テスト期間(十四)
香澄の声に真治は気が付き、振り返った。
駅を出発して加速して行く電車が頭上を通過して行く。まるで心臓の音にしては大きな音が、地下道に響き始めた。
真治は、困った顔をしている。
今までの話の流れから、どうして『そんな質問になったのか』判らない。
ちょっと待って。こちらはどうやったら一緒に行けるか、それはもう真剣に考えていた所だったのに。嫌な訳ないじゃないか。
いや、しかし、どうしたものか、考えがまとまらない。
それにしても、やかましい電車だ。
「嫌じゃないよ!」
大きな声を出さないと、聞こえないではないか。
真治から、また『明確な答え』が返る。
しかし、真治が答えるまで間があったことに、香澄は到底納得できなかった。不安だけが募って行く。
「じゃぁ! なんで! 一緒に行って! くれないんですか!」
加速して行く電車のモーター音が響く地下道で、二人は歩み寄ることも忘れ、距離を取ったまま突っ立っていた。
目の前にいるのに、こんなに想いが伝わらないのだろうか。
「私のこと! 嫌いなんですか!」
今までにない、大きな声で香澄が叫ぶ。しかし、電車の音には勝てない。しっかりと掻き消された。
それでも香澄の顔が見えていた真治には、辛うじて聞こえていた。
香澄の口元と、『深刻な表情』を見て、逆に『どうしたの?』とも思う位、冷静だった。
まったく、ここで会話するのも大変である。
真治は右手に持ったカバンを左脇に挟むと口に添えた。大きく息を吸い、騒音だろうが何だろうが、香澄に届けと叫ぶ。
「好・き・だ・よ!」(よん)
(よん)
(よん)
(よん)
(よん)
地下道に、真治の大声だけが響いている。
真治は白目になって、そのまま固まった。
六両編成の電車は、今ちょーど、地下道の上を通り過ぎたのだ。
残されたのは、距離を開けて立ち竦む二人の男女と、まだ響いている、真治の声だけだ。
反響する真治の声が聞こえなくなっても、二人の時は止まったままだった。




