テスト期間(十二)
小学生じゃあるまいし『絶交』なんて言われた。
そんなに酷いことをしたのだろうか。香澄の顔からも一瞬にして笑顔が消える。
真衣に聞いたら、本当に二人の関係が壊れるのが判った。
「ごめんなさい」
香澄は反省した。真治が笑っている内に、話題を変えなければいけなかったのだ。怒らせたら、終わりなのだ。本当に終わるのだ。
「話しても良いと思ったら、俺から話すからさー」
いつもの口調に戻っている。
香澄は何度も何度も頷くと、真治の顔に笑顔が戻った。香澄もつられて笑顔になったが、前を向くと真顔に戻っていた。
怖かった。もの凄く。そして、安堵した。
今回は壊れなかった。しかしそれは、初回限定かもしれない。
そう思った。
それにしても、真治の星座は『カシオペヤ座』にするしかない。 きっと、そんな星座との相性なんて、どの本にも載ってはいないだろう。でも、もう聞けない。
勇気を出してそっと真治を見たが、いつもの真治に戻っていた。
街道の信号を真っすぐに進んだ。今日は手を繋げないらしい。
そして駅前まで来ると、左に曲がった。地下道を潜って、反対側に行くためだ。
香澄が急に、思い出したように話し始める。
「今度、ハンバーガー屋さんができるみたいですよ?」
にっこり笑って真治を見つめる。
「そうらしいねー」
そう答えた真治も笑ってはいるが、あまり関心が無さそうだ。
実はその店、真治の親戚が出す店なのだ。当然知っている。
「できたら、一緒に行ってみませんか?」
そう来ると思っていた。しかし、答えは用意していなかった。
真治は返事に詰まる。
そもそも商店街で『面が割れている』真治は、地下道を出た先からマークされているのだ。
香澄と歩いているだけで、噂が親の耳に入るのは確実なのだ。
それが、口の軽い、あの叔父さんが出す店に行くのか? 行くか?
「うーん」
真治が時間をかけて尚、思いの外つれない生返事をするものだから、香澄は質問を続けた。
きっと真治は、和食好きなのだと思っていた。
「ハンバーガー嫌いですか?」「いや、そういう訳じゃないけど」
今度は思ったより返事が早かった。香澄は首をかしげる。
真治はどうやったら『ナイショで香澄と一緒に行けるか』を考えていた。叔父さんも叔母さんも手強い。長女も次女も手強い。
あぁ、もう、いっそ『変装できたら』どんなに良いかっ。




