表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/272

花火の夜(四)

 しばらくの間、沈黙が続く。とても気まずい沈黙だ。

 すると、圭太の方から会話の戦端が開かれた。


「真治君はトランペットなんだって?」

「はい。そうです」


 張り詰めた空気が重い。


「いつからやってるの?」

「小学四年生からです」

「そう」


 ここでまた、しばしの沈黙が訪れた。

 お互いに『次の話題』を模索している。


 今度は真治が戦端を開く。


「ニニ・ロッソを目指してます」


 圭太は少し笑った。良い目標ではないか。『好きだ』『憧れ』ではなく『目指す』とは。

 しかしそれでは『まだ子供だな』と、思わざるを得ない。


「そうなんだ。頑張ってね」

 音楽はその人の『魂の叫び』である。上辺だけ真似をするのも『取っ掛かり』としては悪くない。まぁ、後は自分次第だ。


「でも、それがどうしてクラリネットを吹くことになったんだい?」


 真治は、やっぱり『その話題から』なのかと思う。


 仕方ないだろう。自分が『プロのクラリネット奏者』であったと思って、娘からの手紙を読んで欲しい。



『部活でね、トランペットが上手な小野寺先輩が席に来てくれて、

 クラリネットで『グリーンスリーブス』を吹いてくれたんだけど、

 感動して泣いちゃったの。

 だから、すっごく恥ずかしくなっちゃって、真治さんが、

 先生に呼ばれてお話をしている隙に、逃げてきちゃった。

 あぁあ。もっと聞きたかったのになぁ。残念。

 私のために、また吹いてくれないかなぁ』(原文ドイツ語)



 なんて、手紙に書いてきたのだから。

 圭太は驚き、目ん玉が飛び出たのだ。


「お嬢さんの香澄さんから、相談されまして」

 そう言いながら真治は考える。

 あの時自分は、何を思っていたのだろう。説明は難しい。


「トランペット吹きの君にかい?」

 まずは『そこから』説明しないといけないのか。想定した『スタート地点』とは違う。そう思うと真治は、ちょっと憂鬱になる。


「香澄さんは、学校ではとても大人しいので」

「そうらしいね。家ではあの通り『元気』なんだけどね」

 真治は頷いた。おっしゃる通りです。

 圭太はにっこり笑って、真治の話を待っている。


「親友のトランペット吹き経由で、お昼休みに相談されました」

 大分省略したが良しとする。圭太もそれで頷き、納得してくれた。


「どんな相談? まぁ、私に聞いて来たことなんてないんだけどね」

「そうなんですか。プロがいるのに勿体ない」

「家にいないからねぇ。で、どんなこと聞かれたの?」

 圭太は自分で突っ込んで笑ってから、真顔になった。

 そんな顔をされては。真治は言い辛い。


「えーっと、同じ音しか出なくてつまらない、一音しか出なくてつまらない、合奏しても副旋律はつまらない。こんな感じです」

「ボロクソに言われているねぇ」


 苦笑いの圭太を見て、真治は慌てて両手を前に出し、上下に振る。


「いや、香澄さんには内緒にして下さい。お願いします」

「良いよ。約束しよう」

 怪しいもんだよこの親父は。いや、お父様は。いや……。


「それで、どうしたの?」


 圭太は前のめりになった。

 もごもごしている真治の方を向いて、ギロリと睨む。


 それはまるで『家の娘に何をしたんだよ』と、言いたげだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ