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テスト期間(十六)

「電車、行っちゃったね」「行っちゃいましたねー」

『じゃぁね』と行こうとする真治を察してか、香澄が真治の手を引き、地下道から改札口の方に引っ張った。

 まだ、離れたくなかった。


「次の電車まで、一緒に待って下さいよぉ」

 地下道の入り口から二メートル程の『角地』に誘導され、おねだりされる。

 そこはいつも、女子生徒同士がおしゃべりをしている所だ。


 真治は、商店街の方を見た。

 たい焼き屋のおやじさんは、暇そうにタバコを吸っている。

 駅前ロータリーの『噴水』を挟んだ向こう側にある靴屋のご主人は、足を組んで新聞を読んでいる。

 駅前の時計を見て、改札口の方を見た。


「じゃぁ、駅で座ろう」

 そう言って、香澄の手を引っ張った。

 香澄は『え?』と思ったが、おねだり顔から笑顔になり、そのまま改札口まで引きずられて行った。


 改札口に着くと、香澄はカバンから定期を出して、真治がキップを買うのを待とうとした。


 しかし真治は、いつの間にか学生服の第二ボタンを外していて、サラリーマンのように内ポケットから定期券を取り出すと、先に改札を通過して行く。香澄は慌てて後を追う。


「定期持ってるんですか?」「学割が効いて安いからね」

 歩きながら定期券を見せ合った。一駅だけの同じ区間だ。


 香澄はまた『え?』と思う。それに『真治の答え』が『香澄が望んだ答え』に、なっていないことにも気が付いた。


 しかし真治が歩きながら、さっと定期をしまったのを見ると、立ち止まって、香澄もカバンに定期を放り込んだ。

 真治は気が付かず、先へ行く。


「あっちの椅子にしよう」

 真治の声がして香澄は顔をあげた。振り向き、待っていた真治が歩き始める。


「はい」

 小走りに真治を追い『定期券を収納する役目を終えた』右手を掴まえた。ポケットなんぞに、行かせるものかっ。


 そのままホームへのスロープを登り、なおも先へ歩いて行くと、小さな風よけの待合室があって、そこにベンチが置いてある。


 ただ、今の季節『蒸し風呂』みたいになっていて、とても時間つぶしに入れる場所じゃない。手前のベンチに、二人は座った。


「トランペット持って帰って、練習するんですか?」

「どうしようかなぁ」

 それを聞いて、香澄は笑った。だって、笑うしかないだろう。

 それにしても、相変わらず『謎多き人』だ。

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