表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
252/272

それから(十二)

 調子に乗った二人は『スコア』の如く、一ページ十段に『別々のメロディー』を重ねて行った。


 それはたった四ページ一六小節の曲であったが、全員が別々のメロディーを奏でるはずの、曲となった。


 真治は正に七転八倒して、メロディーを叩きだしたのだ。


 香澄はそれを十枚の楽譜にして部活の練習に持って行き、休憩時間になるとクラリネットの仲間達に一枚づつ渡し、演奏を試みた。


 真治が指揮をして曲が始まると、それはとても酷いものだった。全員で笑った。やはり無理は良くなかった。


 試しに半分の五人で演奏すると、それは美しいメロディーになった。みんなで手を叩き合って喜んだ。

 香澄と真治は互いの右手をパチンとやって、喜んだ。


 そこに、トイレから帰って来た村田が現れ、不思議なメロディーを聞いて、ふらりと教室に入って来た。

 香澄は十枚の楽譜を見せ『五枚までは上手く行った』と伝えると、村田は面白がってそれを覗き込み、手に持っていた赤ペンでちょいちょいと修正して返した。


 クラリネットの一同はそれを受け取ると、もう一度演奏してみた。


 複雑に絡み合う旋律は、奏者も目を丸くし、それはそれは不思議な、もう奇跡と言っても良いメロディーになって、教室に響く。

 演奏が終わると、一同は真治に向かって惜しみない拍手を送った。


 真治は村田に深々と頭を下げ『ありがとうございます』と言った。


 村田も最初は『いや、大したことないよ。でも凄いな』と褒めていたのだが、真治が『いやいや、凄くないですよ。ほぼ徹夜で、二週間もかかりましたから』と告げると『勉強しろ!』と笑いながら怒り出し、真治にヘッドロックを決めた後、楽譜を没収して行った。


 それから真治は、卒業まで『作曲禁止』になった。




 卒業式の一週間前、最後の全校朝礼で離任する教員の名前が発表された。その中に、合唱部顧問白鳥の名前があった。


 合唱部の部員達は、泣いていた。


 花束を渡すために現れたのは、来年度から音楽教科主任になる村田だった。ステージ中央に立つ白鳥に花束を渡すと、拍手の中、生徒の方に向くと、右手を『ステージ袖にあるピアノ』に向かって、振り始めた。


 全校生徒は『その前奏』に聞き覚えがあった。


 にっこり笑って指揮をする村田が、歌い出しで強く両手を振り下ろすと『ハレルヤ!』の大合唱が始まった。


 村田はしばらく指揮をしていたが、目で白鳥に合図を送り、手に持った花束を半ば奪い取るように預かると、意図を理解した白鳥は、涙も拭けぬまま指揮を引き継ぐ。


 そして、最後まで演奏が終わり、両の手をほぼ万歳に近い状態で広げて歌い終わると、全校生徒から惜しみない拍手が送られる。


 再び花束を持たされて、白鳥が『お礼』を言ったかもしれないが、それは、鳴り止まぬ『より大きな拍手』によって全て掻き消された。


 全校生徒の退場が始まったが、合唱部だけが退場する人の波を掻き分け、白鳥の周りに集まって泣いていた。


 多分、野球部だったら『監督の胴上げ』をする所なのかもしれないが、傍目にもそれは無理と判った。



 その日は、吹奏楽部でもお別れ会があった。

 二月も中旬から三年生は既に登校しておらず、今日が卒業式前最後の登校だったのだ。

 三年生全員がいなくなり、残る一、二年生も半分が新しい学校に通うことが決まっていた。


 真治も香澄も、そして真衣もこの学校を去る。

 今日で、この音楽室ともお別れである。部員全員で合奏が行われ、笑って解団となった。


 後片付けが終わった音楽室では、教壇にあるピアノの周りにピアニストが集まって、交代でピアノを弾いていた。

 日はまだ高いし、まだ『音楽室にいたかった』のもあるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ