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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
2章 神出鬼没の発条人形

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回る発条

「これって、もしかして万事休すってやつじゃない?」


 見た目からして危険な絡繰り五体を相手に二人で勝てるビジョンはどうやっても思い浮かべることはできない。だが封印が解かれたといってもまだ動きを見せないところから、長年その活動を止められていた影響は残っているんだと思う。


「動きのない今のうちに僕が一撃入れるから、その間になんとか分断できると良いんだけど。このまま直接対決するのは避けたいよね」


「そうね、一度に相手をするのは得策じゃないわ。でもそれだと家接くんは少し近づかないといけないよね? 私が合わせるからいつでも行っていいよ」


 その言葉を聞いて家接は勇猛果敢にクレーターの中央に向かって滑り落ちていく。そこまでしても発条人形は動く素振りすら見せない。まるで最初から家接や雪広は眼中に無いかのよう。


「四方印、北」


 雪広が詠唱するとクレーターに降りていく家接の姿形が幻像だったかのように消えていき、立てている砂埃の音すら綺麗にしなくなる。家接の居場所が分からない今のうちに何体かを足止めしてこっちが有利な状況を作り出さないといけないと、雪広は両手を構える。そして彼女がシャッターを発条人形に向けると、今まで姿を見せてからずっと静止していたはずの人形が雪広に向かって首をぐるりと曲げて傾く。反射的に雪広はシャッターを斬ったが全く安堵できない。


「これ、ヤバいかも」


 そう思った雪広の嫌な予感は見事的中し、シャッターに収めることができたはずの五体のうち三体の発条人形がその尖った足で地面を抉りながら斬り取った空間の壁も一緒くたに破壊すると、一直線に彼女の方へと動き始める。そのスピードはとても人間が逃れられるようなものではなく、自然と動いた足に迫る勢いの発条人形が背後に来た瞬間、雪広はとっさに自らを転移させるとなんとかその距離を保つことができた。


 姿を見失った発条人形は雪広の姿を探し機械音を響かせながら動く。もしもう一度あの視界に収まったらどうなるか分からない。下手に動くことができなくなった雪広は木の陰でその発条人形の様子を伺いながら、戦場に残された家接を救うことを考えつつこの人形を撃破するための作戦を考える。でも、とりあえずは三体をこちらに引き寄せて分断させることには成功した。あとは彼を信じてこっちもどうにかしないとね。




――――――――――――――――――――

「錬炎、悉く燃やし尽くせ」


 姿を隠していた家接が背後から斬りかかった短剣から発せられた炎を発条人形は浴びるが、見ると炎どころか短剣の斬り傷一つとしてついてはいない。まるで最初から何も攻撃されていないようなその無慈悲な態度には家接も苦笑いを浮かべざるを得ない。


「他に僕が使える手なんて…………」


 あるにはある。まだ完全に開放していない先祖返りの力が家接には残っていた。一度人形との距離を取ってから家接は頭の中で力を解き放つイメージを行う。するとゆっくりと風が体を駆け巡る感覚を得たと同時に力が流れ込んできた。


「良かった、ちゃんとできた」


 目を開けて安堵の息を吐く。だがすぐに人形がいないことに気が付いた。どこに行ったんだ。辺りを見回してもその姿はどこにもない。もしかして僕のことを無視して雪広の方に行ったんじゃ。


 そんな考えが頭をよぎったが、それはあまりにも杞憂だった。


「っ!」


 自身の頭上から降ってくるように感じるおぞましい魔力。それを受け取った家接は辺り一帯を霧に包みこんでいく。行く手を見失った発条人形を背に霧を抜け出した家接は相手の攻撃を窺うまでもなくその霧の中に手を当てたまま詠唱を行う。


「錬炎、満たして燃やせ」


 左手から沸き上がった炎は霧に含まれた家接の魔力と連鎖的に反応して炎を生み出して広がる。それはあっという間に斬り全体に伝播して姿の見えない発条人形ごと燃やし尽くしていく。霧を生み出した家接とて中の様子を伺うことはできず、魔力を使い切って霧が晴れるまで待つしかない。


 この高火力で以ってすれば発条人形を倒せるんじゃないか。そう思った家接の淡い期待を裏切る様にいとも簡単に霧は真っ二つに斬り割かれる。


 中から現れた発条人形の一体は剣を、一体は盾を持ちながらこちらに向かって攻撃を開始する。


 家接はその攻撃を躱しながら、短剣に炎をもう一度纏わせようと集中するが飛んでくる攻撃を受け止めることで魔術を起動させる隙を相手は与えてくれない。加えてその重い一撃は先祖返りの力を開放していなかったらそのまま力負けしていたと思う。その攻撃を振り払いながら家接は自分自身の先祖返りの力について考える。


 自分のこの先祖返りの力だけど、風の精なんだったら霧を出すことしかできない道理なんかきっとないんじゃないかな。ふと以前から抱いていた力に対する疑問を唐突に思い出した。


「やってみよう」


 それもこれもやれば分かることだ。僕は一定の距離を取りながら詠唱を行う。


「その風は万象を斬り、またその風は万象を拓く。風纏いて錬炎、彼のものを燃やし斬れ」


 家接の持っていた短剣に纏っていた炎は、薪をくべられたようにさらに燃え盛っていき風の影響を受けたことで炎が渦巻いていく。だが相手の発条人形はそんな炎を見ても警戒の目にすらならず、戦いの手が緩められることはない。盾を持ったほうが剣を持った方を覆い隠すようにしながらファランクスの如く家接に向かって突進していく。


 家接の振るった斬撃は風の刃となって人形に襲い掛かるが、それを受けても大したダメージにはなっていないように見える。しかし次に見えたのは風を纏った炎の斬撃が盾を斬り裂いた光景だった。


 炎を纏った風の斬撃は盾を真っ二つにしたのに留まらず、人形の体を捉えて斬り裂いた。傀儡のように制御を失った発条人形は燃え広がりながらその場に倒れる。しばらくその動かなかくなった人形を見ているが、火が消えて残った残骸を確認すると動き出す様子もない。


「これで、終わり?」 


 こんなもので倒れてしまうのかと安堵した気持ち半分、あっけないという気持ち半分だ。だがその後ろでは攻撃をやめたまま立ち尽くす剣を握った人形。こちらに攻撃をしてくるわけでない様子に不気味さを感じたものの家接は二体目も同様に倒そうと走り出す。


「離れて!」


 ちょうどその時、家接の背後で声が聞こえた。走りながら剣を振り上げようとしていた家接は攻撃を中断して後方に身を引く。短剣を地面に突き立てながら体を支えると声をした方へと目を向けた。


「13…………生きていたんですね」


「え、えぇまぁなんとか。でも見たところ、私の計画は失敗してしまったみたい」


 彼女の視線の先にあるのは家接が燃やし尽くした発条人形の残骸。もう動くことのないそれを彼女は静かに見つめ続けている。


「そうですね。今さっき僕が倒してしまったので」


「いいえ、そういうことじゃない」


 すぐに13は家接の言葉を否定する。まさかと思い視線をすぐに残骸の方へと向けるがそれは依然として残骸のまま。復活してしまうなんていう考えはどうやら考えすぎみたいだ。


「そうじゃないというのは?」


「私は、あの発条人形を使って死んでしまった主を蘇らせようとしたの。だけどもう私じゃ主導権を握れる状態じゃなくなってる。こうなったら倒すしかない」


「そういうことだったんですね。分かりました。じゃあ僕は雪広のところに行かないと今一人で三体の相手をしているから」


 13の目的も分かり、この発条人形も力押しで倒すことができると分かった。家接は残された一体を彼女に任せてその場を離れようとするも、その手を13にがっちりと握られる。


「待って。まだ戦いは終わってないよ」


 どういう意味なのか。家接は分からず引かれるままに振り返ると、確かに燃え尽きて倒れたはずの人形が見えない発条の音を響かせながら体を再構築し始めていた。


「これはいったい、どうなってるの?」


「あの発条人形は、体のどこかにある発条を破壊しないと永遠に再生し続けるようにできているの。そしてね、それよりも凄いのがあれは…………」


 身体の再構築が完了すると、盾を構えていたはずの発条人形は真っ二つになった盾を眺めると、魔力を使って再び盾を生成していく。だが、その形は壊れてしまったものとは異なり空中に生成されていきまるで光輪のように旋回している。


「学習するの」


「あれは学習の範疇を越えているんじゃ……」


 もはやそれは防御というより攻撃に振られたような盾。形は盾ではあるが、総じて攻撃に転じたそれには中央に持ち手があるのみでその周りは旋回し続けている。鋭利に尖った葉っぱの如く攻撃を行える武器となった盾。加えて、前衛に立った剣を持ったもう一体の発条人形。


「手を組んでくれない? さっきまでの私の発言は後でちゃんと謝らせて。なんでもするから」


「…………そこまで言わなくても僕は手伝うよ。それにこのままここを離れるわけにもいかないし」


 ありがとう、と13は頭を下げると辺りを探し洞窟の崩壊時に手放した長刀を拾いあげる。それを一振りして付いていた土を落とすと発条人形は敵を再認識して攻撃を開始した。


「私が剣の方を相手するから、盾の方はお願いしてもいいかな」


「分かった。13は目の前の相手だけ集中して」


 二体の剣同士の対決に僕たちは邪魔を互いにさせないために距離を離すようにして戦う。相手は盾。こっちは手にある短剣一本と魔術のみ。少々心もとないけど先祖返りをしている今、いつもよりも気持ち頭は冴えている気がする。それにやっぱり雪広さんのことが気がかりになっている。だから負ける気は一切ない。

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