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鷹見真一 7月9日 午前9時34分 渡良瀬市 県警

今回は別キャラでの視点です。

主人公は他にもいますよ。

 何時もと変わらぬ仕事場。ここが俺の仕事場の渡良瀬県警、警備部公安第三課だ。

 何時も変わらぬ退屈なデスクワークをこなして生きているしがない独身の男、それがこの俺、鷹見たかみ真一しんいちだ。

 階級は巡査、仕事場での人間関係もまあまあ、彼女はナシ、収入もそこそこある方だ。

 一言で言っちまえば普通の男、って訳だな。


 7月9日、この日もどうせ暇な一日として俺の脳内メモリーに記憶すらされない一日になるだろう。この時は俺もそう思っていた。


「鷹見さん、出動命令です」


 そう言われたのは今朝、出勤してきて直ぐの事だった。

 俺は自分の椅子に腰掛けてから、部下である佐伯さえきすぐるを見つめた。


「現状が把握出来ないな。まず筋道を立てて説明をして貰おうか」


 俺は突然の出動命令に動揺していた為、妙に上から目線で佐伯に尋ねた。


「ですから、出動命令ですよ。先程、日暮商店街の方で暴動が発生しているって通報が入ったんです」


「暴動?この国も物騒になったな。で、それは機動隊や警ら隊の仕事じゃないのか?」


「まあそうですけど。僕ら公安課には交通規制の出動命令が出てるんです。暴徒を取り押さえるとかの荒っぽい仕事は無いですからご安心を」


 俺は当たり前の様に頷いた。朝っぱらから手荒な仕事は避けたいものだ。出来るものならここでコーヒーでも飲んで一服したいが……そうゆう訳にもいかないだろう。


「分かった分かった。じゃあさっさと行ってさっさと終らせようじゃないか」


 俺は鞄をデスクに置き、更衣室に向かった。

 人でごった返している廊下を歩いて直ぐに更衣室はある。

 更衣室に入ると、いきなりゴツイ男に肩を叩かれた。


「よお鷹見!随分とご無沙汰の出動だな!」


 このひょうきんで画体のいい男は俺の同僚の矢島やじまけんだ。こいつはいい奴だが、力加減を知らないのだ。


「いいか、矢島。俺は何時もお前に言っているが、スキンシップはもっと優しく接するもんだぞ」


「なんだよ。連れねぇ奴だな。出動なんて久々じゃねえか」


 確かに暴動やその手の理由で出動なんてのは、三年ぶりかも知れない。

 矢島はトラブルを楽しむ癖があるのだ。世の中にそういった奴は少なくないと思うが、時と場所を弁えろ。俺はそう思う。


「鷹見さん!急いでください!」


 佐伯は真面目なので俺を急かしている。


「分かってるって。今すぐ準備するさ」


 俺はそう言い、ワイシャツを脱いだ。そして出動時の制服に着替える。

 ホルスターに入っている警棒と拳銃を確認し、俺は動きやすい靴に履き替えた。


「さあ行こうか」


 俺が準備を終え、そう言った時には既に二人の準備は整っていた。


「行きましょう」


「行こうぜ」


 二人が声をそろえて言う。俺も頷き、更衣室を出た。

 俺たちは真っ直ぐ地獄へと向かうことになる。



 俺は夢を見ていた。内容は他愛も無い内容だったが、悪い気分はしなかった。しかし、突然の急ブレーキで俺は現実に引き戻された。

 助手席に座っていた俺は思い切りダッシュボードに頭を打ち付けた。俺は安眠を妨害された事に腹を立て、怒鳴った。


「安全運転を心がけろ!俺たちは公安課だぞ!」


「前だ!」


 俺の怒鳴り声に続くように矢島の怒鳴り声が聞こえた。


「何?」


 俺が惚けたように、フロントガラスを見つめた。


「ひっ!」


 俺は思わず、驚いてしまった。

 フロントガラスには血まみれの男が張り付いていた。目は片方が抉られたようになくなっている。それでも尚、その男はパトカーのフロントガラスでもがいていた。俺たちを探すかのように。


「お前!轢いたのかよ!」


「違う!いいから逃げるぞ!」


 矢島はそう言い、パトカーから飛び出た。俺も勢いに押され、飛び出た。後部座席の佐伯もそれに続く。

 パトカーから出た俺は目の前に広がる光景を目の当たりにした。


「嘘だろ……」


 目の間の大通りでは大量の車が放置され、一部は炎を上げていた。そして、逃げ惑う生存者を全身から血を流して、腕がもげたような奴や目が抉られた様な奴が喰い殺していた。

 付近には無残に喰い散らかされた警官や民間人の死体が転がっている。中には奴らの様に動き出すものもいた。


「鷹見!逃げるぞ!」


 矢島の声で俺は我に返った。

 矢島と佐伯は周りの様子を見て、活路を見出そうとしている最中だ。


「奴ら……俺たちじゃなくて逃げ回っている奴を追いまわしてるな」


「恐らく匂いや音で居場所がわかるんじゃないでしょうかね?」


 佐伯の言う事は最もだったようだ。奴らは確かに逃げ回って、喚いてる奴らばかりを追いまわしている。

 ということは静かに行動すれば見つからずに切り抜けられるかもしれない。


「おい、矢島、佐伯。あそこの裏路地から逃げられるかもしれないぞ」


 俺は二人に近づいて、耳打ちした。二人の視線が裏路地に移る。


「イケるかもしれないな。よし、佐伯が先に行け。俺と鷹見で援護する」


 佐伯は黙って頷き、裏路地の入り口まで忍び足で近づいた。途中、奴らの真横を通ったが幸い気付かれる事無く、裏路地にたどり着いた。


「よし、次はお前が行け。俺も後ろに続く」


 矢島がそう言い、俺の背中を押した。俺も佐伯を見習い、忍び足で裏路地の入り口に向かった。

 中間地点までたどり着いた時、俺の足に何かが当たった。下を見るとそれは人間の生首だった。

 妙に生活感溢れるそれは俺の脳を激しく刺激した。


「うっ!」


 俺はつい呻き声を上げてしまった。奴らの視線がこちらを向く。


「走れ!」


 俺は矢島の一言で走り出した。矢島は警棒を奴らに投げつけたが、あまり効果は無いようだ。

 俺と矢島は奴らを何とか切り抜け、佐伯の下へたどり着いた。


「急いでください!」


 佐伯が叫ぶ。後ろを振り返ると無数の奴らがこちらに向かってきているところだった。


「柵があるので閉めましょう!手伝ってください!」


 佐伯はそう言い、裏路地に設置されていた柵を閉めはじめた。俺と矢島もそれを手伝う。

 

「急げ……奴らが来るぞ……」


 奴らは後五メートルまで近づいていた。

 三メートル地点で漸く、柵は音を立てて閉まった。素早く矢島が鍵を掛ける。


「これでしばらくは安心だな」


 俺たちは休む間も無く、裏路地を走り始めた。

 悲鳴と銃声が空に木霊している。俺たちはどうなるのだろうか?

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