テスト期間(十三)
「並ぶのが嫌な感じですか?」「んー」
香澄の質問は止まらない。真治はまた答えを濁した。
香澄は開店初日に行こうとしているのか。それともプレオープンの日だろうか。
いや、プレオープンは『関係者だけ』だから無理か。
やっぱり開店初日なのか? それは随分と並びそうだ。なにしろ商店街初のハンバーガー屋さんなのだから。
開店初日に行ったら、それはもう並ぶだろう。ずらっと大行列だ。
そんな行列に香澄を連れて並んでいたら、確かにそれだけで親に報告が行きそうだ。
そうだ、壁の方を向いていれば良いかもしれない。香澄とだったら、そりゃぁ『いくら待っていても』構わない。
「あれですか? 『宗教上の理由』で、食べられないとか?」
香澄の表情は段々と曇ってきているが、真治はそんな表情に気が付かない。
「んー、そう言う訳でも、ないんだけどねー」
次にできる店は『ハラール』には対応していない。
そもそもチェーン店なのだから、牛肉を使わざるを得ない。
スーパーの『パンコーナー』なら、羊肉のハンバーガーでも何とか対応できる可能性はある。
それでも、調理器具一式を羊肉用に取り揃える必要がある。それはもう『ハラール』の基準は、とても厳しいのだ。
だからして、そもそもあの叔父さんが、そんな器用なことをする訳がない。
あ、そもそも自分は仏教徒だし、全然問題ない。
「コーラが、嫌いとか、ですか?」
香澄は泣きそうになって質問した。質問すればする程、真治の表情が段々と険しくなっていくのが判った。
何故『行こう』の一言がないのか謎だった。
「そんなことはないけど?」
真治の答えは、また香澄の期待したものではなかった。
しかし真治は、どうしてそんな質問になったのか不明なまま、思考を巡らせている。
コーラを納品するおじさんは、とても良い人だ。
それに口が堅い。納品時にバッタリ出会っても、客として香澄と食事中であるを見て、からかったりはしないだろう。
コーラってビンもあるのかな。ビンの方が好きだなぁ。
コーラの後、真治も香澄も沈黙していた。
地下道の階段を降り切って、線路の下を歩いていた時だった。質問のネタが尽きたのか、香澄が足を止めた。
真治は気が付かずに数歩先へ進んだ。
「私と行くの、嫌なんですか?」
香澄が、ちょっと大きめの声で、真治に問いかけた。




