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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
1章 あなたはきっと、生きていく

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妖精には祝福を与えましょう

 バスから出てきた家接を見て雪広は彼が妖精の先祖返りだと理解した。厳密には異なるかもしれないが、彼が用いた魔術は確かに妖精のものだと一目で分かる。なぜなら先祖返りの力を持った中で超自然的なものは妖精だと相場は決まっているから。おまけに彼が力を解放した瞬間に風の勢いも強くなっている。もしかしたらシルフの先祖返りなんて可能性もあるかもしれない。


 バスを降りた家接によって展開された霧が再び辺りを覆うと彼の魔力は阻害されて感知できなくなった。しかもそれが広範囲にわたったことで迂闊に中に踏み入ることもできず、居場所を把握するのが難しい。


「また芸達者だな」


「たぶん魔力が溢れて霧に溶け込んでるんだよ。私の勘だけど」


「意図的かそうでないか、どっちにしてもだろ。こんな力、今の今までよく隠せてたな」


「私に聞かれても。……来るよ!」


「分かってるよ!」


 霧の中から鎌鼬が飛んでくるのを見て二人は左右に避ける。だがそれは地面すれすれで滑空すると浮き上がってブーメランのように回転し、途中で分裂して二人に向かう追撃に変わる。


「おいおい、そんなのありかよ」


 空中であらかじめ開いておいた掌を閉じてその手と反対の握った拳を合わせて離す。刀を抜く動作は光の剣を生み出してかまいたちをすんでで受け止める。雪広はそのまま体を真っ二つに斬り裂かれるが、やはり前回彼が引き裂いたのと同様に体が繋がる。こちらも攻撃が届く前に印をすでに結んでいた。


「やっぱりそれ、せこくないか?!」


「切り札だからね。種を解けない方が悪いってことだよ」


「ああそうかい!」


 それぞれの方法でかまいたちを対処した二人は地面に着地すると、霧が晴れた先に立っている家接の姿を見る。体から漏れ出したように霧が溢れていて、肝心の本人は装束のような身のこなし、そして黒かった髪が一瞬にして真っ白になっていた。


「あれが先祖返りってやつか。俺は初めて見たな」


「私も初めてだって。ここまで急に魔力量が増えるなんて思ってもいなかった。絶対キミに使った魔術じゃ拘束しきれない」


「悪かったな、俺がそこまでの魔狩師で」


 それを言われて少しだけカチンときたのか、言い返しはするが雪広はすでに次のことを考え始めている。試しに家接に向かってシャッターを斬ってみたものの、すぐに鎌鼬の攻撃で拘束していた空間の断裂を破壊する。


「そうだ、キミ。何か拘束系の魔術は使えないの?」


「使えるわけ…………あるか。一個だけあるなそういえば」


「なら、それを使って彼の動きを止めて頂戴。もちろん隙は私が作るから」


 そう言って彼女は四方印でその場から消える。次に彼女が見えたかと思うと、それは上から落ちてくる姿だった。当然驚いて男は思わず声を掛けてしまう。


「おい、それ大丈夫なのか!」


「いいからあなたは自分のことに集中してっ!今、こっちに意識を向けさせるんだから。きゃあぁぁぁっ!」


 取ってつけたような叫び声をあげているが、そんなことをしながら落ちてくる人を無視できるほど先祖返りした家接は戦闘狂ではない。一瞬だけだが男から視線を逸らすことに成功し、照準が雪広に向いた。そのまま彼女はもう一度シャッターを斬ると空間が断裂するも家接の視線はまだ彼女に向いている。自身の動きが拘束されていることには気づいていない。


 だがすぐに空間が断裂され自分が拘束されることに気が付くと今度は霧が展開されて家接の姿がまた見えなくなる空中であまり範囲を狭められなかったので空間が断裂されている範囲は広い。中で何をしているのか分からない以上、ここは準備を続けている彼に賭けるしかない。


「ねせ、まだなの?」


「うるせえもう少しだ」


 略式は覚えていないのね。それなら仕方ない。私がもう少しだけ時間を稼ぐしか。だけど空間が断裂している内部は外から見てもパンパンになっている。きっともうすぐ限界を迎えるはず。彼女の予想は見事的中し、空間が膨張したかと思うとガラスが崩れるような音と同時に空間の断裂は失われる。


 満ちていた霧はドライアイスのように地面を這いながら拡散していった。一瞬とらえた彼にシャッターを斬ったけど残像に見える。結局、彼は捕らえられていない。なら、私がする行動は。


「やっぱり、そっちを狙うよね」


 間に合った。シャッターを斬ったと同時に先祖返りの蹴りが空間を弾く。いくら先祖返りがその本人の身体能力を上昇させると言っても一撃ではさすがに破壊できない。それに段々と彼の動きを補足できるようになってきた。次に破壊されたとしてもすぐにシャッターを斬れる自信がある。


「キミ、意識戻してくれたりしない?孝也くん」


 そう呼びかけても先祖返りをした家接の反応はない。当たり前だけど彼は今、彼であって彼ではない。再び繰り出された蹴りによって空間の断裂が破壊されると同時に鎌鼬が雪広に向かう。意識の無い彼が少しづつ学習してきている。攻撃を躱すことはできたものの、服の裾を少し切り裂かれた。


「酷いなぁ。けっこう気に入ってたのに」


「………」


「やっぱりダメだ。どうしよう」


 もう一度同じことをして時間を稼ごうと雪広が考えているとずっと準備を進めていた彼と目が合った。どうやらやっと準備を整えてくれたみたいだ。


「あとは頼んだよ。えっと、、名前なんだっけ」


「白瀬だ!白瀬佑!」


「頼んだよ白瀬」


 腰から出した鏡を投げてシャッターを斬る。鏡に写った自分の姿を斬り取ると自らだけを守ることのできる安全地帯を作りあげた。


 代わりに解除された白瀬はすでに準備万端。加えて先祖返りの背後を取っていた。これ以上の好機はな

いと言ってもいい。入念に準備を整えた彼の足元にはコンクリートに丁寧に書かれた魔法陣がある。どうにも複雑で、雪広には真似できそうにない。


「一投」


 握られたこぶしを振りかざすと、それに反応したように光の槍が先祖返りに向かって放たれる。いくら風を味方にして素早い動きを実現している彼とて、光の速さには追いつくことはできない。光の槍は確かに先祖返りの家接の胴体を貫いて地面と縫い付ける。


「二投」


 今度は胸を貫いて、なんとか逃れようとしていた心の蔵を貫く。そこで槍を引き抜こうと暴れていた動きが完全に止まった。


「三投」


 とどめの一撃。頭を貫いたそれは生命器官の封印。体を動かすのに司っている器官を二つ停止させた今、たとえ先祖返りだとしても戦うことは不可能なはず。貫いたそれが先祖返りからゆっくりと抜き取られると家接を囲むようにして三つの槍がクルクルとゆっくりと回りながら宙に浮く。槍の先に付いた血が紋様を空中に描き出して初めてその魔術は完成する。


「留めよ、光の封槍」


 これでやっと先祖返りに強力な拘束の魔術が施される。見ると、白瀬は額に大量の汗を流していてそれを腕で拭きとって顔を上げていた。かなりの体力と魔力を消耗する魔術。それゆえに予備動作も長いがその効果は折り紙つき。先祖返りでもこれには簡単に逃れるどころか、しばらくは身動き一つすら取れないはずだ。


「ありがとう白瀬。これで先祖返りが収まるのを待てればいいんだけど」


「これは発動さえすれば自律的に効果をもたらす魔術だ。俺はこの通りもう限界だが、根競べならあいつに勝ち目はないだろうな」


 先祖返りは拘束されている。大事だからもう一度言うが、先祖返りは拘束されて魔術など使う余地はない。しかし起きた事実はそこにある。


 宙にある光の槍が一つ、微かなひびを起こした。そしてそれは辿る様にして伸びていていき最終的には槍を粉々に砕け散らせた。


「は?嘘だろ」


 そんなはずはないと目を疑う白瀬に現実を突きつけるようにして、バランスを保てなくなった二本の槍も連鎖的にひびが入ると砕け散っていく。そうして動けなくなっていたはずの先祖返りは息を吹き返したかのように霧を吐いて動き始めた。


 宙には何匹かの飛び回る羽のようなものが見えた。早すぎて目では追えないけれどそれが妖精だと、先祖返りの肩に止まったことで理解する。最初からこうなることを見越して微小な力を分散していたのかな。


「よっぽど妖精に愛されてるみたい。これは無理かな」


 出せる策は出し切った。何よりもう魔力も体力もない。隣にいる白瀬はさっきの封槍をするのに大部分

の力を使い切ってしまっている。勝ち筋は残念ながらもう見つからない。


 ゆっくりと近づいてくる先祖返り。せめて白瀬だけでも。自分が誘ってしまった以上彼だけでも逃がそうとするけれど、もう一つも四方印を敷けない。魔力を大胆に使い込んだつけがこんなところでまわってくるなんて。


 立つことのできない人を前にしてその蹴り方はダメだよ。と、内心思いながら両手で思いきり向かってくる回し蹴りを受け止めようとする。もちろんそれは反射的に腕が動いているだけで、こんなことをしてもきっと私は死ぬんだろうな。


「と、思ってると思うので私が来ました」


 目の前に急に現れた男は、番傘を開いて顔が見えない。家接の風の力を身に纏った音速レベルの蹴りを悠々と片手で受け止める。それは、雪広が来るのをずっと待ち望んでいた人物だった。


「カラ爺!」


「そうです。カラ爺ですよ、雪広ちゃん」


 番傘の下から覗く顔をニヤリとしながら彼は言った。

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