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カスミトシンジーノ(二)

 オルゴールを見たまま、師匠は頷く。

 普段は『電化製品の骨董品』を扱っている店なので、これは珍しい一品となる。無事修理ができて、面目躍如だ。

「どうだ、良い音だろう?」

「はい。何か懐かしい感じですね。初めて聞くけど」

 そう言って、オルゴールの音に耳を傾ける。

「これ、何て曲ですか?」

 伸次はオルゴールに近付いて来て、覗き込んだ。


「これは『愛のオルゴール』だな。洒落てるなぁ!」

 師匠は笑顔で伸次を見上げる。伸次は首をかしげた。

「そうなんですか? 良く判りませんけど」

 伸次には、そうでもなかったようだ。師匠は、また首をすくめた。


「ところで、なんで家で受けたんですか? 専門外ですよね?」

 師匠は、またオルゴールの方を向いて、前から、横から、覗き始めている。すると、口を尖がらせてから話始める。

「あぁ、昔はこういうのもやっていたんだけど、段々減って来てねぇ。それで家電を始めたんだけど、いつの間にか家電の方が、多くなっただけさっ」

「そうだったんですねぇ」


「これはオルゴールとしては簡単な方でな。まぁ、一般人のお土産的なもので、そんなに凄いものじゃないんだけど、大昔の貴族様が使っていたような奴は、もっと凄いのがあったんだぞー」

「へー。貴族って何ですか?」

「え、そこから?」

 師匠は渋い顔をする。説明が面倒くさい。


「一般人のお土産を、直していたんですか?」

「おい、そう言うなよ。こういうのは、大体大切な人の『思い出の品』って奴なんだからさぁ。値段じゃないんだよ」

「それは判りますよ」

 伸次は師匠に直して貰った、父譲りの安い機械時計を見せる。

「ほら、そこに書いてあるだろ?」

 師匠が依頼書を指さしたので、備考欄の文字を読み始める。


「えーっと『ノデラーの遺品』ですか。誰ですか? ノデラーって」


「お前は知らないのかぁ。『ノデラー ピアニスト』で、検索してみぃ。出て来るから。凄い人だったんだぞぉ」


 師匠は、机の横にあるパソコンを指さす。そしてオルゴールをもう一度見た。


 横長のオルゴールは宝石箱になっていて、指輪を固定する為のふわふわがあり、何度も出し入れをしたと思われる跡が残っている。

 きっと昔は、奇麗だったであろう装飾も剥がれ、イヤリングを入れるであろう少し深い所は、多少ガタついているようだ。


 伸次は師匠が指さしたパソコンが、あまりにも古い骨董品だったので、自分のタブレットを出して検索し始める。


「本当だ。出てきました。『ノデラー。本名不明。国籍不明。生没年不詳。女性。一切のプライベート情報が非公開となっている、ピアニスト』だそうです。本当だ、凄いやぁ」

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