テスト期間(三十三)
真治はいつも、他のお客様にカートを使ってもらおうと思っているので、黄色いかごだけを手にした。
持参した買い物かごと、スーパーの黄色いかごを持った真治の姿を見て、香澄は口をへの字にする。
どちらか持つと言ったのに、どちらも持たせて貰えない。
そこで、無理やり黄色いかごの方の、片方の取っ手を取ってみた訳だが、三歩も歩く内に、香澄は凄く楽しくなってきた。
満面の笑みを浮かべ、一歩毎に上半身を左右に振って歩き始める。
それにつれ、長い髪と、短いスカートが、真治の前でゆらゆらと揺れていた。
香澄はメモを見る度に振り返り、次の商品が置いてある場所を真治に教えながら、店中を引っ張り回したのだ。
そして帰りの並木道でも『買い物かごの取っ手』を、片方づつ持って歩いている。
「今日は何時までいられます?」
香澄は真治の顔を覗き込んでいる。
「うーん」
真治は考えていた。
一人で友人宅にて『夕食をご一緒』したことはない。
親戚の家でなら、沢山あるけれど。
そんな真治の様子を見て、香澄は理解する。
真治が黙っているのは考えているからだ。自分のことではなく、今は香澄のために、正確な答えを求めているのだ。
誠実? いや、慎重? ある意味マイペース。面白い人だ。
「夕飯っていつも何時なんですか?」「九時かな」
ほらね。自分のことだと、聞かれれば直ぐに答える。
香澄は面白くなって来て、また上半身を左右に振り始めた。
「え、随分遅いんですね。じゃぁ九時位まで?」
横に振った上半身が真治の方になるタイミングで、シュッと真治の顔を覗き込んだ。楽しそうに笑っている。
きっと『悪い』って言うよ。そんな予感がする。
「いやぁ、そんなに遅くまでお邪魔しちゃ悪いでしょ」
真治は真面目に答えている。
香澄は『予想通り』だと思っていた。
また『シュッ』と、真治の顔を覗き込む。
今度は、目をピクリとさせた『悪戯っぽい顔』だ。
「泊って行っても、良いんですよ?」「いやいやいやいや」
真治は息を詰まらせ、慌てて答えた。
香澄は右手を口に当てて、笑っている。
上半身を振るのを止め、やさしい笑顔になって真治に言った。
「お布団ありますからね」
真治からの返事が、ある訳もない。




