逢海寛人 7月9日 午前11時27分 渡良瀬第三中学校 三年一組
連投です。サブタイトルがサイレンぽいのは気のせいですよ~
妙に眠い、それもそのはず。今は三時間目、一番僕が眠くなる時間帯だ。
今の授業は数学。教科担任は中村っていうゴツい中年教師だ。今も黒板をチョークで叩きながら、因数分解について、熱弁を振るっている。
「うるさいな……」
その大きな声に嫌気がさし、僕は窓の外に広がる市街地を眺めた。そして目を細める。
「何だ?」
何時も見ている市街地から、何本もの黒煙が立っているのを発見した。どうやら警察も出動しているようで、窓を少し開けてみると、サイレンの音が聞こえた。
その時には火事でも同時に起こっているのかな?家でも気をつけよう、位にしか思ってなかった。
次に僕は校門に目を降ろした。この教室は三階にあるので、ここから校門が良く見える。そして、校門を見て、目を凝らした。
「何してんだ?」
僕が目を凝らした理由、それは開け放たれた校門から数人の男性がよろよろと頼りなく歩いている光景が目に入ったからだ。
「酔っ払いかよ……よくもまあ白昼から堂々と酔えるよな……」
僕が呟くと、その呟きが中村の耳に聞こえたらしく、大声で名前を呼ばれた。
「おい!逢海!」
「ふぇ?は、はい!」
僕は咄嗟に気の抜けた返事を返した。中村はそんな僕を見て、教室に居る生徒全員に聞こえるように、わざと大きな声で言った。
「お前なあ。よくものんびりとしていられるよな?先月のテストの結果を見たのか?」
「見ましたです!はい!」
僕はまるで上官にでも返事をするかのごとく、キリッと言った。
中村は僕を見て、溜息をついた。
「なら少しは勉強しろ!授業を真面目に受けろ!いいな?」
「は、はいです!」
僕は敬礼をして、席に座った。
畜生、全員の前で大声で言いやがって、嫌がらせにも程があるぜ!
僕は心の中で叫んでいた。言い返そうと思えば言い返せる。でも面倒だし、疲れるのでそれはしなかった。これが僕の処世術だ。
僕は再び、酔っ払い?に視線を戻した。丁度、数人の教師が校舎から出てきて、向かっていくところが見えた。
先頭の男性教師がそいつに近づき、話し掛けてるようだった。後ろの教師はその様子を見守っている。
異変はその時起こった。突如、そいつが話し掛けていた男性教師の首に噛み付き、食い千切った。その男性教師は地面に倒れ、悲鳴をあげている様だった。そして、一瞬の硬直を見せ、動かなくなった。死亡、僕にはそう見えた。
「おい!」
僕は遂、叫んで立ち上がってしまった。教室の視線が僕に集まる。
中村が例によって例のごとく、何時もの感に障る声で怒鳴った。
「逢海!お前はどうすれば落ち着くんだ!五十分間位、静かに集中出来ないのか!」
「違いますよ!先生、校門で人が死んでいるんですよ!」
僕の一言でクラスの生徒全員が席を立ち、窓際に詰め寄った。僕は人に押されて、よろめいた。
続いて、中村も窓から外を見てみる。その途端に顔が強張った。
「全員、席につけ!自習をしていろ!先生が様子を見てくるから、教室から出ないように!」
そう言い、中村は教室のドアを勢いよく放ち、すっ飛んでいった。
自習の一言で、教室は話し声に包まれた。皆がそれぞれ雑談を開始したようだ。
今だ窓の外を呆然と見つめていたら、後ろから声を掛けられた。
「なあ、寛人。説明してくれよ」
話し掛けてきたのは同じクラスの三笠雅人だ。
雅人は眼鏡をかけた大人しい短髪の少年だ。その容貌通り、クラスでは大人しく、そして頭がいい。正に僕とは正反対という訳だ。
何故、そんな雅人と僕が友達なのか、それはただ単に小学校一年の時からずっと同じクラスだったからだ。そんな訳で僕と雅人は一番の親友という訳だ。
とりあえず僕は雅人に説明を始めた。
「あの酔っ払いみたいな奴がいきなり話し掛けた先生を噛み殺したんだ。本当だぜ?僕は嘘は吐かないよ。まるで喰い殺されたみたいだった……」
僕がそう言うと、雅人は少し考え込むようにして、頭を垂れた。
雅人が顔を上げると、いきなり自分のバッグから携帯電話を取り出した。
「いいか寛人?今から教室を抜け出す。お前の話が本当なら相当ヤバイぜ」
「分かった」
僕は短く返事をして、自分のバッグから携帯電話とカッターを取り出した。役に立つかは分からないがあって損はしないだろう。
それらを学生服のズボンのポッケに入れ、教室のドアに手を掛けた。
「待ちなさい」
静かな声が後ろから飛んできた。
僕と雅人が振り返る。そこに居たのは予想通りの人物であった。
「何処に行く気?教えて?」
それは生徒会長の佐倉鈴であった。黒の長髪のストレート、整った顔立ち、普通の美少女だ。
鈴はそのまま僕たちに近づいてきた。正義感の強い彼女は自分達の行動が気になるらしい。
「何処に行くの?言って」
観念した様に雅人が説明した。
「逃げるんだ。寛人の話が本当なら相当危険な状況だ。混乱が起こる前に安全な場所に閉じこもる」
「閉じこもる?外に逃げた方が安全じゃ?」
僕の質問に雅人が落ち着いた調子で答えた。
「いいか?奴らは校門から入ってきた。なら外の様子が確認出来るまで中に隠れた方が安全だ」
雅人の答えに僕は頷き、ドアを開け放った。雅人が廊下を確認する。
「よし、行くぞ!」
「待って!」
鈴が後ろで叫んだ。
僕が尋ねる。
「何?」
鈴は自分のバッグから木刀を取り出した。鈴は剣道部なのだ。
鈴は僕たちの横を通り、廊下に出た。
「私も連れてって。お願い。ダメ?」
ほんの少し色気を含んだ声に僕らは戸惑った。雅人が頷いた。
「人は多い方がいい。一緒に行こう」
鈴が嬉しそうに頷く。教室の窓から様子を眺めていた生徒が声を上げた。
「何だ!英語の芳川が体育の山田を喰い殺したぞ!」
「殺人よ!」
その声に三人は顔を見合わせた。
雅人が二人に僕と鈴にむかって言った。
「時間が無い!急ぐぞ!」
僕は頷いた。鈴も同じように頷く。
ここに三人のトリオが結成されたのだ。僕たちは廊下をなるべく静かに走りだしていった。
地獄へと向けて……
いきなりキャラが二人増えましたね。
メンバー構成が学園黙示録と同じなのは気のせいです。
ご意見、ご感想、アイデアなどお願いします。
誤字・脱字のご報告もお願いしますね。