない」

「今からヘリの使用許可は」

「さすがに無理です。最低でも数時間はかかる」

 そこは国家機関。手続きを怠ることはできない。

「仕方がありません。ここは一時撤退しましょう」

 そう言って彼女が車を停めると空を飛んでいる飛行艇の写真を一枚取って携帯で送信する。

「これで」

「まずい。急いで車を出して」

 カラ爺が深刻な顔で言うのと、こちらに向かって矢が放たれたのは同時だった。空にはなんの変化もない。だけど四人は肌で感じる、魔力を帯びた何かがこちらに向かってきているのを。

「急いで!」

「はいっ」

 彼女は慌てて車を出す。数秒後、背後で爆発音と共に建物が崩れ落ちる音がした。

 肝が冷えたと同時に戦慄する。燃え盛る炎と人々の叫び。

「もしもし、今すぐに救急と消防を手配してください」

 湯中さんは冷静に対処しつつも、彼女の額には汗が流れていた。

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