オープンカフェ(三)
話題を変えようとしているのか。下品な方、いや、TシャツとGパンの彼女が、コーヒーを口にする。
「熱っち。クリーム入れよ。しっかし、あんた髪伸びたわねー」
「あー、これね。ほどくと倍の長さになるのよ」
「どんーだけっ、伸ばしてるのよ? クリームこれ?
結ぶのも大変そうね」
話題の途中で、テーブルの上をワサワサ探している。どうも落ち着きのない感じだ。
彼女も『黙って座って』いれば、声をかける男もいるだろうに。
「そうなのよね。あ、どぞー。
もう、真治さんの前で『バサーッ』てできないわ」
こっちはこっちで、そんな彼女を気にする様子もなく、むしろ『マイペース』でしゃべり続けている。
「でしょうね。それは伸ばしすぎよ。どうしたの?」
鼻で笑ってからの前のめり。一体、今度は何の話なのだろうか。
「前にね
『長くなり過ぎて、もうベッドでしか解けないわ』って言ったら
『それで良い』って言うからね」
したり顔で説明を終えると、珍しく相手が、『ガクッ』となったではないか。
「ちょっ、入れ過ぎた!
おまわりさーん、ここに変態がいまーす」
また突然の日本語である。
「ちょっと、何言ってんのよ。恥ずかしいじゃない」
おや? こちらは初めての日本語である。
するとそこに、さっき『袖にした』男が近付いて来る。
「ぬるっ。だって、変態でしょ。それは。あんた弄ばれるわよ?」
「どうしたらそうなるのよ。そんなことないわよ。ちゃんと、清い交際してるんですからー」
男が何かを言う前に、Tシャツ女が『邪魔すんな』とばかりに、無言で腹に一発食らわせる。男を見向きもしない。
それより、話の続きだ。男は黙って引き下がって行った。
「ねえ、何か他に、変なお願いされていない? 大丈夫?」
「お願い? そうねぇ。うーん」
考えている。思い出している。頭を捻っている。
「あ、今までのデート服、取っといてある位かな。中学のは流石にもう入らないと思うんだけど。一応ね」
すると今度は、なんと下品にもコーヒーを吹き出す。
「ぶっ。ちょ、お、おまわりさーん!
ここに変・態・がいまーす! ゲフッ」
やっぱり、そこだけは日本語なのか。それより、勢いでコーヒーが鼻に入ってしまったのだろうか。必死のアピールで警官を呼ぶ。
傍目に見て、物凄く下品である。
「ちょっ、汚い。ちょっとやめてよ。何? どうした? 大丈夫?」
ハンカチを出して、丁寧に応対する彼女も、何故か日本語である。
すると、さっき『袖にされて』次に『腹に一発食らった』、今日は『非番の警官』が、渋い顔をして席を立とうとして、止める。
二人の会話が、今度は英語ではなく、違う言語に変わったからだ。
「あ、あんた、その意味判ってるの? ねえ?」
「え? なんで? 私達の清い交際の思い出ですから」
どうやら今度は、フランス語のようだ。
「あー、まぁいっか。清いね清いね。でも、まぁ、そうなんだろうけどね。昔からラブラブ・イチャイチャしちゃって、本当に困ったんだからね。このシュークリーム、一個私の?」
「あ、そうよ。唾かかってるしどうぞ。あんたが何で困るのよ」
何だか、また話の途中でワサワサしている。この二人、話す言語を変えても、性格までは変わらないようだ。
何を言っているのかは判らないが、とにかく声がデカい。
「そりゃ先生に、あ、これうまーい。
説明するの大変だったんだから。
あっちでラブラブ、こっちでイチャイチャしてるって、
目撃情報があがって、これ美味いね。
あんた、『不純行為』まで行ってるんじゃないかって、
疑いがかかってたんだからねぇ」
「そうなの? ちょっと落ち着いて食べなさいよ」
低い姿勢で、シュークリームをパク付きながら、下品に喋る姿は、もう『お馴染み』になりつつある。
しかし、余程シュークリームが気に入ったのか、そこだけは女性らしぃ、いや、すいません。指を舐め始めたので『アウト』です。
「ナプキン頂戴。そうよ。その度に私が、
『あの二人は、手こそつないでいますが、
心の傷をなめ合っているだけで、
キスもできない『ヘ・タ・レ・同・士』の、清い交際なんです。
どうか、暖かく見守ってあげて下さい』
って、説明して回ったんじゃない。もう一枚プリーズ」
「え、マ、マジで? 全部あげるわ」
まるで『驚愕の事実』を聞いたかのように驚いている。言った方はナプキン数枚を一気に引き抜いて、満足そうに顔と手を拭く。
「マジもマジですよ。『香澄さーん』。頼みますよ?
まさか裏で『キス』なんぞ、していませんよね?
んん。これほぼカフェオレだわっ」
上品な方は『香澄さん』と言うらしい。そこだけは判った。




