オープンカフェ(一)
電柱のない裏通りに、東京では珍しいその店がある。
木陰があって、足元はウッドデッキ。そんな『絵になる』ような席に、一人でコーヒーを嗜む若い女性が一人。
その姿も、とても絵になっている。
誰かを『待っている』のだろうか。それとも『ただのお散歩』だろうか。それにしては、お洒落に着飾った服である。
このまま連れ出しても、さぞや楽しかろう。
だから、さっきから何人もの男が声をかけているのだが、彼女は右手を軽く振りながら、何やら『モニョモニョ』言うだけで、袖にしている。男達は彼女の笑顔を見て、満足するしかない。
そんな光景を他の席に座る客が眺めていて、男が立ち去る度に『勝手な噂話』を繰り広げているのだが、それも気にする様子もない。
すると、彼女が右手の拳をあげ、表情がパッと明るくなる。
どうやら『待ち人』が来たようだ。
「ここだよー。ひさしぶりー。コーヒー頼んどいたよー」
客達は、何語か判らない『モニョモニョ語』を耳にしていた。
それでも、彼女の視線の先に興味を集中させる。
「いたいた。ひさしぶりー。サンキュー。いやー、呼び出したのに遅れてごめんね。元気にしてた?」
すると、そこに現れたのは『TシャツにGパン姿』の、若い女性であった。悩みも何もなさそうな、元気一杯の姿だ。
彼女の方も、場の雰囲気に合わな過ぎていて、それが逆に、ある意味『絵になる』感はある。
それにしても二人は、不思議な組み合わせだ。
「元気元気ー。そっちはー?」
「元気だよー。ちょっとぉ、真ちゃんに聞いたけど、おたくら、やっと結婚するんだってぇ? 遅くない?」
どうやら二人は『英語』で話しているようだ。
「うん。やっとだよー」
「絶対そっちが『先に結婚する』と思ってたのに、いがーい」
なるほど。見た目は日本人だが、二人共、外国人なのだろう。
さっきから『袖にしていた』のは、『ニホンゴ・ワカリマセーン』だったのかもしれない。
「『大学卒業するまで待て』って言われていたからね。やっとだよ」
誰かの真似だろうか。急に『野太い声』で話すと、素に戻る。
「そっかー。でもまぁ、想いが叶って良かったねー」
「ありがとねー」
観客達、いや他の客達は、テーブルにある、自分のケーキセットに集中し始める。
二人は『理解されない』と思っているのか、割と大きめの声で話しているので、会話は『丸聞こえ』である。
しかし早口で、おまけにネイティブな英語なのか、それとも日本では珍しい『クイーンズイングリッシュ』だからなのか、全く内容は理解できない。
「あ、コーヒー私でーす」
急に日本語? コーヒーを持って来たウイエターが、驚いているが、コーヒーを置いてお辞儀をした時には、また元に戻っていた。
「でさー、どうして式に出てくれないの?」
「あちっ。ん、嫌だよぉ」
「どうしてよぉ」
「みんな『私の過去』を、知っている人ばっかりなんだよ?」
とても嫌そうな顔だ。
「大丈夫だって。お母さん再婚して、苗字も変わったんでしょ?」
「その後結婚して、まーた変ったわ」
「そうだったね。おめでとうね」
「ありがとう。そっちこそ、式出てくれなかったじゃん」
「だって、日本にいなかったんだから、しょうがないじゃん」
指さした上に口まで尖がらせて、急に怒り始めた。しかし、言われた方は平然としていて、両手の平を肩まで上げている。
喧嘩をしている様子はない。二人共、笑顔のままだ。
「ねえ、夫婦で席作るからさ、式に出てよ。もう何年の付き合い?」
「小四だから十年以上だねー」




