テスト期間(三十一)
二人が十分離れた所で、調理場はまた賑やかになる。
「良い子じゃないですかー。首を横にキュッとしちゃってぇー」
「あれ、かっわいーなぁ」「だよねぇ。うちの子もね、やるのよぉ」
「いやー、それにしても、仲良いですね」
「あぁ、もう真ちゃん、後ろから直視、できてないじゃーん」
「もう絶対あれ『目逸らしてまーす』だよなっ」「見てやれよっ」
「ちょっ、それが出来たら苦労しないですぅ」「ギャハハひでぇ」
「それよりお前『若奥様』なんて言って、後で怒られるぞっ」
「そうだ。俺もしらねーぞ? 真ちゃん、すげぇ怒るぞぉ」
「いや、彼女の方、喜んでたじゃないですかぁ」「それは確かに」
「だから、真ちゃんボーっとしてて、覚えてないっすよぉ」
「お前ら、手を動かせ手を。後で青果の方からも、報告来るから」
島田が、笑いながら店員に注意した。
そして自分はと言うと、エプロンを外しながら言う。
「ちょっと『福神漬け』と『らっきょ漬け』が出てるか見て来る」
「えー、島さん、だめですよー邪魔しちゃー。顔怖いんだからー」
「うるせー。邪魔じゃないよ。売上アップアップだよー」
島田は笑顔のまま、調理場を出ると、『いらっしゃいませ』を連呼しながら、二人を先回りして漬物売り場に向かった。
そして、真治が好きな『らっきょ漬け』を三つ取ると、それっぽくスペースを作り、売れ筋の『福神漬け』の隣に置く。
そして、棚の陰に隠れて小鳥が来るのを待つかのように見守った。
やがて香澄と真治が来ると『福神漬け』と『らっきょ漬け』を一つづつ買い物かごに入れるのを観察した。
二人にばれないように、反対側へ回り込むと『らっきょ漬け』を元の場所に戻して棚を整え、持ち場に戻る。
「若奥様旦那様の好み聞いて『らっきょ漬け』も買ったよ。なぁ?」
「何やってんですかー。予算オーバーしたら、どうすんですかー」
「いやー、めっちゃ優しい奥さんじゃーないですかー」
「ホント羨ましい。家のと交換したいわー」
「馬鹿、それは両家から怒られるって。もう、俺を巻き込むなよ?」
忙しく手を動かしながら苦情を言うが、みんな笑顔だ。
「あ、そうだ。カレーにはセロリ入れるよな。隠し味で」
「えっ、じゃぁ、俺行ってきます。セロリの専門家なので」
「いやいや、今度は、俺が行ってきますよ。ずるいですよー」
店員は、真治達を笑顔で見守った。
真治が三号店を客として訪れたのは久し振りだった。それまでは真衣と二人で来ていて、良くここで馬鹿話をしていたのだが。
真衣が中学生になってからは、めっきり来なくなっていた。
三号店には今は亡き五号店の店員だった者もいる。
みんな『小さい頃の真治』を知っていて、我が子のように見守っていたのだ。
レジ係達も、二人をひっそりと観察していた。
「こちらへどうぞ」
それを聞いた香澄が、案内されたレジの方に吸い寄せられて行く。
すると、買い物かごの反対側を持った真治が、ガクンとなりながら引っ張られて行くのを、笑いを堪えて見守った。
きっと防犯カメラに写った『真治の様子』が、アナウンス付きで編集され、『今日の事件』として回覧されるだろう。
真治と香澄は、持参した買い物かごまで二人でぶら下げて、薄暗くなった街へと退店して行った。
店員達は、しばらく『二人の話題』で盛り上がるのだった。




