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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
1章 あなたはきっと、生きていく
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妖精には祝福を与えましょう

 彼の先祖返りは妖精だと二人は確信した。

 厳密には異なるが、今分かることとして彼が用いたその力は確かに妖精のものだと一目で分かる。超自然的な力は妖精だと相場は決まっているから。

 霧が再び辺りを覆うと彼の魔力は阻害されて感知できなくなった。

「また芸達者だな」

「たぶん魔力が溢れて霧に溶け込んでるんだよ。私の勘だけど」

「どっちにしてもだろ。こんな今の今までよく隠せてたな」

「私に聞かれても。……来るよ!」

「分かってるよ!」

 霧の中からかまいたちが飛んでくるのを二人は左右に避ける。だがそれは地面すれすれで浮き上がってブーメランのように回転すると途中で分裂して二人に向かって飛んでいく。

「そんなのありかよ」

 空中であらかじめ開いておいた掌を閉じてその手と反対の握った拳を合わせて離す。刀を抜く動作は光の剣を生み出してかまいたちをすんでで受け止める。

 雪広はそのまま体を真っ二つに引き裂かれるがやはり前回彼が引き裂いたのと同様に体が繋がる。

「やっぱりそれせこくないか?!」

「切り札だからね。種を解けない方が悪いってこと」

「ああそうかい!」

 それぞれの方法でかまいたちを対処した二人は地面に着地すると、霧が晴れた先に立っている男を見る。体から漏れ出したように霧が溢れていて、肝心の本人は装束を着て耳には白く毛の生えた耳が生えていた。

「あの姿、妖精じゃないぞ」

「たぶん妖精の方は加護を受けているだけ。彼自身の先祖返りが今の姿に由来していると考えた方がいいでしょうね」

「狐、いや狗か?分からないな」

「そうだ、あなたは何か拘束系の魔術は使えるの?」

「使えるわけ、、、あるか。一個だけある」

「ならそれを使って彼の動きを止めて頂戴。隙は私が作るから」

 そう言って彼女は四方印でその場から消える。突如上から音がして見ると、叫びながら彼女が落下していた。

「おい、それ大丈夫なのか!」

「いいからあなたは自分のことに集中してっ!きゃあぁぁぁっ!」

 叫びながら落ちてくる人を無視できるほど先祖返りした彼は戦闘狂ではない。一瞬男の視線を逸らすことに成功し、照準が雪広に向いた。そのまま彼女はシャッターを斬ると空間が断裂して先祖返りは動きが取れなくなる。

 それが分かると、霧が猛烈な勢いで放出されてあっという間に空間内は霧で満ちる。雪広は四方印で地面に着地してすぐにまた四方印を敷く。中で何をしているのか分からない以上、ここは今準備をしている彼に賭けるしかない。

「まだなの?」

「うるせえ、もう少しだ」

 略式は覚えていないのね。それなら仕方ない。私がもう少しだけ時間を稼ぐしか。

 きっとそろそろ限界のはず。

 その予想は正しかった。空間が膨張したと思うとガラスが崩れる音と同時に空間の断裂は失われる。

 満ちていた霧はドライアイスのように地面を這いながら拡散していく。一瞬とらえた彼にシャッターを斬ったけど残像に見えた。彼は捕らえられていない。

 なら、私がする行動は。

「やっぱり、そっちを狙うよね」

 間に合った。シャッターを斬ったと同時に先祖返りの蹴りが空間を弾く。

「キミ、意識戻してくれたりしない?孝也くん」

 反応はない。当たり前だけど彼は今彼であって彼ではない。

 再び繰り出された蹴りは雪広の胴体を狙った容赦ないもので、服の裾を破りながらも躱した。

「酷いなぁ。けっこう気に入ってたのに」

「………」

「やっぱりダメか」

 もう一度同じことをしようと雪広が考えているとずっと準備をしていた彼と目が合った。

「あとは頼んだよ。えっと、、名前なんだっけ」

「白瀬だ!白瀬佑!」

「頼んだよ白瀬」

 鏡を投げてシャッターを斬る。写った自分の姿を斬って安全地帯を作った。

 代わりに解除された白瀬はすでに準備万端。加えて先祖返りの背後を取っていた。これ以上の好機はないと言ってもいい。

「一投」

 握られたこぶしを振りかざすと、それに反応したように光の槍が先祖返りに向かって放たれる。さきほど一瞬見せた音速の動きをしようとも、光の速さには追いつくことはできない。光の槍は確かに先祖返りの胴体を貫いて地面と縫い付ける。

「二投」

 今度は胸を貫いて、なんとか逃れようとしていた心の蔵を貫く。

「三投」

 とどめの一撃。頭を貫いたそれは生命器官の停止。体を動かす器官を二つ停止させた今、たとえ先祖返りだとしても戦うことは不可能なはず。貫いたそれが先祖返りからゆっくりと抜き取られて三つの槍が宙に浮く。先に付いた血が紋様を描き出して完成する。

「留めよ、光の封槍」

 先祖返りに強力な拘束の魔術が施される。見ると、白瀬は額に大量の汗を流してあごから垂れていた。

 かなりの体力と魔力を消耗する魔術。それゆえに予備動作も長い。

「ありがとう白瀬。これで先祖返りが収まるのを待てればいいんだけど」

「これは発動さえすれば自律的に効果をもたらす魔術だ。俺はこの通りもう限界だが根競べならあいつに勝ち目はないよ」

 先祖返りは拘束されている。

 大事だからもう一度言う。先祖返りは拘束されて魔術など使う余地はない。

 しかし起きた事実はそこにある。

 宙にある光の槍が一つ、ひびを起こした。それはたどる様に伸びていていき最終的に粉々に砕け散る。

「は?嘘だろ」

 連鎖的にバランスを保てなくなった二本の槍も砕け散り、動けなくなっていたはずの先祖返りは息を吹き返したかのように霧を吐く。

 宙には何匹かの飛び回る羽が見えた。早すぎて目では追えないけれどそれが妖精だと、先祖返りの肩に止まったことで理解する。

「よっぽど妖精に愛されてるみたい。これは無理かな」

 出せる策は出し切った。何よりもう魔力も体力もない。隣にいる白瀬はさっきの封槍をするのに大部分の力を失っている。勝ち筋は残念ながらもう見つからない。

 ゆっくりと近づいてくる先祖返り。せめて白瀬だけでも。

 自分が誘ったから関係ないと彼に四方印を敷こうとするけど、一つとして定められない。

 立つことのできない幼気な少女にそれはダメだよ。と、思いながら両手で思いきり向かってくる回し蹴りを受け止めようとする。こんなことをしてもきっと私は死ぬんだろうな。

「と、思ったので私が来ました」

 目の前に急に現れた男は、番傘を開いて顔が見えない。

 彼の人には出すことのできない音速レベルの蹴りを片手で受け止める。

「カラ爺!」

「そうです。カラ爺ですよ、雪広ちゃん」

 ニヤリと笑って彼は言った。

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