伊東準一 8月14日 午前10時21分 渡良瀬市 市街地
毎度ながらの亀更新です。
今回の主人公の視点を書いたのは初めてですので、誤字などあるかもしれません。
俺は清々しい笑顔を向けてきた響夜に残った奴らの始末を任せ、アクセル全開で突っ走っていた。時々、飛び出してくる奴らはよく小学校でやる交通安全教室とやらの『○○君』人形のように跳ね飛ばして進む。
ほら、車に轢かれる事故とかを演出してくれるあのマネキンだ。
「あの、準一さん?」
「ん?」
俺は後ろからおずおずと声を掛けてきた寛人君に声だけで会釈した。
「響夜さんは置いていっても大丈夫だったんですか?」
「うん? アイツは大丈夫だよ。多分今ごろ、火炎瓶を自分の周りの放置車両に投げつけて燃え盛る炎の中に立って、『演出ゴクロー』とか叫んでるから」
「? どういう意味ですか?」
「あ。分からないならいいんだ」
やれやれ。俺にもどうやら響夜の趣味が移ってしまったらしい。この前も響夜が貸してくれたラノベとかいうジャンルの本を読んだら、不覚にも面白いと思ってしまった。
「……せめて順子だけには見つからないようにしないと……」
「順子って誰ですか?」
「シークレットだよ」
「途轍もなく気になります!」
俺は無視してハンドルを握る手に力を込めた。
ちなみに順子は俺の嫁の名前だ。……もちろん、この場合の『嫁』というのは現実での話だ。俺はそこまで腐っていない。
「で、本当に大丈夫ですか?響夜さんが強いってのは分かりますけど、幾らなんでもあの数じゃ……」
「ま、苦戦したとしても生きて還ってくるさ。アイツは、何時でも必ず生還する奴だよ」
「……でも危険なことには変わりないですよね?幾ら最強でも、無敵じゃ無いんですよ。そこに隙が……」
「君、さっきの言葉の意味が分かってたんじゃないか?」
「いえ。今のは雅人の野郎が何時も五月蝿く言ってた事ですよ?」
「あ、そう。とにかく、アイツは還ってくる」
そうですか、と寛人君は座席に座りなおした。
「それにな。アイツは子供が好きだから、君たちの事も守ろうとしたんだろうと思う」
俺の言葉に今度は阿久津さんが肩をビクッ! と震わせた。
「それはもしかして幼女が大好きで止まないというあの人種なんですか?」
「ええ!?それは驚きです!」
「俺も初耳だ。あのイケメンはそういう趣味なのかよ」
どう弁解すればいいのか分からない。
一度生まれた誤解を解くというのは、異世界に飛ばされた伝説の使い魔が元の世界に帰ることくらい難しい事だと思う。
でもここで弁解して誤解を解かないと、後で響夜が(社会的な意味で)死ぬ。
「あ、ああ……えーと、君たち」
三人が俺の声で同時にこちらを見る。
「響夜は幼女なんて目もくれずに、妹を本気で愛していたぞ?」
「うげっ!ロリコンの上にシスコンかよ!」
「それはちょっと…………」
「僕はもうノーコメントでお願いします」
愛しているの意味を間違われた……のか?
もう、面倒臭くなったので最終兵器を使うことにした。
「詳しくは本人に聞けばいいんじゃないか?」
最終兵器は響夜に丸投げすることだ。
「「そうします(させてもらうぜ)」」
うん。解決した。
俺はハンビーで坂道を登る。
後ろではなにやら雑談が始まっているが、会話自体は全く噛み合っていない。テンションだけで話している感じがする。
俺ももう間近に迫っている屋敷の門を目指し、自然にウォー○マンで聞いている歌を口ずさむ。
「Looking ! The blitz loop this planet to search way♪ Only my RAILGUN can shoot it 今すぐ♪」
「あ、その歌知ってます!雅人が何時も口ずさんでました」
「ふーん。多分、ソイツも響夜と同じ人種なのかもな」
「いえ、アイツは巨乳大好きな変態以外の何者でもありませんよ?」
それが正常なのかも知れない。あれを無駄な脂肪だという人間もいるようだが、俺はそうでないと信じ続けたい。
そんな下品でくだらない雑談を交わしている間に、ハンビーは目的地である屋敷の正門の前に到着した。当然、門は閉まっているため、降車してから開ける必要がある。
俺はハンビーから降り、門に手を掛ける。やはり鍵はきちんと掛かっているようだ。俺は想定内だったので、普通に拳銃で鍵ごと破壊させてもらった。銃は便利だな。
開門は流石に一人では出来ない。俺は響夜みたいな化け物じゃあ無いんだ。一番、筋肉モリモリな矢島さんに手伝って貰い、何とか開けることが出来た。
ハンビーで屋敷の敷地内を進むが、やはり人は見当たらない。死体すらも見られないので、恐らく避難した後ではないのだろうか。
屋敷の外周を回ってみて、大方の地理は理解出来た。正門から見えていたのは一番大きな本館で、その裏にもう三棟ある。恐らくここで働いていた人間たちの宿泊棟や事務などを行う棟だろう。
……使用人がいる家って凄いんだろうな。住んだ事もない俺にでも、この屋敷の暮らしの豪華さは容易に想像できた。
庭に噴水があるし花畑もあることから、日曜の午後にはお茶会でもしてたんじゃないだろうか。
俺はハンビーを噴水広場に停め、
「よーし、着いた。降りる準備をしたほうがいいよ」
後ろの三人に促した。
俺も手持ちの火器、89式小銃を点検し、ハンビーから降りた。俺の今の武装は89式小銃と9mm拳銃、それと手榴弾が二つだ。火炎瓶は響夜が持っていってしまった。俺達が所属していた部隊は銃器などが統制されていなかったので、好きなやつを配給してもらっていた。たしか響夜はベネリM3など、自衛隊では規格外の物も持っていたと思う。
後部座席から降りてきた三人もそれぞれの武装に身を包んでいる。寛人君は俺と同じ9mm拳銃を腰に差し、矢島さんは警察で正式に採用されているタイプのものを。阿久津さんは角材だ。
阿久津さんは緊張した面持ちで、角材で素振りをしている。矢島さんはボクシングのシャドーをやっていた。奴らにボクシングが通用するのかどうかは分からないが、彼の腕力があれば並大抵の奴らの頭蓋骨くらい、砕ける気がする。
寛人君はというと……、なぜか屋敷の方を睨んでいる。しかもかなり真剣な顔で。
「どうした?何か気になることでも?」
俺は疑問に思い、尋ねた。寛人君は我に返ったようにこちらを見て笑顔を見せる。
「あ、いえ。少し気になっただけです」
「何がだい?」
「視線、です。あそこの窓に人影が見えた気がして、ずっと睨んでたら視線を感じたんですよ」
「? 生存者かな?可能性は高いと思うぞ。この規模の屋敷には自家発電のシステムも備わっているはずだ。食糧を保管する冷蔵庫だけなら一ヶ月くらいもつだろう」
「そうだといいですね。僕の腐れ縁の友人かもしれませんし」
寛人君は昔を思い出しているような口調で言った。
「どんな関係だったんだい?」
俺もつい尋ねてしまう。
「いえ……、言うならば主人と下僕ですかね。まあ、細かい話は後にしませんか?」
「あ、ああ」
なんだか聞いてはいけないような関係の気がした。SM趣味でもあるお嬢様だったのだろうか? おっといけない、想像してしまった。
俺は脳内に浮かんだ鞭で叩かれる寛人君とにし○かす○こみたいな衣装に身を包んだお嬢様を追い払い、四人で歩調を揃え、屋敷へと歩みを進めた。
屋敷内はやっぱり豪華な作りだった。
シャンデリアなどはもう普通で、壁にはゴッホとかいう画家の絵も飾ってあった。どうやら本物らしい。レプリカだが、モナ・リザもあった。描いた人は……誰だか忘れてしまった。
こ○はゾ○ビですか?魔装少女の変身呪文なら覚えているんだが。
とにかく豪華なので、俺達は美術館でも見学するような感覚で屋敷の本館を探索した。二階まではそれでよかったのだが、三階からは俺と阿久津さんのグループと寛人君と矢島さんのグループに分かれて探索することになった。
この本館は五階建てに見えていたのだが、実際は六階まであることが落ちていた見取り図から判明している。二つに分かれたグループは六階に通じる大階段で合流することになっている。
三階だが、この階は特に際立ったものは無かった。必要性はないのだが、BL漫画が落ちていたのが気になった。阿久津さんは全く気付かなかったのだが、俺は異様に気になった。一体、誰の趣味なのだろう?
四階には初めてともいえるものがあった。
それは損壊していない死体だ。
「ひっ!!」
阿久津さんが驚きのあまり尻餅をついた。俺は顔こそ顰めたが、怯まず近づいた。響夜は顔を顰めもしないのだが。
見たところ、死体は住み込みで働いていたベルボーイだったらしい。死因は自殺だろう。近くに空っぽのコップと薬品らしき空き瓶があった。
理由は明確。奴らが現れ、仲間が喰い殺されたことにより精神的に限界を迎えたのだろう。遺書などはない。衝動的なものか。
俺は依然、腰を抜かしている阿久津さんを起こして告げた。
「行こう。今は供養してやる暇もない」
「――は、はい」
かなりショックを受けているようだ。無理も無い。
「でも、一つ分かる事があった」
「? なんですか?」
「奴らが現れた原因がウィルスだとしたら、もう空気感染はないらしい。そうじゃなかったら、コイツは屋敷の中を徘徊していたはずだ」
俺は分析の結果を阿久津さんに言う。
「それは喜んでいいこと?」
「ああ。もちろんそうだよ」
俺は阿久津さんの腕を取り、五階へと進むことにした。
五階も特に変哲はない。見取り図によれば、この階のど真ん中に六階に通じる大階段があるらしい。しかも六階には一部屋しかない。恐らくこの屋敷の主人の部屋だろう。
ここまで、寛人君がいっていたような視線や気配は感じることが出来なかった。彼の思い過ごしなのかも知れない。長い廊下を阿久津さんを庇う形で歩いていると、向こうから人影が見えた。
「おーい、準一さんですかー?」
寛人君の声だ。どうやら合流できたらしい。俺達も速度を上げ、二人の姿を確認する。大きく開けている広間で俺達は合流した。その大広間には上へと続く階段がある。その階段は上った先が直ぐに大きな扉になっている。
「無事で何よりです。そちらは収穫が何かありましたか?」
「特に無いな。ここで働いていた人間の死体なら発見したが……」
「こっちも特になしです。誰も居ませんでした。やっぱ、僕の感じた視線は気のせいだったのかな?」
「そうかもしれない。後は六階を見て、宿泊棟の方を探して終わりだよ」
実はというと、本館の捜索は生存者探しの意味で行っていた。食糧などは恐らく別の棟に保管してあるのだろう。
「よし、じゃあ六階に……」
矢島さんが何時もの調子で声を放った瞬間だった。
それを遮るようにギィー、という扉が開く音が大広間に響き渡った。
俺達の反応は素早い。俺は瞬時に89式小銃の銃口を音がした六階の扉へと向けた。矢島さんも俺に続く。寛人君はというと、阿久津さんを庇う形で拳銃を構えていた。
一秒……二秒……三秒…………何も起きない。
攻撃などは一切無いが、代わりに人影が階段の上に現れた。背は低い。
「あらあら?我が西園寺家の本宅に堂々と忍び込む輩が居たのかしら?」
高飛車で威圧的な声。お嬢様といった感じがいかにもする。
少し緊張を解き、俺も問い掛けてみる。
「この屋敷の生き残りか?なら話がしたいんだが」
俺の質問を聞いた少女は、
「ぷふっ!不法侵入の分際で私と対等に交渉するつもり?」
「ここは君の屋敷なのかい?」
「う~ん、正確にはお父さんのかなぁ?でも今は居ないから私が家主さんなのよ」
「家主さんならお願いします!食糧が無くて困ってるんです!」
寛人君が大声で叫ぶ。その声に少女が僅かに反応した。
「ひ、ろと?まさか逢海寛人なのかしら?」
「……そうです。できれば気付かれたくなかったんですけどね……こんなとこで再開するのも御免だったというか……」
「おい」
ん?いきなり少女の声が低くなったぞ。どうやらこれが寛人君の知り合いらしい。
「貴方、私の下僕だったわよね?」
「昔、ね」
「今もよ!」
「すいません……」
少女は寛人君を一喝し、自分が来た方向へと引き返していった。
「着いていらっしゃい」
一言だけ告げた。
どうやらOKらしい。寛人君が居てくれてよかったと思う。本人はゴキブリを踏み潰した後のような顔をしているが。
とにかく少女の後を追うことにした。
六階の部屋は少女の私室らしい。壁にはアイドルのポスターが大量に貼られていて、机の上には如何にも女の子らしい装飾品が飾ってある。高級な貴金属が多いのは、金持ちだからだと言う事は言われなくても分かる。
今、俺達はそんな部屋の真ん中に置かれているソファーに腰掛け、少女と向き合っていた。少女の名前は西園寺雫というらしい。西園寺といえば、有名な自動車会社だ。西園寺モーターズとかいったけ。
「で、貴方方は食糧が欲しいのね」
西園寺雫は少し服を着崩していた。自室だということもあり、気を抜いているのだろう。
「俺達は律明学園に多くの避難民と一緒に避難している。今はこの暑さで食糧がやられてしまったんだ。全員の飢え死にを避けるためには大量の食糧の確保が必要なんだ。頼む……協力してくれ!」
俺は頭を下げた。雫は暫く、こちらを無表情な瞳で見つめていたが、
「……いくつか条件があるわ。それを呑んでくれるなら、この屋敷に備蓄してある大量の食糧をあげるわ」
「俺達が出来る事なら構わない。どんな条件でも呑もう」
雫はそこで笑みを浮かべた。
「ん~、まず一つ目。私の趣味関係の物品を学園内に運ぶ許可を出してくれること。部屋もお願いするわ」
「その程度ならOKだ」
「二つ目ね。そこに居る逢海寛人の所有権を私に譲ること」
「ええ!?それはm「承知した」」
俺は寛人君の言葉を遮って、了承した。寛人君はなにやら悲壮な瞳をこちらに向けているが、涙を呑んで無視する。
「じゃ、交渉成立ね。家には大型のトラックが数台あるわ。それを使いましょう」
雫は立ち上がり、部屋を出て行った。
俺も安堵の溜息を吐く。
「これで食糧確保だ。何とかなって良かったよ」
しかし寛人君は恨みの篭った視線でこちらを睨んでくる。
俺はある一言で寛人君を納得させることにした。
「ま、皆の命を繋ぐためだ。諦めてくれよ♪」
さあ、後は学園に食糧を持ち帰るだけだ。
活路が見えてきたんじゃないかな。響夜の回収も忘れずにしないとな……。
俺はこころの中で笑い、ソファーから立ち上がった。
ご意見・ご感想をお待ちしてます。
誤字脱字などのご報告もどうぞ。
次回は一行が学園に戻った後の話になる予定です。




