美優の救出
フランシスは、腕に縋りつく美優を気にすることもなく、犯人達に制裁を加える。
それは私刑である。
魔力を抑え、苦しみが長く続くように、緩やかな死を与える。
男達のうめき声、血を吐く音、骨の折れる鈍い音が後宮に響く。
「フランシス、やめて! やめて!」
どんなに美優が頼んでも、フランシスは美優を見さえしない。
「ミユウ様、危ないです。どうぞこちらに」
侍女が近づいて来て、美優をフランシスから引き離して安全な場所に連れて行こうとする。
「あ」
小さな声が美優から洩れた。
侍女は美優を連れて行くふりをして、隠し持っていた短剣を後ろからフランシスに振り上げたのだ。
美優の腕が斬られ、ボタボタ、血が流れ落ちた。
「女!!!」
フランシスが崩れ落ちる美優を支えながら、侍女を睨みつける。
手に持つ美優の血の付いた短剣が目に飛び込んでくる。
ズヂュ!
侍女だった人間の姿は無くなっていた。飛び散った肉片と大量の血痕が辺りを赤く染めていた。
フランシスの怒りの強さが凝縮されたような一瞬だった。
「痛いよ。
調理が出来なくなるから、刃物の防御をかけないようにワンに言ったんだった」
フランシスが強く抱きしめるから、傷が余計に痛くって、美優が文句を言う。
「俺を庇うなんて、無茶だ。俺がやられると思ったのか。直ぐに治癒する」
フランシスが治癒魔術師を呼び寄せるのを美優が止める。
「ちょっと、待って。
痛いんだけど、待って。
考える余裕なんてなかったよ、なんか手が出ちゃったんだ」
イタイ、この世界に来てからケガばかりだ、理不尽だ、と美優は恨みがましく思う。
だが、この血がないとワンを呼べない。
「ワン」
ポツンと呟いた言葉に、王城が揺れる。王城に張り巡らされた結界が壊れたのだ。
「あいつを呼ぶな! ミユウ!!」
「ご主人!」
魔法陣もなく現れた獣の魔力に、フランシスの護衛達も動けない。
「連れて行かせない」
「痛い!!、フランシス放して!」
美優を抱きしめるフランシスの腕に力が入って、美優が悲鳴をあげる。
ワンが美優の腕の傷を舐めると、美優の身体が光り、傷が治っていく。
美優自身の力で傷を治したのだが、周りからはワンが治したようにしか見えない。
ワンとフランシスの視線がからまる。
「俺の事情に巻きこんだ。
この女が手引きしたようだ、怖い思いをさせてしまった」
フランシスが腕の力を緩めると、美優はワンの元に行く。
「元はと言えば、私がフランシスを呼んだことが原因だから」
美優がワンに触れると、二人の姿は消えた。
フランシス以外、事の進展に着いて行けない。
フランシスは言葉の違和感を覚える。
何度も感じたことだ。ワンの力ではなく、私が呼んだ、と言った。
美優の力とは・・・
「あいつらは、まだ息があるだろう。
あの女以外にも仲間がいるかもしれん。吐かせろ」
フランシスは護衛に指示を出すと、トミーを連れて後宮を出る。
部屋の片隅には、肩を寄せ合い震えている侍女達。
「陛下」
トミーの声掛けにフランシスは答えない。
「ミユウ様は、神獣の巫女なのですね?」
トミーには、フランシスが美女に飽きて、毛色の変わったのに興味を持ったかと思っていた。
後宮に女性を入れるのは初めてだから、よほど気に入っていると分かっていたが、マルセウスの神獣の巫女とは思わなかった。
「巫女ではない。
神獣を従える女神だ」
答えるフランシスは前だけを見て、王城の廊下を歩いている。




