フランシスの想い
「世界を見たいと言っているのに、こんな山道で人も町もない。
矛盾してないか?」
フランシスはデイル達が隠していたい事を美優に提案する。
ワンが神獣と知られたくないのだ。
ここが他国である、大きな力のある神獣を自国に取り込もうとするだろう。
マルセウス王国に居ついてくれると思っていたのに、どこかで美優の機嫌を損ねたのだろうと分かっている。
外遊ではない、マルセウスから逃げ出したのであろうと。
だが、逃がすわけにいかないのだ。
ルティンは道端の野花をつまむと、美優の髪に刺した。
美優は一瞬戸惑ったが、花に手を添えるとルティンを見つめた。
「ありがとう、ルティン」
横にいたフランシスは、ルティンを苦々しく思う。
女性に好かれる容姿で、女性の扱いにも慣れている。
「可愛いよ、ミユウ」
他の男が贈った花だが、後れを取るわけにはいかない。
「ありがとう、陛下」
美優は、今度はフランシスの方を見る。
「フランシスでいい、と何度も言っているだろう」
「本物の王様だから、陛下と呼ぶのもドキドキなのよ」
嘘つきだなミユウ、ときめいてなどいないくせに。
あの王子にも同じような顔してたから、いいとしよう。
ルティンとフランシスがお互いをけん制し合う。
そこに響くのはデイルの声だ。
「ミユウ、ほらそこで見つけた」
デイルが美優に差し出したのは赤い実。
「ニナがこれは美味しいって言ってた」
目の前に出された実を、躊躇なく口にいれる美優。
「無暗に食べるな」
「おまえはバカか」
フランシスとルティンは同時に美優の口から吐き出させようとする。
「うー!うー!」
固く口を閉ざした美優は飲み込んでしまう。
「少しは疑え!」
眉間に皺をよせて美優に詰め寄るフランシスに、ふふと美優が笑う。
「心配してくれてありがとう、美味しかったよ」
美優の言葉に、フランシスが掴んでいた美優の肩をあわてて放す。無意識に美優の肩を掴んでいたのだ。
「ひどいな、僕を疑うなんて」
デイルがルティンに嫌みを言いながら、美優に笑いかける。
「美味しかったでしょ? また採って来るよ?」
「甘酸っぱくって、ベリーみたい」
「ベリーって?」
私の国の甘酸っぱいフルーツよ、と美優がデイルに説明していると、ワンがニナを引き連れて集まって来る。
「ご主人、ニナが美味しいというから摘んで来た」
赤い実が籠に山盛りになっている。
「ワン、ニナありがとう!」
美優が飛びついて礼を言うと、ワンが勝ったとばかりに男達を見る。
「あいつ腹立つ」
デイルがワンを睨むが、ルティンとフランシスも口に出さないだけで同じ気持ちである。
ぷいと背中を向けると、フランシスは自己嫌悪になっていた。
ここに馴染んでどうする。
いつか首をとる王子達だ。
この女を殺したら、神獣はどうなるだろう?
暗い思いにフランシスの身が奮える。
「陛下ー」
美優が一緒に食べよう、と大声を出している。
束の間だけだ、城に帰ったら留守の間に王の座を狙った者が炙り出されているだろう。
こんな所で時間を無駄にしているわけにいかない。
足元に転移の魔法陣を描き始める。
美優の周りに集まっている皆には気付かれないように、魔術で魔法陣を描いて行く。城には魔法陣が描かれてある転移ポイントが何ヵ所もあり、ここに魔法陣があればいつでも転移できる。
「ミユウ」
大声で振り向けば、美優はフランシスに腕を取られた。
フランシスはその腕を掴むと、ニヤリと笑うと強く引き寄せる。
「ルティン!」
美優がとっさに出たのはルティンの名前。
そのまま、美優とフランシスは転移して消えていった。
「追いかけろ!」
叫ぶ声は、美優にはもう聞こえない。




