テスト期間(二十八)
真治が気を取り直して、説明をする。
「いやいや香澄さーん、べっ甲の髪飾りと言えば、高級品ですよ?」
「どんなのですかっ?」
香澄が嬉しそうに聞く。真治はダメだと言ったのに、説明はする。
「んーとね、琥珀色のやつ。見たことない?」
「琥珀って、何ですか?」
香澄が真顔で質問する。通じない。
真治は『あれっ』と思って、ちょっと慌てた。
「え、んーとね。松脂が化石になったやつ?」
「べっ甲って、松脂からできているんですか?」「えっ?」
「何か、ベトベトしそうですねぇ」
真治はまたずっこける。それでも、もう一度気を取り直す。
「いやいや、香澄さーん、そうじゃなくてぇ、えーっと、色つやは琥珀に似ているんですけど、原材料は、海亀の甲羅ですよ?」
左手に持った買い物かごを振りながら説明する。
香澄は何だか嬉しそうにしているが、頭を捻って考えたままだ。
「亀なんですか?」「そうです。そうです」
真治の答えを聞いて、香澄はニ、三回首を捻った。そして口をへの字に曲げ、鼻をつまんで聞いて来る。
「亀臭するんですかぁ?」
モゴモゴとした変な声。予想もしなかった質問に、真治は困った。
「え? え、いやー、亀の臭いって判らないけど、多分しないと思いますよ?」「本当ですかぁ?」
まだ鼻をつまんで、変な声で聞いて来る。
香澄の念押しに、真治は固まった。
確か『何年も乾燥したもの』を使っていると思うから、臭いはしないはずなのだが、確証はない。
いや、豆腐も『外人は臭いって言う』らしいし、はてさて、どうなんだろう。もしかして、臭わないのは日本人だけ?
いやいや、べっ甲って世界中で販売されているよね?
考えながら、ちらっと香澄を見た。
香澄は鼻から手を放し、笑っている。
「あー、やっぱりね、亀臭します。それでね、松脂で、もうベットベトです!」
咄嗟に答える。頭を縦に振りながら、香澄のモゴモゴ声を真似た。そして、歯を思いっきり見せて『ニッ』と笑う。
その様子を見た香澄は、ちょっと怒った。
モゴモゴ声は止め、声のトーンが上がる。
「ちょっと! 嘘なんですね! 買わせまいとしてますね!」
目をくりくりさせ、頭からポンポンと湯気を出す。
真治はその湯気を払う様に手を振ると、笑いながら『否定の歌』を歌い始める。
「いやいやぁー、かわいい香澄さんにぃはぁー、本人が望むものぅをぉー、買ってあげまぁすよぉぉぉ」
嘘か誠か、いかにも怪しい『オペラ風』だ。
ぐっと顎を引き、喉を開けた良く通る低い声。口を大きく開けているが、まるで『上辺が長い台形』のような形。
だから口元まで『ガッチリ』と力が入っている。
聞いた香澄の答えも、嘘か誠か判らないオペラ風になっていた。
「じゃぁ、それにしますうぅ。絶対それにしますうぅ」
伸びた右手には、強い決意が込められている。見事に歌いあげた。
真治はそんな香澄を、嬉しそうに見つめている。
口を凄く尖がらせて歌う香澄も、また、かわいい。
そう思った、真治なのであった。
閉幕。




