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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
2章 神出鬼没の発条人形

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すれ違う思い

「やっと一体」

 これだけ時間をかけて一体倒すことに成功した。13は影法師を解くと自身の陰にそれが戻っていく。

「もう一体もこの調子で終わらせよう」 

 家接が援護に徹する必要がなくなったことで随分と動きやすくなった。長刀の13と短剣で近距離をつく二人の攻撃は相性が良く、家接の炎で開いた弱点を13が長いリーチで追撃する。その二段構えで機動力を失った剣の人形は二人の同時攻撃で発条を破壊した。

「よし、あとは雪広を助けに行かないと」

「でも大丈夫かな」

「何が?」

「私、一度二人のことをだいぶ警戒したというか普通に攻撃したから。行っても疑われる気がするんだよね」

「そんなことか。多分大丈夫だよ」

「なんでそう思うの」

 あまりにも能天気な回答に彼女は思わず返す。彼は走りながら振り返った。

「雪広は僕みたいな人でなしを助けたんだ。きっと分かってもらえるよ」

 雪広のもとについて彼女を探すが、そこに彼女の姿が見当たらない。代わりに三体の人形が僕たちが来るのを待ち構えていた。

「雪広、どこにいる?」

 呼びかけても返事がない。三体の人形が攻撃を始める直前、やっと彼女の姿を見つけた。

「雪広!」

「危ない家接!」

 とっさに13は彼へ向けられた攻撃を防ぐ。そのまま一直線に向かって彼は倒れた雪広を起こす。

「雪広、大丈夫?」

 目を覚ました彼女は手で頭を抱えて苦痛に顔を歪める。家接の存在に気が付くとそんな顔もすぐに消えて、立ち上がろうとして痛みで彼の腕に再び収まった。

「ごめん、三体はさすがに無理だった」

「そんなことない。僕の責任だよ」

彼女の体は傷だらけで、もう自分では起き上がることができないくらいに弱って家接の腕の中で痛みにこらえている。そんな状態なのに彼女は起き上がって戦いに加わろうとしたので無理矢理止めた。

「何してるの。安静にしてないとだめだよ。今は13が三体を引き受けてるから安心して」

「13?でも彼女は」

「誤解だったんだ。彼女は理由があって発条の人形を利用しようとしてた。でもその人形を制御できない今は人形を止めるっていう共通の目的がある。僕もそろそろ参加しないと」

「待って。あの人形、倒しても再生するの。だから」

「それも大丈夫。人形を倒してここに来たんだ。僕を信じてよ」

「……分かったよ。無理はしないでね」

「うん」

 彼女を木に寄りかからせると家接は人形を相手にしている13のところに戻った。やっぱり一人で三体を抑えるのはかなり厳しい。13も少し目を離していた間にだいぶ押されていた。

「錬炎、悉く燃やし尽くせ」

 背後から三体まとめて襲えるくらいの巨大な炎で攻撃する。その間に受け身になっていた13は離脱し、人形は焼き尽くされる。

 そう、攻撃が聞かないわけではないのでどのみち再生されるとしても時間稼ぎにはなる。

「そうだ、確か13って治癒魔術を使えたよね」

「……分かった。じゃあそれまでどうにかしてよ」

 彼女が雪広のところに行ったので家接は炎の中で再生する人形と対峙する。心なしかさっきより再生する速度が速くなっているような。とりあえず二人に攻撃がいかないようにと先祖返りの力で二人の周りを霧で隠した。

「残念だけど、僕の相手をしてもらうよ」

 だけどこの人形、さっきみたいに分かりやすい武器を持っていない。再生する中で武器が見えないのがとても気になる。そして13の言っていた学習するという言葉。

「それは……ずるじゃない?」

 三体が再生したと同時に離れたところにある破壊したはずの人形の残骸が引き寄せられるように飛んでくる。空に掴んだ人形の手には継ぎ接ぎになった鉄屑のバットが出来上がる。さらにそこに魔術がかけられて、溢れてくる水が地面に滴った。

「相性すら補完しちゃうのはもうダメでしょ」

 そんなに都合よく魔術って使えるの?

 歴の浅い家接には分からないことだけど、感覚的にこれが常軌を逸しているのは分かる。そこに治癒魔術で回復した雪広と13が合流した。

「おまたせ」

「事情は分かった。今は共闘ってことね」

 どうやら治癒をしてもらってる段階で彼女は納得できたらしい。長刀を握りしめる13が前に出て、まだ何枚か余らせていた残りの札を雪広も使う。

「守りは気にしないで。私が援護するから。とにかく二人は攻撃に徹して」

「「分かった」」

 三対三。これなら劣勢になることはない。

「家接、挟むよ」

「了解」

「四方印、北」

 雪広の魔術で一瞬人形の位置をすべて同じ場所に集約させる。家接がそのタイミングで炎の魔術を放って水を纏った剣を燃やすと13が長刀で薙ぎ払う。

「今」

「錬炎、風纏いて燃やし尽くせ」

「八方印」

 人形の体を燃やし尽くして残った発条。それが回った瞬間の隙に雪広は照準を合わせた。

「くびきれ」

 手を捻じると発条がぐにゃりと曲がって千切れた。その瞬間、再生が止まって鉄屑の我楽多が落ちる音がする。しばらくしても再生が始まらないところをみると、本当にこれで終わりらしい。

「これで終わり?」

「……たぶん」

 もう疲れた。その場に座り込んで短剣を地面に刺す。

 二人ももうだいぶ魔力も使って立っているのがやっとだったのかそのまま倒れるように地面に体を預ける。

「眠い」

 このまま寝てしまいそう。そんな三人の気力を増幅させるように日が沈む。

 木々の間から鳥のさえずりが鮮明に聞こえるようになって、雪広は仰向けになって13に尋ねた。

「まだ、聞いてなかったから聞くんだけどさ。どうしてあの人形たちの封印を解いたの?」

 倒れた13もまた仰向けになって答える。

「……主を生き返らせたかったんです。だから、封印された発条人形なら触媒として十分な魔力だと思って封印を解いた。だけど制御できなくなって、主を生き返らせるための儀式に移行できなくなった」

 彼女が望んだ切実な願いは、大きな力によって阻止された。発条人形は彼女の予想よりもずっと強くて、結果として主の願いは彼女には届くことができないまま終わる。

 だけど家接と雪広はどのみち彼女を止めなければらなかった。なぜなら、あの家の二階にあるものを知ってしまっているから。

 今となれば彼女自身が封印を維持するために生み出された存在だということが分かる。主は彼女を使って封印を維持しようとしたんだ。

 そんな彼女が選んだのは、その封印という役割よりも主を生き返らせることだった。そうして進んでいったことで起きたこと。

「でも、もうその枷は無くなった。これから13はどうする?」

「どうすればいいんでしょうね」

 生きる意味を失った少女がこれからどうするのか。その選択をするのは彼女自身だ。

 悲しみに暮れていても仕方がないので、三人は集落に戻る。そこではたくさんの人たちが彼女を迎えた。それもそうか。ずっとこの人たちは一緒にいたんだから、心配するのも当たり前だ。

「それじゃあ僕たちは」

「そうね。また明日」

 家に戻ってやっと終わったことをカラ爺に連絡する。帰りの便を手配してくれたらしく、明日の昼には来てくれるとのこと。

「これで一段落。それにしても、こんな激重任務を二人にやらせるなんてカラ爺も人が悪いなぁ」

「そんなに大変だったのかい?それはすまないことをしたね。何か詫びるよ」

 確かに書いてあったことをこっちに来て知った現状はかなりことなっていた。たぶんだけどあの懐中時計。きっと依頼が来てから僕たちが来るまでになにかがあったんだろう。

 怒った声音で彼女は電話にこう告げた。

「駅前のプリン五個ね」

「え?あれって朝一並ばないと買えないやつじゃ」

「知らないっ」

 勢いに任せてそのまま切ってしまった。

 一連の流れを見ていた家接は「そこまで怒らなくても」と彼女の表情を見ると、舌を出していたずらな顔を見せていた。

「帰ったら二つずつ食べよう。成功報酬ってやつよ」

「そうだね」

 僕は不覚にも可愛いと思ってしまった。

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