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逢海寛人 7月11日 午前10時32分 渡良瀬市 私立律明学園

次回からは少し時間が進みます。

何時までもゆっくりやってると、グダグダになるので。

 翌日になって、僕と雅人と洋一は響夜さんの許可を取ってから市街地へと向かった。もちろん、護衛として響夜さんは着いて来てくれることになったが、昨日と比べて大分奴らの数も減っていたために気分は楽だった。かと言って、油断も出来ないのだが……。


 僕らが市街地に行く理由は、着替えの調達だ。


 二日間、同じ学生服を着ているだけあって、今の僕らは相当汗臭い。自分では中々気付かないものだが、今日の朝食時に鈴に指摘され、気にするようになった。着替えを調達出来たら、学生服は洗うつもりだ。本当だったら、クリーニングにでも出すところだが、生憎この状況では不可能だ。


 僕は懐に一昨日、響夜さんから貰った拳銃をしまいこみ、リュックを背負った。ちなみにリュックはこの学園の備品を拝借させてもらった。雅人はリュック以外は何も持たず、洋一は鉄パイプを所持している。洋一は近接武器の方が使いやすいらしい。まあ、僕はどちらでもいいけど。


「準備出来たんなら、行くぞ」


 洋一が僕の背中に声を掛けた。


「ああ、行こう。いい服が見つかるといいな」


「まあな。それよりも俺はノートパソコンを手に入れたいんだけどな」


 雅人が呟いた。


 律明学園のパソコンも使えるのだが、やはり雅人にはノートパソコンのほうがあっているらしい。デスクトップは不便だそうだ。


 現在、テレビでの放送は既に途切れている。

 初日で、首都圏の放送局は全て壊滅したらしく、衛星放送によるラジオか、時々外国のニュース番組が写る。電力については、責任感溢れる警官や従業員が発電所を拠点にしているらしく、供給が続いている。しかし何時まで持つかは分からないので、響夜さんは電力を貯蓄することを考えている。


 地獄のような状況ではあるが、生活面ではそこまで苦労していないのが現状だった。まだ今は……。





 僕らが門を出ると、響夜さんが既に89式小銃を背負って待っていた。


「響夜さんも用事があるんですか?」


 僕が尋ねると、響夜さんは頷いた。


「ああ。渡良瀬市警に乗り捨てられた軍用車両があるんだ。ハンビーっていうんだけど、お前らは知らないよな?」


「名前を聞いた事はあります。それがあれば、何か利点が生まれるんですか?」


「まあ、物資の輸送や、多少のゾンビどもを蹴散らすことくらいは出来るな。それに一昨日、受け取った物資の中にはとんでもない代物もあった……」


「とんでもない代物?なんだそれ」


 洋一が興味が無さそうな表情で聞き返した。


 響夜さんは穏やかな笑みを浮かべて、その代物の名前を口にした。


「ミニガンだよ。分かるだろ?」


「ミニガン!?それって……」


「ああ、その気になれば奴らを一掃出来るかもしれない武器、いや兵器だ」


 僕はその言葉を噛み締めた。


 今はまだ、奴らに殺される心配はない。安全と言えるのかは分からないが、少なくとも死とは直面しない場所で寝起きをしている。武器も食料も仲間も居て、寂しい事や苦しいこともない。

 

 ただそれが何時まで続くか、その保障は何処にもないのだった。

 何時かはこの地獄に飲み込まれるか、それとも安全地帯に逃げおおせるか、二つに一つだ。でも安全地帯が安全だという保障も何処にもない。安全地帯にも奴らが押し寄せてくるかもしれない。


 それとも、奴らを殲滅するか。もしくはさっさと死ぬかだ。


 僕は改めて、現状の厳しさを思い知ったのだった。




 僕らはまず、手近な衣料品店、ユニ○ロに向かった。

 昨日と一昨日の混乱で生き残っていた人も、市街地で物資の回収を始めているらしく、数人の人影を見つけた。もちろんこちらには響夜さんがいて、武器を持っているので近づいてくることはなかった。

 物資を強奪される可能性もあるので、人間とはいえ、油断できないのだった。


 幸いなことに、店内はあまり荒らされておらず、自分の好みの衣料品を選べそうだった。


「これなんか、どうだろう?」


 僕は地味なトレーナーを拝借している雅人に自分の好みの服を見せてみた。


「いいセンスだ。だけどな、この状況を考えようぜ」


 僕の選んだ服は、今から彼女とラブラブデートに行く気か!? と突っ込みたくなるほどの流行のファッションだった。白いワイシャツに、黒の革ジャン、黒いジーンズを履いて腰からチェーンを下げている僕のファッションは、似合う似合わないの問題以前に状況を読めていなかった。


 生きるか死ぬかのサバイバルをしている人間が、世界の終りに直面している中でファッションを気にするのは中々のKYにしか出来ないだろう。


 雅人の目はそう語っていた。


「まあ、いいんじゃね。人の好みってことで」


 中々の不良ファッションをチョイスした洋一が言った。


「お前、ホントに見た感じは不良だな。外見で人を判断しちゃ駄目ってのはマジみたいだな」


 雅人の失礼な感想に、洋一はふて腐れた表情で返した。


「俺は不良じゃねえよ。ただ、世の中に不満を抱いてるだけだ。それにだっせえ格好してたら、女にモテねえし。お前、女に惚れられたことねえだろ?」


「もちろん!俺の彼女は、二次元限定!画面の向こうにしかいないんだ!世界が終っても、この考えだけは曲げない!」


 雅人は堂々とキモオタ宣言をした。


 正直、僕もかなりひいた瞬間だ。

 コイツはオタクだが、まさかそこまで決意が固いとは思っていなかった。


「――――そういや、響夜さんは?」


 僕は一人で熱くなっている雅人を軽い気持ちでスルーし、洋一に尋ねた。


「ああ、ハンビー取って来てから、迎えに来るって」


「そうなんだ。じゃあ、そろそろ出るかな」


「なあ、聞いてくれよ。俺の心に愛があれば、ゾンビだって萌やし尽くせるぜ!だって俺は……」


 僕は雅人を殴りつけた。それも拳銃の銃床でだ。もちろん死なない程度だが、雅人は床に伸びた。


「こいつ、病院に連れて行ったほうがいいんじゃねえの?楽しい病院に」


「ああ、出来たらそうしたいよ。この事態が終息したら、病院に即連行するつもりだ」


 僕らは雅人を背負い、店を出ることにした。


 店から出ると、爽やかな午前の太陽が僕の顔を照らした。道路の向こうから、ハンビーが走ってくるが見えた。何時も賑やかな商店街は奇妙な沈黙に支配され、街自体が死んでいた。


「当分、ここで暮らすことになりそうだな」


 僕は決意した。


 絶対に生き残ることを。そして鈴や皆を守り抜く事を。

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