カスミトシンジーノ(七)
司会者は机の方に来て、最初に置かれた青い大学ノートを見る。裏側だったのでひっくり返すと、表に『トランペット』と書かれていて、落書きのようなトランペットの絵が描かれていた。
これはノデラーの遺品とは関係なさそうだ。司会者は顔をしかめて、机の上に戻す。
次は、少し分厚いノートであった。
司会者はマイクを持ったまま開こうとしたが、開かない。じっと見つめている。
『これは、鍵がかかっていますね。これも開けられますか?』
鍵という言葉に引っかかって、師匠が画面の方をパッと見る。青ざめて眼鏡を外して凝視した。
「それは開けちゃだめだ!」
師匠が大きな声を出したので、師匠に背を向けて画面を見ていた伸次が、びっくりして振り返る。
「いや、これ録画ですから! びっくりさせないで下さいよ!」
言われた師匠が『あっ』という顔をして笑ったので、伸次も笑って、画面に向き直った。
司会者はマイクとノートを鍵師に向ける。金庫を開けた鍵師は、それを一目見ると、にっこり笑って言う。
『開けられますけど、これは交換日記だと思うので、無理やり開けない方が良いでしょう』
『えー、でも何が書いてあるか、読みたいですよね?』
司会者は館長に聞く。
館長は、金庫からノートの束を持ってきて机に並べた。どうやら鍵がかかっているのは、その一冊だけのようだ。
『まぁ、資料沢山ありますので、また後日でも良いかと』
司会者はちょっと残念そうな顔をして、ノートを机に戻す。
『そうですか。次は、楽譜みたいですね?』
それは表紙のない、音楽ノートだった。
司会者が、それをまたマイクを持ったままひょいと持ち上げると、ノートの間から、古い楽譜がバラバラと落ち始める。
どうやら、ただノートに挟まれていただけのようだ。
司会者は『あっ』と叫んでマイクを持った方の手で、落ちて行く楽譜を押さえようとしたが、変に力が加えられてしまったのか、手に持った音楽ノートの方が、バラバラと崩れて散り始めた。
遠くなったマイクでも『あー』という叫び声がはっきりと聞き取れる程で、画面の外から、沢山のスタッフの姿が入り込んで来る。
現場は大混乱になった。その時だ!
「ノデラーの『正体』が判った!
何で『カスミトシンジーノ』なのかも判った!」
師匠が急に叫び声をあげて、立ち上がった。
驚いた伸次が振り返る。




