オープンカフェ(八)
「え? 弾けるの? 真治さん『愛のオルゴール』以外弾けるの?」
何だか判らないが、物凄く驚いていることは確かだ。
「え? 知らないの? まじで?
やっぱ、あんた真ちゃんの本当の姿、知らないんじゃない?
真ちゃんは本当に凄い奴なんだよ?」
一方の真衣は、ちょっと『得気な顔』だ。まるで『私の方が相応しい』とでも言いたげに。
そして、半分子馬鹿にしたような、悪戯っぽい顔になって、ヒョイヒョイと香澄を指さしている。
しかし、突然真衣の表情が変わった。
「あれ? あっ、じゃぁ、あんただったの?
真ちゃんの『音楽ノート』持って行ったのぉ?」
「え、何のこと? し、知らないワー」
重大な秘密を暴かれて『しらばっくれている』のが丸判りだ。
「あんた、嘘ついていても良いけど、
落書きとか、してないでしょうねぇ? 大丈夫ぅ?
楽譜汚したら、あんた『ぶっ殺される』からね?」
「何それ。怖い」
まるで、急に『怪談』でも始まったのだろうか。
真衣がテーブルに肘を付いて、香澄の方を下から覗き込むように見上げると、ゆっくりと話し始める。
「あんた、表紙の破れた『音楽ノート』持ってるでしょ?
あれね、元々私のだから。
表紙破られて泣いて帰ったら、真ちゃんめっちゃ怒っちゃってさ、
それはもう怖かったんだから。
『仕返しはダメだ』って、必死で止めたのに、
振り切って行っちゃってさぁ。
どうしたと思う? あんただったら、即死すると思うわよ?
黒服着て、あの顔に金縁大門サングラスでしょ。
凄んだ所で『ルガー』を空に向かって、全弾ぶっ放したのよ。
きっと『火薬の匂い』と『金属薬莢』で、ビビったと思うよ?
もう、ボロッボロに泣かせて、失禁までさせちゃってさ、
それはもう学校で『大・問・題』になって、
村田先生が、家庭訪問に来たんだからね。
あの後、一年間正座でトランペット吹いて、反省してたわ」
「日本でも『ルガー』まだ売ってるんだ。で、でも女の子だから」
お互いに深刻な顔で、質問を交わしている。
「違う違う。『モデルガン』よ。本物な訳、ないでしょうがぁ。
それに、女の子? そんなの関係ないわよ。
もうね、そういう所は男女同権よ。昔から。
そもそも『音楽ノート』破いたの、女の子だったし。
あんた、真ちゃんが、昔『何て』呼ばれてたか、知らないの?」
「知らない。何て呼ばれていたの?」
コーヒーに手も付けず、ポカンとしたまま首を横に振っている。
「まじか。『ウルフ』よ。よーく覚えておきなさいよ?
絶滅したはずの、最後の『ニホンオオカミ』よ。
『ウルフ』は襲う時、人を選んだりしないわ。
あんた、よーくっ、注意して取り扱うのよ?
首輪とかリードなんて、全然意味ないし、
怒らせたら、私はもう、知らないからね」
説教でもするように、真衣は香澄に言い放つ。
すると香澄が、少々おどおどしながら頷いた。余程の内容だったのだろう。
「わ、わ、判ったわ。で、でもでもでもでも、
そんな『怒った所』なんて、見た、見たことないけどぉ?」
少々所ではなかった。恐怖すら感じているようだ。
一方の真衣も、ため息交じりに首を横に振っている。
「私だって、二回しか見たことないわ。
一回目は、音楽ノート破かれた時、
二回目は、髪の毛を引っ張られて、泣いた時よ。
あー、今思い出しても、ちびりそうだわ」
指折り数えていたが、それも止めて、全部ぶちまけた。
「そんなに怖いんだ。気を付けよっと」
「そんでさ、音楽ノート返したの? 早く返した方が良いよ。曲書いてくれるからさ。どうせ持ってるんでしょ?」
「え、あんたも持ってるの?」
「持っているわよ。何てったって私のは原本だから」
急に胸を張って、偉そうにしている。




