オープンカフェ(四)
「し、して、い、ません。していません」
「ん? 何だ? キスしてたのか? チュッチュチュッチュしてたのか? この淫乱女! あ? こら、んー?」
突然、切れ気味に会話が乱れだす。口を尖らせて、まるで『キス』でもするかのように、何度も何度も『チュッ』と聞こえる。
それだけでなく、中腰になって本当に『キス』でもしそうな勢いだ。二人は『出来ている』のだろうか。
いや、そうではない。香澄は苦笑いでそれを避けるように、両手を振って押し戻している。
しかし、目をピクピクさせながらのその仕草は『昔を振り返り』、そしてそれを、隠しているようにも見える。
「いやいやいや、だから純潔ですって。キスなんてしてません。
しぃてぇまぁせぇんっ!」
何とか言い切るが、そんなのTシャツ女には通用しないようだ。
「あー、嘘ついてるー。何年付き合っていると思っているの。
判った。もう判った。よーく判った。
結婚式に出よう! 出てあげよう!
白いドレスで出席して
『小野寺家の皆さぁん、私が『元・許婚』の真衣ですっ!
思い出しましたかっ!』 って言ってあげよう。ねっ!」
一部日本語まじりのフランス語だが、Tシャツ女は『真衣』と言うらしい。しかも、香澄の結婚相手の『許婚』だったらしい。
他の客が目を輝かせて『パッ』と振り向いたが、二人は直ぐにまた『ファニャファニャ語』になってしまったようだ。
「やめて。ごめんなさい。ホントお願い。チュッチュチュッチュしてました。もう、逢う度していました。正直に言いますから、それだけは勘弁して下さい」
両手を合わせて、平謝りである。
しかしそれでは、真衣の怒りは収まらない。腕を組んで、ジッと睨み付ける。
「何だって? 逢う度だーぁー? それは許せんなー」
そりゃぁ、大事な『許婚』を奪ったら、許せんだろう。
何言っているか判らないが、周囲の客は俄然『真衣の味方』を始めたようだ。
「あ、違います。でも最初は真治さんからなんです。
私は奪われたんです」
香澄の方が口を尖らせて、なにやら『言訳』をしている。
そんな『謝り方』では、絶対に許してくれる筈がない。
「えー、真ちゃんから? それはないわ。絶・対・ないわ」
語気を強く、完全否定した。これは、これから『血の雨』か?




