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花火の夜(六)

「クラッシックは、何が好きなの?」

 圭太が話題を変えて来た。真治はとりあえずホッとする。


「第九が好きなので、年末になるとお店でずっとかけてたりします」

「それは『迷惑』なのでは?」

 圭太は苦笑いして聞いた。『第九』って、当然あれだよね?


 日本で年末になると『ベートーヴェン』の『交響曲第九番』が流行るのは知っている。でも、凄く長い曲である。

 地元ドイツの指揮者でも『一生の内二、三回振ることがある』なのに、来日すると『朝昼晩と一日三回振った』と、溢す程なのだ。

 ちなみに『第九演奏会』は、『アンコールはご遠慮ください』だ。


「そうかも、しれません、ねぇ」

 真治はちょっと考えて笑った。その笑顔を見て圭太は『コイツそうは思っていないな』と感じた。しょうがない奴だと思い、笑う。


「お家、お店やってるの?」

「はい。一応住んでいる家が『本店』で、店舗兼住宅なんですけど、それ以外にも色々ありまして」「へぇぇ」

「もう『親戚中でやっている』ので、『どの店が誰のか』は、私もよく判りません」「どういうこと?」

 何だか手広く商売をしているらしいが、圭太にも中学生の真治にも、よく判らないことのようだ。


 真治が人差し指で、頭をポリポリやりながら答える。

「えーっとですね、私も詳しくは判らないのですが、『島田』『島崎』『島山』の島三家と、『小野寺』『小嶋』『小山』の小三家で『藤門会』というのをやってましてぇ」

 早口だった真治の言葉が、少しゆっくりになった。


「ほう。何か『親戚』が、一杯出て来たね」

「はい。家紋がみんな『下り藤』なんだそうで、そこで、生鮮、物流、自動車整備、燃料販売、不動産、などなど、なんだか色々と」

「そんなにやっているんだ」

 真治が知らないだけで、本当はもっとある。

「はい『何か新しい店ができたなぁ』って思って、ちょっと行ってみたら、『親戚の店』だったりします」

 真治は両手をあげ、困ったそぶりをした。


「へー、じゃぁ御曹司なんだ」

 圭太は口を尖がらせた。香澄に似ている。いや、逆か。


「いえ、継ぐっていうのはないですねぇ」

 真治はにこやかに手を横に振った。とんでもない話だ。

「そうなの? 次男だからとか?」

 真治の漢字を知らないので『信二』『信次』と予想したのだろう。


「違います。商人なので『女の子』が継ぐんですよ」

 真治はにこやかに手を横に振り続ける。まぁ『次男』ではあるが。

「へー、そうなんだ。珍しいねぇ」

「それがそうでもなくて『昔から』って言われました。だから男は基本『婿養子』でして」

 そう言うと真治は、少し照れくさそうに頭を掻く。


「島三家と小三家で女の子が生まれると、許婚が決まるらしいです」

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