表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/272

オープンカフェ(十)

 考えている真衣を横目に、香澄は『当時を思い出す』かのように遠い目になると、微かに頷きながら語り出す。


「あぁ、交換日記のルール第三条『日記は必ず受け取る』よ。

 ちゃんと『気持ちと理由』を書いてぇ、

 真治さんの『自宅』に持って行ってぇ、

 泣きながら、『お父様』に渡したのよぉ」

 優しくて、良いお父様だったワー」

 それを聞いた真衣の顔が、口をパカンと開けた『驚愕』の顔に変化している。

 それでも香澄は、ちょっと『不思議なこと』を思い出したのだろうか。首を傾げて続きを語る。


「出て来た真治さん、何かボロボロだったけど」


 真衣は『ブッ』と噴いて、その口を拭きながら言う。

「何そのルール。何と言う保険。

 もう、最初からあんたを手放すつもり何て、絶・対・ないじゃん。

 もう、そう言う所は抜け目ないワー」

 苦笑いしながら、腕を振っている。香澄も頷いた。


「そうねぇ。最初で最後の発動だったわー」


 すると真衣も遠い目になって、昔を語り出す。

「まぁ、あの頃の辛かったことなんてさ、大人になってから思い返すと、ホント、何でもないことだわー」


「だよねー。骨折したのも、良い思い出だわ。右手だったら、真治さんがごはん食べさせてくれたかもしれないわー」


 ニヤつく香澄を見て、急に真衣の機嫌が悪くなった。


「この女はー。ホントむかつくわー。

 ポジティブ澄ちゃんだわ。

 真ちゃんの『第二ボタン横取り』してやって、

 本・当・に良かったわー」

 腕を強く振りながら、香澄に言い放つ。


「そうだ、それ、思い出してもむかつくわー。

 あんた横から『とっとろピーのー』じゃないわよ。

 返しなさいよぉ。前から『約束』してたんだからね!」

 言われた香澄も、何やら言い返している。

 本当に二人は仲良しなのか、そうではないのか。判らなくなる。

 話はヒートアップしてくるばかりだ。


「そんなの、知ったこっちゃないわよ。

 でも、どうせ事前に新品に交換していたんでしょ?

 お見通しなんだから!」

「新品と交換なんてしてないわよ!

 第三ボタンと、入れ替えておいただけよ!」


「ほら、やっぱそうじゃん! 今明かされる真実じゃん!」

「べーだ。そう簡単に渡す訳ないでしょ!」


「はぁ。まぁ良いわ。

 私の中では『第二ボタン』だから、それで良しとするわぁ」


 おや? 急に二人共笑顔になって、仲良しに戻った?

 すると今度は、言語まで『英語』に戻ってきたようだ。


「まぁ、お互いにウィンウィンということで。握手しよっ」

「ん? 仲直りー、なっかなおりー。

 なんか違う気もするけど。まぁ全部許すわ。結婚おめでとうね」


「ありがとう。ねぇ、本当に式に出られないの?

 何だったら『生中継』してあげようか?」


「あんた、生中継するのに、幾らお金がかかると思ってるの!

 こちとら芸能界長いんだから、それ位判りますからね?」

「そうなんだー。ホント残念だわー。じゃぁ写真だけにしとくか」


 相変わらずの香澄に、真衣が心配して慌てる構図は変わらないようだ。右手をブンブン振って、何か言っている。


「いや、このご時世、ビデオ位あるでしょ? それにしなさいよ」

「あー。そう言えばそうね。ベータ? VHS? どっちー?」

「何それ、そんなの知らないわ。こんくらいのよ」

「そんくらいのね。じゃぁ、今度、真治さんに聞いとくわ」


 すると突然、真衣が頭を抱えてしまった。


「あー、それダメな奴だわ。絶対ダメな奴だわ。

 もう『八ミリフィルム』が送られてくるの、確定だわー」

「あはは。そうかもね。あ、時間大丈夫?」


 だいぶ夢中で『おしゃべり』してしまったようだ。香澄が左手首をトントンやったが、そこに時計はない。

 それでも真衣には『意味』が通じたようだ。パッと立ち上がった。


「あ、そうだ、本題すら忘れてた」

 帰りかけて、おでこをパチンとやって止まる。

 何やら思い出したようだ。右手をヒュッと香澄にさして聞く。


「あんた、テレビ番組でピアニスト募集してるんだけど、出る?」

「え、何それ。良いの?」

 言われた香澄の目が、ピコンと丸くなって笑顔になった。

 それを見て安心したのか。真衣も笑顔になって頷く。


「うん。中々『応募者』がいなくてさぁ。でも、あんたならもう『ピッタリだから』と思ってさっ」

「へー。良いよ。真治さんにも言っとく」

 二人は約束を交わしたようだが、真衣は既に『関係者』に手を回していたらしい。軽く頷いて右手をあげた。


「あー、真ちゃんには連絡済。細かいこと説明しといたから」

 そう言ったかと思ったら、苦笑いになって、再び香澄に『説教』を始める。


「あんたさー、時間だけ決めて、

 家に迎えに来てくれるスタイルが通じるの、

 真ちゃんだけだからね?

 社会人になったら、もうちょっと考えなさいよ?」

「そうなの? 真治さんとお出かけして、

         遅刻したことなんてないわよ?」


 香澄はやっぱり『ポカン』とした顔だ。真衣は『そうだよねぇ』と思ったのか、口をへの字にして首を竦める。

 すると、また一つ『苦情』を思い出したようだ。


「いやいやいや。あーそうだ。

 頼むから、結婚したら真ちゃんにも『携帯』持たせてね。

 今時『ポケベル』とかないわー。

 折り返しで電話来たけど『俺』で切れちゃって、まじうけた」


「それ、絶対公衆電話から十円玉だよ」

「もうね。テレカ位持たせてあげて。でも、携帯にかけたら、びっくりして死んじゃうかもしれないけどー」


 一体、誰のことを噂しているのだろうか。二人共『今日一番』の笑顔になったではないか。


「あはは。それは困るわー。あ、ここ払っとくー。じゃぁまたねー」


「ありがとう。ごちそうさま。じゃあねー。またねー。おめでとうねー。幸せになれよー」

「ありがとー。お互いにねー」

「うん。お互いにねー」


 香澄は、真衣が見えなくなるまで手を振り、親友を見送った。すると、それと入れ替わるように『男』が現れる。


 香澄のテーブルに近付き、黙って『伝票』をピッと取り上げると、苦笑いでレジへ向かう。どうやら『いつものこと』のようだ。


 香澄は『真治』の右腕に絡みついて、嬉しそうに店を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ