我楽多に成り果てるまで
13の刀捌きは家接が思っていた以上に繊細でしなやかなものだった。敵の剣を使う方の発条人形が大振りに振り上げた瞬間にはその長い刀のリーチを生かして腰を目がけて振るい、逆に相手が反撃の構えを見せて攻撃を待っている時には13は距離を詰めずに逆に待ちの姿勢を取る。
「そんなに持久戦をお望みですか」
「……………」
当然だが発条の人形には意思を伝達する器官がないため言葉を発することはない。だがその代わりに発条人形はその意思を行動ではっきりと示した。後ろの盾を操る発条人形が剣の方の動きに合わせながら的確に追尾が行われているように空中に浮きながら攻撃を防ぐために纏わりついている。
「錬炎、送り火と為りて守り給え」
地面を辿って導火線のように放たれた火は13を囲むようにして炎が広がると、そこから空中に分散して発条人形に纏わりつく盾を射抜くように放たれた。燃え尽きて灰になったそれを投げ捨てるようにして背後の盾の発条人形は新たな盾を生成して周囲に展開させた。
「ありがとう」
「大丈夫。それよりも前っ!」
すでにこちらに降りかかっていた攻撃を間一髪で避けた13はそのまま低い体勢のまま長刀を振るう。相手の足元を狙ったその攻撃に発条人形は防ぐよりも回避を優先するが、その一瞬を家接は逃さなかった。
「万象を拓く。風纏いて錬炎、彼の者を燃やし斬れ」
風の刃は地面と垂直に浮いた駒を潰しにかかる。炎を纏いながら斬り裂くその攻撃は、盾の防御は間に合うがそれを燃やし尽くして剣の人形本体を攻撃した。斜め十字に斬り裂さかれた人形はその場で崩れ落ち、背後にいた人形もそれを瞬時に判断して攻防を入れ替えた。
「やっぱり再生するんだ」
「どうする? このままだとキリがないけど」
発条が回る音が響くとその切り崩された本体を小さな盾で背後に投げつける盾の発条人形。盾はその数をさらに増やしていくと全方位に展開され、剣の発条人形の再生を待っているように見える。発条を破壊しないといけないというのに、それを阻止するように片方が破壊されると片方が再生の時間を稼ぐ構図はあまりにも厄介だ。
「片方を無視して発条を破壊する?」
「でもそれだと片方をどっちかが抑えないといけないことになるけど」
「それなら私に任せてよ。少しだけ盾の方を抑えといてくれる? あっちが邪魔だから」
「分かった。じゃあ剣の方は頼んだよ」
13が頷くと再生を始めている剣の発条人形の方へと走っていった。もちろんそれをスルーするわけない盾の発条人形は小さな盾を走る彼女の方に向かって追尾させるも、彼女は最初の数機を躱しながら発条人形へと近づいていった。
「それ以上は追撃させない。お前の相手が僕だ」
執拗に追尾する残りの盾を家接は風の斬撃で撃ち落とした。炎を纏わせなかったの余計な魔力を使わず相手の出方を伺おうと思ったから。盾の発条人形にも何度か風の斬撃を送り込むことで13への追撃に意識を割かせないようにしたつもりだったが、相手は人形。そこらへんはちゃんと並立思考ができるみたいだ。
「やっぱりダメか。でもそれなら」
発条人形への攻撃をやめると家接はとにかく盾の攻撃を防ぐのに集中した。だが、一度発条人形に攻撃した事が仇になってか、相手は13への追撃をしながらこちらにも攻撃をするようになった。
「最悪、だっ!」
走りながらそれを避け、とにかく彼女に攻撃させないようにと風の刃を振るい続ける。ここからは持久戦だ。僕がどれだけ耐えられるのかにかかっている。絶対に通すわけにはいかないと家接は盾の発条人形に背を向けることなく徹底抗戦の構えを示した。
なんとか剣の人形のところまでたどり着いた13は、長刀で自らの指を切ってみせる。さっき大量に血を失っているから、もうあまり使うことはできないけど、一度くらいならどうにかなる。13は一瞬視界が乱れたのを首を振って気を保ちながら、自分の陰に向かって血の垂れるその指で一文字をいた。
「我が裏命は我が手足。現れよ、転陽臨みし影法師」
血を得た影は生命の如く、現実に転写されたようにして影法師が現れた。その姿形は13そのものであり、違う部分があるとするならそれは影の色を纏ったようにその身体が黒く塗りつぶされていること。長刀を影から引き抜いた13の影法師は立ち上がって目の前の敵である剣の発条人形を見据える。
「よろしくね、もう一人の私」
二人はハイタッチすると13はその場を離れる。彼女の足元には影がなく影法師にも影は無い。再生が完全に終わった剣の発条人形は目の前の敵意ある存在に向かって修復したての自らの機構を心配することもなく剣を振るった。
「こんなにしつこいのか、発条人形ってやつは!」
盾の発条人形はもう剣の発条人形を援護することを止めて、最優先事項を変えたかのように完全に家接に標的を定め直す。空中に浮いていた盾はさらに小さく分裂していき、もはやそれは盾と呼べるのか分からないところまで細かくなると礫のようにして家接に向かって襲い掛かった。破片になったそれはもうガラスが飛んできているのと変わらなくて、初撃ですでに家接の体を掠めてそこから血が流れ落ちた。
「大丈夫? ちょっとだけこっちに加勢できるようになったから」
戻ってきた13は傷ついた家接を見るとすぐに自身の袖を破って一番傷の深い場所に巻いて応急処置を行った。その間も盾の発条人形は着々と盾を再生させては分裂を繰り返し、気づけば上空を覆うようにしてこちらに牙を剥いていた。
「ありがとう13。でも、あっちは大丈夫なの?」
「いいよ気にしないで、あっちは私の影に少しだけ時間稼ぎしてもらってるから。それより今のうちにこっちを二人で倒してあっちもそのままやっちゃおう」
「うん、そうだね。これ以上は時間をかけてられない」
これを三体も相手をしている雪広のことを考えたら足を止めている時間なんて一秒もない。そして家接が気にかけていた通り、雪広は発条人形に取り囲まれてかなりの窮地に立たされていた。
「これは、無理じゃない?」
二体の発条人形をシャッターに閉じ込めることに成功した雪広だが、残りの一体によって完全にじり貧に追い込まれていた。その間にも発条人形は自身を閉ざしている空間の隔たりに向かって攻撃を続けている。
「弱そうなとこばっかりついてきてほんとにいやらしいね、あんた」
二体の発条人形は隔絶された空間の隔たりの一点をただ狙って終わることなく攻撃をし続けている。ただでさえ魔力を消費し続けているというのに、その攻撃を耐え抜くためにと余計に魔力を取られる。それなのに、取りこぼした一体は雪広の視線を完全に警戒しまくっているせいでシャッターに収まろうとしない。隙あらば遠隔攻撃で二体の人形を閉じ込めてる魔術を解除しようと攻撃をしてくるが、こちらを攻撃してきてないのが不幸中の幸いといったところだ。
「というか、あっちはまだ終わらないわけ? …………それなら意地でも頑張るしかないか」
このまま二体を押さえつけたまま戦っていてはどうにもならない。雪広は自分が視線に被らないようにしている発条人形を無視すると、すでい閉じ込めている二体の人形が一直線に交わる場所に向かって走った。
「ここだ」
そう、こうしておけば自然とやつも射線上に勝手に来てくれるんだから。ちょうど間に空間の隔たりがある状態。こっちのタイミングでそれはすきに解除できる。
「八方印、北東」
両手を合わせて逆に動かす。その瞬間に、二体の発条人形を閉じ込めていた空間の隔たりを解除したことで彼女の攻撃範囲にいる三体全てがその攻撃対象となった。
「くびきり」
三体同時にその胴体が捻じれるようにして千切れ破壊されと動かなくなった。残骸が地面に落ちる音が響いて雪広はずっと張っていた気を緩めるとあっけないなと思う。急に魔力を使いすぎたこと反省するが、それを体が一番よく分かっていたらしく節々が疲労で悲鳴を上げていた。
「とりあえず家接のとこに行かないと」
心配ですぐに向かおうとするも雪広は恐る恐る振り返った。なぜなら、彼女のもとでもその発条の動く音が響きわたっていたから。それは再生の負の音であり再戦を希望する発条人形の声だった。
「それってありなんだ」
呆れ交じりに漏れた声はもはや笑うしかない。捻れて千切れた体はゆっくりと元の形に戻ろうと発条が回ることで奮闘していく。すでに大半の力を使ってしまっている雪広はそれをただ見ていることしかできない。なぜならそれを止める手段は無いのだから
「失敗したなぁ」
こんなことになるなら、完全に破壊するべきじゃなかった。もう半分以上魔力を使っちゃったし、今からまた閉じ込めたらそれこそじり貧だ。でも、今はここで耐えて待つしかない。
「しょうがない、もう少しだけ頑張ろ。四方印、東西」
シャッターを斬って三体を捉える。そのうちの二体は既に再生を完了させていたが、先ほどのように攻撃をしかけてくるわけではない。なぜか互いを見つめ合うようにしながら固まっていた。
「今更何する気?」
しばらくその様子を見ていると、片方がまるで操作されなくなった発条人形のように崩れ落ちる。自らを破壊するその行為は全く理解できないが、それに呼応してもう片方の発条人形が動き出した。腕を伸ばした手が空間の壁に押し当てられると、そこに幾重にも重なった魔法陣を築いていく。
「待って。それはヤバそう」
念のためにともう一重にシャッターを斬って対策を取ったが、もし攻撃系の魔術なら簡単に壊されてしまってもおかしくない。これ以上魔力を使えば、自分が最悪の場合に逃げれるだけの余裕がなくなる。
「そりゃあ、封印されるよ」
空間の断裂に向かって放たれた魔術は、その衝撃波でいとも簡単にその隔たりを破壊してしまった。こうも立て続けに四方印の魔術が破られると、さすがの雪広も自信がなくなってくる。
「一応空間系の魔術なんだけどな」
さっきまで殴って対抗していた発条人形が急に空間に干渉して魔術を使ってくるようになった。発条人形の右手は空間の歪みに向かって伸ばされている。次の瞬間、魔術が即座に起動すると再生途中の人形を閉じ込めていた空間が破壊されてしまった。
「早く来て、家接くん」
これは一人では勝てない。発条人形たちの叛逆が今にも始まろうとしていた。




