テスト期間(二十三)
香澄は普段着にしては『とびきりかわいい服』を着ていて、セーラー服のスカートよりも、丈が短いものをチョイス。
何と言う服装に、着替えて来たのだ。見えちゃう、いや見ない。
それで、ピアノの椅子に深く座り、両手を太ももの下に入れて、足を浮かせている。
目のやり場に困るのは本当で、鼻血は比喩だ。
「何て曲なんですか?」
小首をかしげ、素足をぶらぶらさせながら聞いてくる。
「『夜空のトランペット』って曲だよ」「練習曲なんですか?」
香澄の質問に、真治はちょっと吹いてしまった。
手を振りながら言う。
「いやいや、香澄さーん。一度はトランペッターを夢見たのであれば、『トランペットの曲』を聴きましょうよ」「はいぃ」
香澄が嬉しそうに話しを聞いている。
「これは結構有名な曲なんですよ?」「そうなんですかー」
それでも口を、ヘの字に曲げる。香澄にしてみれば『知らんもんは知らん』と言った感じだ。
「じゃぁ、一曲聞かせて下さい」
香澄が笑顔で真治にお願いする。また素足が動き出す。
真治は困った。
「駄目ですよー」「何でですか?」
香澄がぶらぶらしていた足を止め、首を横にして聞き返す。
おいおい、肩紐が、肩から落ちそうだ。
真治は慌てて目を逸らし、周りを見渡す。
「こんな密室に、二人でいたらぁ」「いたら?」
「お母様に怒られて、出禁になりますよ?」「なりませんよー」
早く出なさいと、言わんばかりに言うではないか。しかし香澄は椅子の上で、足を高速でバタバタさせながら答える。
スリッパが、勢い良く飛んで行く。素足じゃないですか。
「なりますよー。じゃぁ、帰りますよ?」
真治がそう言うと、香澄は、また口をへの字に曲げる。
しぶしぶ椅子から立ち上がると、飛ばしたスリッパを引っかけて、消音室の外に出た。そして、机の椅子を扉の所に持ってくると、ドアの所に置いて座る。
『ここなら良いんでしょー』という小さな声が聞こえたので、真治は笑顔でOKサインを出す。そして、大きく息を吸う。
全力で『夜空のトランペット』を演奏した。
演奏が終わると、香澄が小さくパチパチと拍手をした。
どうやら聞こえていたみたいだ。
小さく速い間隔の拍手は、やがて速度が遅くなり『アンコール』の拍手に変わっている。
ゼエゼエしながらその拍手を見ていた真治は、香澄の顔を覗き込む。当然のように、満面の笑みである。
真治はもう一度大きく深呼吸をすると、『グリーンスリーブス』の演奏を始めた。




