オープンカフェ(五)
「ほんとですぅー。今度聞いてみてくださぃー」
「聞かないわ。そんなこと」
と思ったら、何だか急に『怒りのボルテージ』が下がったようだ。
むしろ『呆れている』ようにも見える。
真衣は、なんて『寛大』なのだろう。観客達は頷いた。
「もうね。わたしゃあんた達が『問題を起こす度』に、
ひやひやしたんだからねー。判ってる?」
むしろ腕を振って、過ぎたことへの『反省』を促しているようだ。
「え、私、そんな問題起こしてないわ?」
しかし香澄には『その気』は、まったくない。
「やっぱりこれだよ。まー、自覚ないって怖いよね」
対する真衣も、香澄の『良き理解者』なのか、呆れたように手首を振っているだけ。
むしろ香澄の方が、『何が問題なのか』逆に知りたいようだ。
「えー、なにしたの? なにしたの?」
それ所か、むしろ目を輝かせると、まるで『昔話をせがんでいる』ようにも見える。真衣の方が逆に、大きなため息をした。
「はぁー。あのね、私が選ぶ三大事件は、
『香澄家出する』
『真治真っ白になる』
『香澄婚姻届けを出す』かなー」
ゆっくりと説明しながら、閉じた手から、指を一本づつ広げる。
きっと『人生の教訓』でも言っているのだろう。
「あれは家出じゃないから。『東京に行こう』と思って、反対の電車に乗っちゃっただけだから」
しかし香澄は、それすら聞こうとしない。むしろ腕を振って否定しているではないか。
これには流石の真衣も、頭を抱える。
「それで智行兄ちゃんに電話して、真ちゃんと店のトラックで湯戸まで迎えに来させるとか、ないから。普通。
でも、何で智行兄ちゃんの名刺持ってたぁ?」
パッと顔を上げて、不思議そうに聞く。
すると香澄は、口をへの字にして『変なことを聞くなぁ』とでも言いたげだ。少し頭を傾けて、思い出している。
「えー、真治さんが『困った時に、必ず助けてくれるから』って渡されたから、定期入れに入れといた。でもまじで助かったワー」
「まじかー、用意周到だわー。あんたの性格見透かされてるわー」
香澄の笑顔に対し、真衣の呆れ顔。一体、何が起きたのやら。
「でも、なんで問題になったの?」
「そりゃー、社用車で仕入れでもないのに『往復二百キロ』も走ったら、バレるわ」
今度の『理由』には、香澄も納得したようだ。
「へー。会社って厳しいのね。悪いことしたわ。結婚式で会ったら、お礼言っておこっと」
「そうしなさいよー」
どうやら、一件落着である。
「二個目の『真治真っ白になる』は、作曲禁止のこと?」
「そう。あれ、相当落ち込んでたんだからね。
馬鹿だから、忘れるのも早かったけどぉ」
「あはは。そっかそっかー。今度謝っとくー」
え、早くない? 二件落着? まぁ人の話だし。良しとしよう。
すると今度は、真衣が身構える。
左ひじをテーブルに突き、そのまま頬杖の姿勢になると、右手を香澄に『ビュンビュン』振りながら、小言でも言っているようだ。
「三つ目は、あんた、マジやばかったからね?」
「そうなの? そんなに問題になった記憶ないわー。
結局あの時は、結婚できなかったしぃ」
どうやら今度も、香澄に『反省』の様相はない。すると遂にブチ切れたのか、真衣の方がパッと頬杖を止め、顔を前に出す。
「そりゃあんた、良い?」
真衣が真剣な顔で香澄を見ている。香澄は頷いた。
「男は十八、女は十六になったら『結婚できる』って言うのは、
『両・方・が』だからね?
あんたが十六になっても、真ちゃんが十七だと、ダメだからね?」
途中で念押しするように語気を強めているが、香澄は口を尖らせて頷いているだけだ。




