テスト期間(三十七)
真治は真っ直ぐ香澄の部屋に行くと、部屋の電気を付けた。
落ち着いて良く見ると、この部屋にベッドはなく、消音室の反対側にドアがある。
真治は納得した。なんだ、もう一部屋あるんかーい、と一人突っ込み、金持ちは違うなぁと思った。
正面には窓があって、カーテンがかかっている。
消音室へ向かう前に、真治はそのカーテンを、レールから動かないように摘まんで隙間を開けた。
レーザービームを警戒してのことだ。
覗いた外は大分暗いが、窓の下には桃木があった。
それは『いつか見た風景』でもあり『初めて見た風景』でもある。
真治は『見上げた窓』が、ここだったのかと納得すると、カーテンを放した。生き延びた。
消音室に入ると一礼して、ピアノの蓋を開けた。
白と黒の鍵盤が真治の前に現れる。
真治はピアノを見ると思う。
作った人も、弾く人も、器用なことをするものだ。
これを自由に弾きこなせたなら、どんなに素敵なことでしょう。
真治は『トーン』と一音鳴らす。とても良い音だ。
ちょっと素早く動かして鍵盤を連打してみる。そこで真治は驚きの顔になった。
「う、嘘だろ? なんだこれぇ。反則じゃーん」
どんなに連打しても、ピアノの音が一つづつ聞こえるのだ。
まるでグランドピアノではないか。
これ、実は壁の向こうまでピアノが埋まっているんでしょ。と、思って覗いて見たが、そうではない。
真治は、ちょっと分解したくなった。
真治は両方の手で自分の頬を叩いた。
大事なピアノを弾かせて貰うのに、分解はよろしくありません。
真治は気を取り直して『朧月夜』を弾き語りながら、何を弾こうか考えて上を向いた。
そして、はっと気が付いて消音室の入り口を見る。
香澄の笑顔がシュッと隠れるのではないかと思ったが、そんな様子はない。真治は一人笑った。
そんな笑顔も直ぐに消える。真治は『朧月夜』に違和感があった。
なんだか説明し辛いのだが、音が合っていない気がする。
そんなはずはないと思いつつも、両手でドレミファソラシドを三往復弾いた。やっぱり、違和感が、ある。




