表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/272

花火の夜(五)

「特別なことは、してないんですけど」

 真治は一応、そう前置きする。

「楽器をお借りして、リードの締め具合変えたり、マウスピースの咥え方、口の大きさ、漏れ具合等々を調整しまして」

 見えないクラリネットを両手で表現し、説明をする。


「それで『一曲』吹いただけなんですけど」

 当時を思い出す犯人のように、真治は答えた。


 なるほど納得。しかし圭太には、確かに『普通』のことだった。


「クラリネット、吹いたことあるの?」

 だからこそ、圭太は腕組みをして考えている。

 毎晩香澄に聞かせていた演奏と『泣く程の演奏』の違いとは。


「いえ、その時が初めてです」

『うぞっ』無音のまま、腕組みをしていた圭太の顔が一瞬で変わる。

 それを見た真治が、慌てて付け加える。


「サックスなら何度か吹いたことがあります。男子と楽器交換で」

 圭太は一応頷いたが、それは『数の内』に入っていないようだ。


「そうなんだ。どんな風に演奏したの? 是非演奏して欲しいよ」

 圭太は両手でリビング中央を差し『こちらでどうぞ』な雰囲気を醸し出し、ソファーに寄りかかってリクエストした。


『聞いてやるぞ。何なら家の楽団でスカウトしてもいい』

 そんな感じだろうか。笑っているが、目が真剣だ。


「いやいや、それは勘弁して下さい」

 真治は右手を明確に左右に振ってお願いする。しかし、圭太の表情は変わらない。むしろ、口角だけが上に上がって行く。

 すると真治は、両手を合わせてお願いを始める。


「ただ、『ニニ・ロッソ』と『シル・オースチン』と『ポールモーリア』と『グレンミラー』と『グリーンスリーブス』と『ダニーボーイ』を足して、二で割っただけなんですからっ」

 真治が一気に説明すると、また沈黙が訪れた。


 圭太は空を見て、何か考えている。眉毛をピクつかせながら。

 真治が『もう一度説明が必要か?』と思っていると、ゆっくりとこちらを向いて、真治に確認を求める。


「それ、二で割っても、一、だいぶ超えてない?」


 言われた真治はハッとした顔になる。

「あ、そうですね。ちょっと混ぜ過ぎましたね」

 確かに『奏者二名』と『作曲家二名』と『作品二曲』を混ぜてしまった。カッコで括って各々二で割ったと説明しないといかん。


 しかし圭太は別のことを思っていた。

 幾ら混ぜても良いのだ。二で割るな二で。


「君、計算苦手なんじゃない?」

 こいつ大丈夫かと思って、圭太は苦笑いした。真治は頭を掻く。


「いつも『原価計算できてない!』って、怒られています」

 今日も『お刺身の盛り合わせ』で『超お得な一品』を生み出してしまい、怒られたばかりだ。まるで神。現場を見ていたかのようだ。


「そっちの計算じゃなくて、いや、一応、良いのかぁ?」

 圭太も、訳が判らなくなってきた。


 仕方なく二人は、真剣な目のまま『乾いた笑い』をした。

 うん。どうやら、だいぶ打ち解けて来たようだ。



「所で『クラリネット奏者』が、入っていないみたいだけど?」

 圭太はにっこり笑った。

 真治は『しまった』と思いながら、直ぐに答える。


「あー、すいません。さっきの二項式として『ベニー・グッドマン』と『ジョージ・ルイス』も加えてください」


 まだ加えるのかっ! 圭太は吹き出した。しかも、どう加えれば良いのかは、真治にしか判らないではないか。困って聞いてみる。

「有名所が出て来たね。更にプラス? それともマイナス?」


「全体を二乗してからプラスで。ジャズクラリネットも好きでして」


 意味が判らん。一体『何に』気を使っているのやら。

「そうなんだ。ジャズから入ってるんだね」

 圭太は頷いた。真治は汗を拭き、頷きながらニコニコしている。


 圭太は思い出す。そうねぇ。『ジャズ系の演奏』を、香澄に聴かせたことはなかったなぁ。若い頃は、俺も『かじった』ものだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ