橘響夜 7月10日 午前9時00分 渡良瀬市 市街地
俺は今、渡良瀬市の駅前の商店街にいる。
来た理由はもちろん食料などの調達だ。しかし俺はそのことを忘れるほど、不思議な光景を目の当たりにしている。
「どういうことでしょうね?」
「……さあな」
俺は松山の質問に味気なく返した。
昨日、商店街に溢れかえっていた奴らは一匹も居なくなっていた。見事に、神隠しのように消えてしまった。あるのは昨晩、ここで戦っていた警官、自衛隊の死体ばかりだ。何故か、民間人の死体は無かった。恐らく、喰われたのだろう。
「まあ、居ないほうが都合がいい。まずはそこのコンビニから始めるかね」
俺は駅前の商店街で、何時も立ち読み客やホームレスが屯うコンビニから食料を拝借するつもりだった。ショーウィンドウが割れている店内は昼間なのに薄暗い。
俺がコンビニに入ろうとすると、後ろから肩を叩かれた。
「どうした?」
俺が振り返ると、準一がコンビニの前に打ち捨てられていた車の陰を指差した。
そこには昨日、散々暴れまわっていた奴らの内の一匹が車のタイヤに持たれかかるようにして座り込んでいた。
「どうやら、居なくなったという訳ではないみたいだな」
「死んでるんですかね」
松山が89式小銃を構えたまま、そいつに近づいた。松山が銃口をそいつの額にぶつけてみた。するとそいつは目を見開き、松山に飛び掛った。
俺は間髪いれずにそいつの頭を撃ち抜く。そいつは地面に仰向けに倒れこんだ。死んだらしい。
「……ビビりました。死んではいないんですね」
「寝てたのか?」
「おいおい響夜。ゾンビって寝るのか?」
準一のもっともな質問に俺は首を傾げて見せた。
「奴らだって一応、脳は活動しているんだ。寝ても不思議じゃない。それに俺はこいつ等の生態を知っているわけじゃないからな」
「この原因はウィルスなんだよな?」
「恐らく、噛まれるとウィルスが血管から体内に入って、感染するんだろう。ウィルスは奴らの唾液の中に含まれているんじゃないか?」
「まるでゲームだな。もう、バイ○ハ○ード見て笑ってられないぞ」
俺は準一の性に合わない冗談に苦笑した。
「俺も昔、バ○リアン見て笑ってたな」
「隊長、趣味が古すぎますよ」
松山の冷静な突っ込みで、俺は真顔に戻った。
俺は入り口のガラスを割って、店内に入った。入り口が閉まっていたにも関わらず、店内には三匹程のゾンビが蹲っていたり、棚に持たれ掛かっていた。
「準一、奴らを始末してくれ。俺は他にも居ないか、確認してくる」
俺はそう言って、入り口から雑誌などが置いてある窓際に沿って歩いた。飲料品コーナーには特に異常はない。
昨晩、トイレにも居た事を思い出し、確認したが幸いなことに居なかった。
「クリア。物資を持ち出すぞ。松山はバスをこのコンビニの前まで持ってきてくれ」
俺は入り口で待機していた松山に指示を出し、飲料品を手当たり次第にダンボールに詰め込んだ。雑誌も一応、積んでおく。この状況でコンビニ弁当やおにぎり、パンといった食品は直ぐに傷んでしまって実用性がないので、放置しておいた。もう腐ってしまっているのも多かった。
インスタント食品などは残さず詰め込んだ。日持ちがいいし、何よりも軽くて調理が楽だ。その他にも日持ちが良さそうな食品は全て積み込んだ。
日用品としてはやはり乾電池だ。これもある分は全て回収することにした。
これらをバスに積み込んだ俺達は更に何軒かの雑貨品店を見て回った。大抵の日用品は必需物資などで回収する。しかし生憎、この市には猟銃店などの類は無かった。
「なんか、バスが一杯になりましたね」
松山がバスに詰め込まれた品物を見て、呟いた。
「そうだな。律明学園に戻ろう。もう午後だしな、それにやることはまだ残っている」
俺はバスのアクセルを踏んで、出発した。
人気の無くなった商店街は不思議なほど不気味だった。世界の終わりはこんなものなのかな、俺はそう思いながら、ハンドルを握る手に力をこめた。
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