テスト期間(十七)
「どうしようかなって、どういうことですか?」
香澄に聞かれても、真治は困った顔をしている。
「マウスピースだけ持って帰ろうと思っていたら、なーんか、持って帰って来ちゃったんだよねー」
香澄が音楽室に来た後も、真治は香澄が直ぐに帰ると思って、トランペットを磨いていた。
もちろん、ピアノを弾く気だった。一時間位、弾けた筈だった。
「あー。そういうことですかー」
「ミュートは学校に、置いて来ちゃったしさー」
ミュートとは、トランペットの先にくっつける消音装置である。大して消音効果はないが、ないよりはあった方が。そんなものだ。
「明日取りに行けば良いじゃないですかー」
「泥棒スタイルOK?」
にっこり笑って聞く。一応言っておくが、真治の私物である。
「それはダメです!」
頑固か。真治が両手を上にあげた。香澄は溜息だ。
香澄はこのままだと、真治が『本職の泥棒』になってしまうのではないかと心配し、妙案を思い付いた。
「じゃぁ、家で練習しませんか?」
香澄は真顔で提案した。対策を検討中なのか、真治の反応が鈍い。
「うーん。え、良いの?」
真治は自宅でトランペットを演奏すると、『どうなるか』良く知っている。
だから、店長室のロッカーに入れておいて、閉店後に店長室でベルにタオルを突っ込んで練習しよう。と思っていたのだが、それでは『ニニ・ロッソになれない』と、悩んでいた所だった。
「私の部屋に、消音室ありますし」
何とか真治を説得せねばならない。目も口調も変わっていた。
「それが凄いよねー」
真治は香澄を指さした。でも、香澄の部屋にある『消音室』なるものが、一体どんなものか想像が付かなかった。
「練習が終わったら、そのままトランペットを置いて行くのはどうですか?」「え、それは悪いよ」
真治は慌てた。確かに身軽にはなる。有難い話ではある。しかし、大事なトランペットである。
「セキュリティ対策してますから、ちゃんとお預かりできます」
「そ、そうなんだ。だよね」
真治は思い出した。
香澄の家には、トランペットよりも高そうなものが、それはもう沢山ある。それに、音楽室は『出入り自由』であることを。
「明日も、練習できますよ?」
香澄に覗き込まれた。
真治は眉をひそめて黙ってしまい、結論を言わなかった。
腕を組んで目を瞑ると上を向き、口元をギュッと結んで、真剣に考え始めている。
そんな真治を見て、香澄は吹き出すのを堪えていた。




