テスト期間(二十一)
トランペットを取り出すと直ぐに構え、大きく息を吸う。
「扉を閉めてから! まずはやさしくお願いします!」
今にも吹き始めそうな真治を見て、香澄が慌てて両手を振った。
「で・す・よ・ね!」
声がでかい。嘘だ。本当はそう思っていなかったに違いない。
危ないなぁ。流石の香澄も、これには冷や汗ものだ。
「じゃぁ、ロングトーンを出しておいて下さい」「はーい」
返事をすると、香澄は消音室の外に出て扉を閉め『OK』サインを出す。いよいよ『お試し』の開始だ。
真治が『ベー』っと解放音を出すと、香澄はうんうんと頷いて、扉の前から離れ、どうやら廊下まで出たようだ。
真治はそのまま『ベー』し続ける。
二十秒程経って、香澄が戻って来た。
扉の向こうで『もっと大きく』と手振りで合図をしたので、真治はもっと大きな『ベー』をする。
香澄がまた頷いて扉の前から離れ、再び廊下に出たようだ。
真治は『ベー』を出し続けていた。
香澄は一体どこまで行ってしまったのだろうか。
四十秒を過ぎても帰ってこない。五十秒、六十秒、七十秒。真治は流石に息が苦しくなり、腰を折った。
横目で扉の方を見ると香澄が戻ってきていた。
『OK』のサインが出たので、真治はロングトーンを止め、真っすぐに体を戻し、大きく息を吸う。
「別に、息継ぎしても良いんですよ?」
笑いながら香澄が入って来る。いや、それぐらい真治にも?
判っていないようだ。真治は、もう一度ハアハアして聞く。
「どうだった?」「全然聞こえませんでした!」
香澄が嬉しそうに答える。
香澄が言うには『扉の前は流石に聞こえる』が、部屋を出ると殆ど聞こえなくなり、一階に行くと、練習中のピアノの方が大きかったとのことだ。
「じゃぁ、練習できちゃうね!」
真治も嬉しくなる。金持ちになったら、消音室作ろうかなぁ。
「良かったですね! トランペットも消音できて!」
「いやー、すんごいもんだねぇ。そうだよ。良かったよー」
真治は感心し、室内をぐるぐる見渡してから頷いた。
「じゃぁ私、着替えてきますから、向こう向いていて下さいねっ」
笑顔で香澄が首をかしげ、向こうの壁を指さした。
真治はココが女の子の部屋であることを思い出し、あわてて向こうを向く。
そんな真治を見て、香澄は笑いながら消音室を出た。




