テスト期間(二十九)
駅前のスーパーは、夕方だから混んでいた。
そこに、館内放送が流れる。
『業務連絡。業務連絡。レジ応援願います』
どうやらレジが混んできたようだ。二人で品出しをしていた店員の一人が、示し合わせて頷きレジに向かう。
館内放送の音楽が流れ始めたと思ったら、また途切れる。
そして、また業務連絡が入った。
『業務連絡。ダブルオー』
それはとても早口で、抑揚もなく短い連絡だ。
しかし、それを聞いた店員に緊張が走る。品出しをしている店員も背筋を伸ばし、きびきびとしていたが、よりきびきびとなった。
スーパーにはお客様にはバレたくない用語というのがある。
生鮮食品を見ているお客様の前で『ちょっとうんこ行ってきます』と言えないのと一緒だ。
そういう場合は『ちょっと坂東太郎を塞き止めてきます』とか言うのだ。
今の業務連絡『ダブルオー』は本社の人が来たことを表す。
本社採用の社員番号は先頭二けたがゼロなので、そういう言い方をする。
と、ここまで説明しておいて何だが、この『ダブルオー』というのは三号店だけの暗号で、会社全体の暗号ではない。
考えてみて欲しい。
そんな暗号、本社の人にもバレてしまい、意味がないではないか。
今の『ダブルオー』とは、『御曹司の真治が客として来店した』ことを、意味しているのだ。
放送を入れたのは、真治をいつもからかっている精肉部の『島田智和』だ。もちろん真治は『この暗号』を知らない。
「あれ? 真ちゃん、今日お休みって連絡ありましたよね?」
「ああ、本店の店長からさっきな」
「風邪じゃないの?」「何だ、元気なんか? 何処?」
二人は業務連絡を聞いてきょろきょろしていたが、店の入り口付近にある青果売り場に、真治と香澄を見つけた。
「あれま、あの子が真ちゃんの『コレ』ですねぇっ」
品出しをしながら小指を立てる。
「そうなんじゃない? 結構かわいい子じゃーん」
こちらも品出しをしながら、ちらりと見ている。
「何だ。バリバリ元気そうじゃん」
「だねぇ。買い物かご、二人で持っちゃって。あらぁ」
「そうだなー。彼女、何だか凄い『ご機嫌』じゃん」
「仲良さそうですねぇ。人参、ジャガイモ、で、玉ねぎか」
「カレーですかね。あ、まった見つめ合っちゃって」
「カーッ。羨ましいぃぃっ」「だな。おぅおぅ、こりゃー熱々だ」
「これはちょっと、精肉行って来るわ。ここ頼む」
「判りましたー。良く見張っときまーす」
店員は『アイコンタクト』をすると、早足で歩き始めた。




