テスト期間(三十五)
真治は安心する。自分の力だけで、何とかなることだ。
「え、あぁ、良いけど。ギブ・エーンド・テイク! ですね!」
「はい。持ちつ持たれつです!」
二人は笑顔で言い合った。
真治は『ヒュッ』と振り出した人差し指で、香澄を指す。
「お、小石川さん、国語、得意じゃないですかー」
すると香澄は、途端に口を尖がらせる。そして、苦言を呈す。
もう、我慢の限界だ。
「あ、また言った。もー」
急に香澄の機嫌が悪くなる。真治は驚いた。
香澄に嫌われたくはない。何が起きた? 何を言った?
「え? 何? どした?」
真治は何だか判らなくて、困っている。
香澄はそれも許せない。直ぐにその理由を説明する。
「さっきまで私のこと『香澄さん』って呼んでくれていたのに『小石川さん』になっていますよ? もぉー、すごぉぉく、嬉しかったのにぃぃっ。どうしたんですか?」
香澄は目を大きくし、裏切り者を見るかのように真治を見る。
「あら、そう?」
真治はどこで『香澄さん』と言ったのか、思い出そうとしていた。しかし、思い出す程の時間を貰えない。
香澄が右手を振りながら真治に言い放つ。
「そうですよ。今度『小石川さん』って言ったら、その度に『英語の難易度』、どんどん上げて行きますからねっ!」
香澄は目を見開き、妙に『にっこり』と笑った。塾の講師かっ。
「いやいや、それはないでしょ」
真治は慌てて香澄を覗き込む。
笑っているが、目が本気だ。言葉に詰まる。
「んん?」
香澄はそう言って、小首をかしげて真治を見た。
さて、私は誰でしょう。
「香澄さん」
真治は言わされた。
香澄はまた、上半身を左右に揺らし始める。
「良くできましたぁー」
香澄は機嫌良く前を見た。真治は考える。
一体どこで『香澄さん』と言ったのか、まだ思い出せずにいた。
それでも、髪とスカートを揺らしながら機嫌良く歩き、時々真治を見つめて笑ったり、照れたりしている『香澄さん』を見て思う。
『まぁ、良いや』




