テスト期間(十九)
小石川家にやってきた。白亜の豪邸である。
香澄はやっと真治の右肘を離すと、カバンを左手に持ち替える。
空いた右手で、門扉の横にある呼び鈴を二回押すと、返事を待たずに門扉を開け、中に入って行く。
真治は『良いの?』と思いながらも、後に続く。
右手に持ったカバンを、また左脇に挟んで門扉を閉める。そして、バラのトンネルを行く。
そんな真治を眺めていたのか、香澄はこちらを向いていた。香澄と目が合った真治は、右手で外のインターフォンを指さした。
今頃『はーい。どちら様ですか?』とか、言っている頃だ。
「良いんです。そういうシステムなので」「はぁ?」
良いのか? しかし香澄は、笑いながらバラのトンネルを進んで行く。真治も右手にカバンを持って、その後に続いた。
玄関の扉の前に着くと、丁度『カチャッ』という音が。
そして、扉が中から開いて、恵子が顔を覗かせる。
「おかえり。今日は早かったのね。あら、いらっしゃい」
「ただいまー。テスト期間だから部活がないの」「こんにちは」
三人が同時に挨拶を交わす。玄関が急に賑やかになる。
「ちょっとレッスン中だから。ごゆっくり」
お辞儀をする真治。手に持っているのはトランペット。香澄の『この笑顔』。恵子はそれだけで、大体を察していた。
さっさとドアを開けてリビングに戻って行く。
「おじゃまします」
真治が頭を下げたので、恵子も歩きながら会釈し、リビングに消える。ドアが開くと、ピアノの音が大きくなる。
「これどうぞー」「ありがとう」
真治が挨拶している間に、香澄が前と同じスリッパを用意してくれていた。
真治は靴を脱ぎ、向きを変えて揃えて横に置き、自分の靴下の先を見た。穴は開いていない。ほっとしてスリッパを借りる。
「こちらでーす」
香澄の誘導で階段を登る。緩やかな階段だ。
二階にも廊下があって、何部屋かあるようだ。まぁ、外から見てもでかい家だからと納得する。
廊下の突き当りに案内された。そこにある扉の向こうが香澄の部屋のようだ。
「ちょーっと待って下さいね」
何かを思い出したように香澄が振り返った。
すぐ後ろまで来てしまっていた真治に対し、ドアとの距離を測りながら『もうちょい後ろ』と目が言っている。
「そこから動いちゃ、だめですよ!」
念を押した香澄が、眉間にしわを寄せ、ドアの向こうに消える。
真治はピンと来た。昔、念を押された注意事項だ。
『女の子の部屋には、随所にレーザービームが仕かけられている』




