表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KING  作者: 安三里禄史
六章
32/77

6-1b

「テオジールさん」小屋の中でナジと話をしていたリーズが呼ぶ。「ナジさんすごく怖がってる。自分は処刑されるのかって。あいつらが捕まったこと言っても、いつか腹いせに復讐しに来ないかって」

「心配するな。あいつらはもう地上には出さん」

「領主は? あいつがいる限り同じことの繰り返しだと思うんだけど」

「奴も我々にとって反逆者だ。もうノーラルへは戻らん」

「わかった」

 そう言うとリーズは再びナジに説明し、かれの家族を安心させていた。

 テオジールは小屋の近くに立って待っていた。ロレンツが「もう杭は抜いていいか」と聞いてきたので、かれはそれを許可した。

 やがて、座るナジの近くで片膝をついたままリーズがテオジールに話しかけた。「娘のナズリちゃんが水を飲みたいって言ったから、ナジさんは川へ行ったの。水を汲んでたらいきなりうしろから殴られたんだって。必死に謝ったんだけど、赦してもらえなくて。たがいに言葉が通じないから、あいつらが何を言ってたのかわからないけど、ナジさんの腕を掴んでこの集落へ来たんだ。もうみんな我慢できなくて、騎士もふたりだったから闘おうってなったんだって。そしたら騎士のひとりが仲間を呼びに行ったから、みんなは残ったほうの騎士に抗議した。もちろん言葉は伝わってないと思うけど、怒りは伝わってるはず。そのときわたしは村にいたんだけど、あいつらがここに向かうのが見えて追ってきたの。あいつらこう言ってた。ロスカ人が反乱を起こしたから制裁を加えるんだって。でも絶対そんなの嘘。あいつらは自分たちを正当化する勝手な理由を平気でつくるんだ。コーマックさんもここへ来てくれたけど、すぐ村に戻っちゃって、そしたらあなたたちを連れてきた。あなたたちが来ること知ってたのかな」

 リーズが話し終えるころ、水を持ったコルチカが戻ってきた。

「話はわかった。ベルヴィル殿、きみにも話がある。これから村へ来てくれんか」

 そう言って立ち去ろうとするテオジールをリーズはとめた。「ちょっと待って、それだけ? 話を聞いて終わり? この集落を見て何も思わないの? べつに期待なんかしてないけど、あなたたちって本当に人間?」

 おとな相手にまったく物怖じしないように見えるリーズを、テオジールは表情を変えず見下ろした。「ひとつ聞くが、かれらはなぜウォールレストへ行かない?」

「簡単に言わないで。あなたはこのセザンのすべてを把握してるのかもしれないけど、わたしたちはそれがどこにあるかわからない。それに、なんでそんなこと聞くの? ウォールレストになにがあるの?」

 テオジールは指を顎に当て、考える素振りをした。「それも含めて話をしよう」

 渋りながらもリーズはコルチカにナジを頼み、ロスカ人たちと杭を抜いている兄を呼び、テオジールに付いて行った。

 村へ繋がる狭い山道を進みながら、リーズはある懸念をようやく口にした。「テオジールさん、あいつも村に来てるの?」

 ロスカ人に預けていた武器を腰ベルトに着け直しながらテオジールは、「あいつとは誰か」と聞く。

「ハーシュメルトさまのことです。ね、リーズ?」ロレンツが代わりに答える。

「兄さんさっき銃声が聞こえたって言ってた。誰か撃たれたの?」

「わからない。音を聞いただけだから」

「銃声は何発だ?」テオジールがロレンツに尋ねる。

「わたしが聞いたのは1発です。ですがそのまま集落へ急いだので、その後のことはわかりません」

 リーズは兄の言葉を不安そうに聞いていた。

 村の近くまで来ると、こちらへ走ってくるアーヴィンの姿が見えた。

「テオジールさん、遅れてすみません。村びとが混乱してしまって説明に手間取りました。ノーラルの騎士5名はすでに闘技場の牢にいれ、グレンとキースが監視しています。それとウィリアム・グローリンが自殺しました」

 アーヴィンがすばやく報告すると、ベルヴィル兄妹は顔を見合わせた。

「銃声が聞こえたという話を聞いたが、それか?」

「はい、おそらく。話を聞くためグローリンの家にはいり、問い詰めたところ、銃を取り出し我々の目の前で頭を撃ちました。村での発砲はその1発のみです」

「それによる怪我人はいるか?」

「おりません」

「ウィリアム・グローリンは死んだか」

「はい、即死です」

 確認を終えるとテオジールはリーズにこう言った。「良かったな。奴はノーラルどころかもうこの世へ戻らん」

 リーズにはテオジールの口元がわずかに緩んでいるように見えた。あかるい兆しのような気がして、リーズは気を引き締めた。



 村の奥にある領主の家へ向かう途中、テオジールは村びとと話すコーマックを呼んだ。

「闘技場の救護室にある傷薬を集落へ持って行ってくれんか。怪我人がいる。それと、宿舎から予備のシーツと毛布を運んでくれ。夜は寒かろう、不足分は王都から送る」

 コーマックはテオジールに感謝を伝えると、闘技場へ走った。

 領主の家の外に、グランディオとハーシュメルトがいた。グランディオは玄関の前でグローリン夫人と、ハーシュメルトは玄関の階段下で息子のアルベルトと話をしていた。

「ああ、テオジールさん、お待ちしてました。そちらの状況はグレンから聞いています。ウィリアム・グローリンは死にました。あとは屋敷で話しましょう。それとリーズさん、あなたたくましいですね。怪我をしていると聞きましたが、大丈夫ですか?」グランディオは夫人を屋内へいれてから、テオジールのもとへ来た。

「平気。闘技場の通路であいつらに殴られそうになったけど、かわしたの。でも、うっかり転んじゃって、手をついたときにちょっとだけかすり傷をつけただけ」

 リーズは手を広げてみせたがほとんど傷は見当たらなかった。

 それから一行はキングの屋敷へ移動した。広間へはいり、中央の矩形のテーブルをかこむソファの奥の席にハーシュメルト、角を挟んだ左側にグランディオとテオジール、右側にロレンツとリーズが座った。

「広いね! いつも外から見るだけだったけど、なかも広い! いくつ部屋があるの?」リーズは屋敷にはいってからずっと忙しなく首を動かしていた。

「いくつかな、15くらい?」急な質問にハーシュメルトは適当に答えた。思っていたよりリーズの態度が普段通りだったので、かれはほっとしていた。

 茶を運んできた使用人が部屋を出ると、グランディオが口をひらいた。「ロレンツさん、リーズさん、急にお呼びしてすみませんでした。あなたたちに伺いたいことがあります。こちらの認識と事実に隔たりがないか、確かめておきたいのです。あなたたちのご家族に関することです。よろしいですか?」

 リーズは兄が答えるまで黙っていた。

「はい、両親のことですか?」

 ロレンツが尋ねるとグランディオは、「ええ」と言って頷いた。

「認識、ということはあなたたちもおおよそ知っているのですね。なにを知っているのかこちらも伺いたいです。どうぞお話しください」ロレンツは静かに答えた。

「ありがとうございます。ではまず、あなたがたの父親はだれに殺されましたか?」

「領主です。領主が王宮騎士に命じ、父を殺しました」

「目撃者はいますか」

「いるかどうかもわかりません。わたしたちは見ていません。母がそう言っていたんです。ですが、父の首には斬られたような傷があったのは確かです」

「なぜ殺されたのです?」

「3年前、ロスカの子どもが村びとの畑から作物を盗んだと疑われたのです。父はそれを庇いました。それだけです」

 ロレンツが淡々と喋る間、リーズは下を向き唇を噛んで怒りをこらえていた。

「盗んだ現場を見た者はいますか?」グランディオは続ける。

「畑の所有者は盗まれたと言っていました。でも父は見ていたんです。ロスカの子が集落のほうから歩いてくるのを。すこしも畑には入っていないし、見向きもせずまっすぐわたしたちの家に歩いてきたと、話していました。他の村のひとが何と証言したかまではわかりません」

「あなたたちもロスカの子どもが無実だと確信しているから、いまでも交流しているのですね?」

「そうだよ!」リーズが声をあげる。「わたしいつも集落に行ってたもん。村の作物なんてどこにもなかった。それだけじゃ、絶対に盗んでないって言いきれないっておとなたちは言うけど、あいつ嘘なんかつかないもん! 顔でわかる!」

「知り合いか? 疑われた子どもはあの少年か。名をなんと言ったか」

 テオジールがリーズに聞くと、「そうだよ、コルチカ。わたしたちはもっとちいさいときからよく遊んでた。集落のひとは村に来ないけど、コルチカはわたしに会いにたまにひとりで村に来てたから」と答えた。

「母親が亡くなったのは、その後すぐですか?」グランディオが聞く。

「そうです」ロレンツは一言だけ返した。

「自殺だと聞きましたが」

「はい」

 ロレンツは返事だけすると口を閉ざした。リーズは声を押し殺して涙を拭っており、兄は涙をこらえていた。

「詳しく、話したほうがいいですか?」

「いいえ、その必要はありません。確認したかったのはそれだけです。ありがとうございました」グランディオは儀礼的に言った。

「こちらも伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

 グランディオが答えると、ロレンツは続ける。「なぜそこまで知っているのですか、だれから聞きましたか?」

「ノーラルの住人からです。わたしどもが調べた情報では、父親の死の原因となったロスカの子どもは無罪だと言っている者もいます」

「嘘! そんなこと誰も言ってくれなかった!」リーズは涙声だった。

「ええ、ですから、領主が死んだいま、あなた方が思うほど敵は多くないのかもしれませんね」

 グランディオが話を終えようとしたとき、突然村のほうから悲鳴が聞こえた。

「なにごとだ」

 テオジールが窓の外を見ると、林から飛び出てきた数人の村びとが屋敷の方へ、災いからのがれるかのように駆けてきた。テオジールたちがみな揃って玄関へ行くと、使用人が村びとの対応をしていた。

「何があった?」

 テオジールが現れると使用人はうしろへ下がり、村びとは助けを求めてきた。

「猟銃を持った男が領主の家に!」

「いま、若い王宮騎士のかたがおさえに行きました」

「さっきから銃声が鳴ったり死人がでたり、なにが起こっているんです? 騎士さま、はやくあの物騒なひとを捕らえてください! 大きな男です、子どもたちも怖がっております!」

 村びとの訴えを聞いてすぐ領主の屋敷に行くと、男の言い争う声が聞こえた。中へ急ぐと、食堂で猟銃を持った大柄な男とアーヴィンが、テーブルを挟んで対峙していた。グランディオはハーシュメルトとベルヴィル兄妹を食堂の外へ出し、自身の銃を構えた。テオジールも同様に銃を出す。

「アーヴィン、こちらへ。何者です? 何がありました?」グランディオが手招きする。

「父はどこだ! 父を出せと言っている! アルベルト! アルベルトはいないのか!」身なりの良い大柄な男は興奮しながら他の部屋へ通じる扉を開けていた。

「ウィリアム・グローリンの長男だそうです。あの通り、父親を出せと言っています。なんて答えましょう?」アーヴィンは困り果てたようすでグランディオに寄った。

 呼んだアルベルトの反応もないことから、大柄な男は扉を閉め、銃をむけられているにも関わらず騎士たちにむかって行った。「あなたがたは王宮騎士! あなたがたが父を匿っているのですか! あなたがたにほんの少しでもものを考える力があるなら、その銃口はわたしにではなく父に向けるべきだということがわかるはずだ!」

 ハーシュメルトが食堂の入り口で様子を窺っていると廊下の奥から音がして、扉の隙間からアルベルトの顔が見えた。目が合うと、アルベルトは恐る恐る廊下をわたってきた。

「きみの兄さんだって」

 事情を聞かれたハーシュメルトが答えると、アルベルトは驚愕の目をして食堂へ駆け込み、「兄さん!」と叫んで大柄な男の服を掴んだ。

「いままでどこにいた? 何度も呼んだのに。父さんはどこにいる?」男はアルベルトの肩に汗まみれの手を置いた。

「いきなり怒鳴り声が聞こえたから怖くて母さんと隠れてたんだ。兄さん、ようやく来てくれたんだね、もっとはやく来てほしかった。父さんは死にました、自殺したんです。言い逃れできないと思って死んだんです。やっぱり……ぼくが思った通りだったってことですよね? もっとはやく気付くべきだった」アルベルトは泣いていた。

「ああ、そうか……」男は力なく言うと、猟銃をテーブルへ置いた。

 ノーラルの領主を長年任されているグローリン家の長男ヘクターは、今日の朝から昼までに起こった出来事を知るため、食堂から廊下を挟んだ隣にある客間へ一同を招いた。遅れて出てきたアルベルトの母親はまだ混乱しているようで、長男の顔を見ると泣きくずれ、体調がすぐれないから休みたいと言って、使用人に抱えられ2階へと姿を消した。どんな人物であれ夫が死んだばかりである。ヘクターは弟に「心配だからついていてやれ」と言ったが、アルベルトは拒否していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ