花火の夜(四)
しばらくの間、沈黙が続く。とても気まずい沈黙だ。
すると、圭太の方から会話の戦端が開かれた。
「真治君はトランペットなんだって?」
「はい。そうです」
張り詰めた空気が重い。
「いつからやってるの?」
「小学四年生からです」
「そう」
ここでまた、しばしの沈黙が訪れた。
お互いに『次の話題』を模索している。
今度は真治が戦端を開く。
「ニニ・ロッソを目指してます」
圭太は少し笑った。良い目標ではないか。『好きだ』『憧れ』ではなく『目指す』とは。
しかしそれでは『まだ子供だな』と、思わざるを得ない。
「そうなんだ。頑張ってね」
音楽はその人の『魂の叫び』である。上辺だけ真似をするのも『取っ掛かり』としては悪くない。まぁ、後は自分次第だ。
「でも、それがどうしてクラリネットを吹くことになったんだい?」
真治は、やっぱり『その話題から』なのかと思う。
仕方ないだろう。自分が『プロのクラリネット奏者』であったと思って、娘からの手紙を読んで欲しい。
『部活でね、トランペットが上手な小野寺先輩が席に来てくれて、
クラリネットで『グリーンスリーブス』を吹いてくれたんだけど、
感動して泣いちゃったの。
だから、すっごく恥ずかしくなっちゃって、真治さんが、
先生に呼ばれてお話をしている隙に、逃げてきちゃった。
あぁあ。もっと聞きたかったのになぁ。残念。
私のために、また吹いてくれないかなぁ』(原文ドイツ語)
なんて、手紙に書いてきたのだから。
圭太は驚き、目ん玉が飛び出たのだ。
「お嬢さんの香澄さんから、相談されまして」
そう言いながら真治は考える。
あの時自分は、何を思っていたのだろう。説明は難しい。
「トランペット吹きの君にかい?」
まずは『そこから』説明しないといけないのか。想定した『スタート地点』とは違う。そう思うと真治は、ちょっと憂鬱になる。
「香澄さんは、学校ではとても大人しいので」
「そうらしいね。家ではあの通り『元気』なんだけどね」
真治は頷いた。おっしゃる通りです。
圭太はにっこり笑って、真治の話を待っている。
「親友のトランペット吹き経由で、お昼休みに相談されました」
大分省略したが良しとする。圭太もそれで頷き、納得してくれた。
「どんな相談? まぁ、私に聞いて来たことなんてないんだけどね」
「そうなんですか。プロがいるのに勿体ない」
「家にいないからねぇ。で、どんなこと聞かれたの?」
圭太は自分で突っ込んで笑ってから、真顔になった。
そんな顔をされては。真治は言い辛い。
「えーっと、同じ音しか出なくてつまらない、一音しか出なくてつまらない、合奏しても副旋律はつまらない。こんな感じです」
「ボロクソに言われているねぇ」
苦笑いの圭太を見て、真治は慌てて両手を前に出し、上下に振る。
「いや、香澄さんには内緒にして下さい。お願いします」
「良いよ。約束しよう」
怪しいもんだよこの親父は。いや、お父様は。いや……。
「それで、どうしたの?」
圭太は前のめりになった。
もごもごしている真治の方を向いて、ギロリと睨む。
それはまるで『家の娘に何をしたんだよ』と、言いたげだ。




